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121.ヒメ お店の確認をする


 「わたしも行きます。何時にヒメさんの家に行けばいいですか?今日は、後片付けと売り上げの確認があるので、夜遅くなら行けますよ。」

 「明日の朝でいいから。ゆっくりおいで。」

 ファリナとミヤが、指輪を買いに行くと大騒ぎ。それを聞いたリリーサも行くと張り切っている。

 「ただし、明日絶対にそのお店の店長さんがいるとは限らないからね。」

 「だらしない店です。店長があちこち出歩いていて留守がちだなんて・・・あれ、なんだか胸が痛いです。」

 ブーメランが刺さったリリーサがうずくまる。またかい。

 「そういえば、明日も休みにしてなかった?」

 「代金を払えない方が出ると思って、支払いの日に当てていたんですけど、ここまできっちり談合されるとは思いませんでした。1日空いてしまいましたね。どこかに何か狩りに行きますか?」

 「行っておいで。わたしたちはちょっと用事があるから。」

 「騙されるところでした!騙されませんよ!わたしたちも行きますからね!」

 勝手に話を振ってきておいて、なぜわたしが怒られる。


 明日の昼頃、わたしの家に来ることを約束したリリーサと別れて、わたしたちは自宅へ向かう。

 「お金も入ったし、晩ご飯は外食にしようか。」

 「さっきまで、リリーサに感化されてお金は考えて使うとか言ってなかった?」

 ファリナが意地悪く笑う。

 「たまの贅沢くらいいいでしょ。久々の3人だけだし。」

 何日ぶりだろう、3人だけなのは。

 「ちょっといいお店に行こう。大衆雑誌とか置いてなさそうなところ。」

 ミヤにこれ以上いらない知恵をつけないですむ所がいい。

 「本は勉強になる。ヒメ様も少し読むべき。」

 役に立つことならいいんだけどね。

 「その前にロイドさんのところへ行こう。」

 「国王のことなら進展があれば連絡来るでしょ。こちらからわざわざ行かなくてもいいんじゃない。」

 「明日行くアイテムショップの確認。違法とか問題あったら後々面倒でしょ。領主にちゃんと話が通っているか確かめておかないと。」

 「あぁ、ギャラルーナ帝国のお店だったもんね。」

 帝国の名前は、この国じゃほとんど聞くことはない。お隣の国ならともかく、それを飛ばしてこの国で商売する理由がわからない。


 「届け出は出ている。ギャラルーナ帝国からも申請は来ているし、国王様もお認めになり、よろしく頼むと親書もいただいている。私としては拒む理由もないし、逆に目をかけてやらなくてはいけない。なにせ、国王様から頼まれたのだから。」

 そうは言っても面倒そうだということはロイドさんの顔を見ればわかる。

 「なぜ私の領地なんだ・・・」

 「今までエルリオーラ王国ってギャラルーナとは通商はあったのですか?つまり貿易ですね。」

 「もちろん近隣諸国だ、それほど大きくはないが貿易はあった。だからこそ今回の許可が出ている。いろいろ噂の絶えない国だが、仲良くしておくに越したことはない。」

 「そんなに噂があるの?」

 「ヒメは興味ないもんね。たまに聞くのは、隣の国に戦争しかけて領土を拡張したいとか、農林水産の資源が欲しくて隣の国に攻め込みたいとか、後は・・・」

 「ダメダメじゃん。っていうか、そんな余裕あるの?魔人族を差し置いて。」

 ファリナの説明にめまいがする。何、その戦争したい症候群は。しかも、相手は同じ人間って、正気を疑うわ。

 「年に数回以上魔人族と戦っている。この国と変わらない。他国と戦争している余裕などない。だからこそ噂で終わっている。それに、今の女帝に変わってから自国民に対しても、対外的にもかなり融和政策を行っている。バカな事をしでかす心配がない。だからこそ少しでも友好関係を広げるための今回の商店開設の許可だ。」

 「あのお店で買い物したいんだけど、心配はないってことだよね。」

 「むしろ買い物してやってくれ。入ってくる情報だとあまり売れていないと聞いている。売れなさすぎて引き上げられたら、この国の沽券にかかわる。」

 国のプライドはどうでもいいけど、安心して買い物できるならいいや。

 「ロイドさんは何か買ったの?」

 「開店してすぐに行ってみた。収納のポシェットを買おうかと思ったんだが、あれはそれなりの魔力が必要とかで、誰でも使える物じゃないんだそうだ。私では使えなかった。うちではフレイラが使えたからフレイラに持たせている。」

 そうなんだ。ファリナは使えたからいいけど、そんな説明なかったよね。あの女店員め。

 「どの商品を見ても、それなりの魔力が必要らしくてな。あれでは売れないだろうと心配していたんだ。お前たちなら使えるだろう。たまにでいいから何か買ってやってくれ。」

 「それはいいんだけどあのお店、地味に値段が高いんだよね。」

 わたしたちが買おうとしている指輪だって、宝石がついているわけでもない、石なのか金属なのかわからないものが金貨2枚からとか、庶民には手が出しにくい値段なんだよね。あれではなかなか売れないでしょう。

 収納の付与がついたポシェットなんかはハンターにいいけど、金貨10枚とか普通のハンターが飛びつく値段じゃないし。

 「それでも人を雇ってやっていけてるのならいいんだけどね。まぁわたしとしては、所詮は他人のお店だからどうでもいいんだけど。」

 気にしてもしょうがない。

 ただ気になるのは、3日前に行った時、売れた商品が3つとか言ってたよね。フレイラが買って、ファリナが買った。あと1つって誰が買ったんだろう。なんか気になる。


 とりあえずの心配事はなくなり、フレイラも珍しく私用で出かけてるとのことなので、騒ぎにならないうちに帰ろう。

 「国王様からの手紙が届いたら至急知らせる。なるべくなら領地内にいてくれ。」

 「まぁ無理だとは思うけど努力はするよ。わたしたちも面倒事はさっさと終わらせたいからね。」

 好きでいないわけではないんだから勘弁してよ。


 マイムの町に戻って、晩ご飯。初見の小奇麗な食堂に入って見た。雑誌はやっぱりあって、ミヤが食い入るように読んでいる。おかしなことが書いてありませんように。

 家に帰り、居間の布団を片付ける。久々に寝室で眠れる。

 ベッドに横になると眠気が襲ってくる。ウトウトしながら、頭にいろんなことが思い浮かぶ。

 「ギャラルーナ帝国で魔人族と戦争が起きるかも、か。国境線近くってことは、ガルムザフト王国にも影響でるかもね。」

 「最近、魔人族に出会う確率が高いのって何か関係あるのかしら。」

 ファリナも目がうつらうつらしてる。

 ミヤはもう寝息をたてている。

 「ま、わたしたちにケンカを売ってこないのなら、関わるつもりもないからどうでもいいや。」

 「いいの?」

 「いいの。大体わたしたち3人だけで何ができるっていうの。」

 それ以上はファリナも何も言わない。

 そのまま眠りの中へ落ちていく・・・


 「れ、らんれひあがふぉっぺらひふぁってうのはら?」

 「ヒメ様、何と言っている?」

 わたしのほっぺたを引っ張っていたミヤの手を引き離す。

 「で、何でミヤがほっぺたを引っ張っているのかな?」

 「リリーサがずっとやっていた。面白いのか確かめたかった。」

 「で、感想は?」

 「わからない。もう2,3回やればあるいは・・・」

 不許可です。

 朝ご飯を食べ終わると、ファリナがテーブルの上にこぶし大の袋を置く。

 「何これ?」

 「金貨50枚入ってる。今日の買い物のお金。」

 「わたしが持つの?」

 「ミヤとわたしも50枚持つから。ヒメはそこからミヤとわたしの分払ってね。わたしたちは、2人でヒメの分払うから。」

 「いや、あの指輪金貨3枚でしょ。多すぎない?」

 金貨3枚ならシャツのポケットにでも入れておけばいいじゃない。

 「万が一のためよ。あの店員あてにならなさそうじゃない。店長に会って、いきなり指輪金貨10枚です、とか言われてもいいように多めに持っていて。あ、もちろん余ったら返してよ。資金に入れるんだから。」

 まぁ、確かにどこまで信用していいのかわからない店員だったけど、商品の値段は間違えないんじゃないかな。

 「念のために残りの金貨もミヤに持たせてあるから。さぁ、勝負よ。」

 残りって、12.000枚から今渡された分を引いた残り?いやいや、この家だって中古だったけど、金貨1.000枚で買えたんだよ。家より高い指輪ってあるのかな?

 「ある・・・らしいのよ。信じられない逸品が。だからね、念には念を入れておくに越したことはないの。」

 「いや、家より高い指輪なんて、わたしいらないからね。」

 「ミヤを悲しませる気?あんなに喜んでたミヤを裏切れるの?」

 それを言われるのはちょっと辛い。

 「ヒメ様が嫌ならミヤはいい。」

 悲しげに笑うミヤ。

 グホッ!罪悪感で膝から崩れ落ちる。おかしい。無茶振りをされているのはわたしの方なのに、何でわたしが悪いみたいに感じるんだろう。

 「わ、わかったよ、ミヤ。たとえ全財産はたいても買おう。」

 「そこまでする気はないけどね。」

 「それはさすがにバカ。」

 あれ、何だろう、この温度差。なんか意地でも買うって雰囲気になってなかった?

 「あの店員が金貨3枚って言い切ったんだから、金貨3枚で押し切るわよ。まぁ、このお金は保険ね。」

 いざとなったら燃やすか、お店ごと。国際問題だけど、ロイドさんに任せればいいよね。


 ドアがノックされる。

 「リリーサ来たね。まだずいぶん早いけど。」

 ドアを開ける。外に立つリリーサとリルフィーナ。

 「早かったわね。まぁ入って。」

 2人を家の中に。

 「おいていかれたら大変です。そんなことになったら、わたしこの近辺の家を、ヒメさんの名前を呼びながら破壊してしまうかもしれません。」

 脅しが悪辣になってきたね。

 「そんなことをされたら、わたしリリーサの名前を叫びながらガルムザフトの王宮に突入しちゃうかも。」

 「構いませんよ。何なら手伝いましょうか。」

 平然と答えるリリーサ。

 「やるならうちの国にして。」

 「ファリナさん、よけいな事言わないでください。話がまた最初からになるじゃないですか。」

 リルフィーナの言う通りだよ。がんばって納得しようとしてるのに。


 「考えるのもめんどくさい。出かけよう。」

 わたしたちがソファーから立ち上がった時、ドアがノックされる。

 「他に誰か来る予定あった?」

 「居留守よ。今日はよけいな事に関わっている余裕はありません。」


 「いるのはわかっています。あきらめてドアを開けなさい!」

 フレイラだった。あぁ、嫌な予感。

 やってきたのはフレイラとエミリアだった。フレイラの護衛ってマリシアじゃなかったの?

 「ごめん、フレイラ。これから出かけるの。帰ってからでいいかな」

 ファリナが笑顔で話しかける。

 「申し訳ありません、ファリナお姉様。丁度全員いますね。お父様がお呼びです。至急家まで来てください。」

 「殺す!」

 「殺す!」

 「殺す!」

 「どうでもいいです。」

 ファリナ、ミヤ、リリーサの怒号とリルフィーナのあきらめ声。

 「お使いに来ただけなのに、生命の危機です。どうなってますか、この家は?」

 フレイラがジタバタ喚く。

 「国王様絡みの案件です。至急おいでくださいと旦那様が。」

 一切を無視してエミリアが告げる。

 「国王許すまじ!」

 「抹殺ね、抹殺よ。」

 「確実に消します。」

 エミリアの言葉に怒り倍増の面々。委細構わずエミリアが続ける。

 「国王様はどうでもいいですけど、旦那様がお呼びです。お急ぎください。」

 あいかわらず国王の扱いがおざなりだよね。どれだけ人望ないんだろう・・・






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