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120.リリーサ お店を開ける


 ゴルグさんの作業場で、ブラウンヘアーボアの毛皮を乾かして、わたしたちは再度リリーサのお店に戻る。

 午前中で閉められたお店の扉には、『明日は特別品のみ販売』との張り紙がしてあった。

 「数が限られていますから、肉は数量限定、人数によってはクジ。毛皮はクジで販売します。定価を決めたので止むを得ません。例の草に関しては予約分だけです。」

 例の草言うな。頭痛い。

 「金額が金額なので、明日払えないお客様は、予約という形で商品を取りおいて、あさってまでにお金を用意してもらいます。予約をキャンセルしたお客様とは2度と会うことが無くなりますが、それも縁。仕方ないでしょう。」

 商売の世界はシビアだなぁ。まぁ、人間信用が大事だよね。

 「さらに、お客様の威圧用に、お店の前に木を運んで植えてもらいました。」

 今朝から気にはなっていたのだが、たしかに、この前までは見なかったけっこうな大木が、お店の前の通りに生えていた。

 「お客様が騒いだら、ミヤさん、まずはこの木を捌いてください。表では火気厳禁なので、ヒメさんが燃やす時は、お店の裏側でお願いします。ただし、周囲に迷惑をかけないようお願いしますね。」

 まぁ、対人なら<豪火>で十分だから、ギリギリ周りには迷惑かけないと思うんだけど。

 「小規模な魔法使えないんですか?」

 「跡形もなく燃やすとなると、それなりの威力が必要になるんだよ、リルフィーナ。お店の裏に人の形をした炭が転がっててもいいなら考えるけど。」

 「勘弁してください!」

 「かまどや暖炉で使えるよ。」

 「許してください!」

 リルフィーナが土下座しそうな勢いだ。


 お客対応の説明を聞いた後、お店に入る。

 「さて、商品を並べます。肉は明日来てから並べるので、ヒメさんたちは毛皮を並べてください。わたしは別口を並べますので。リルフィーナ、指示をお願いしますね。毛皮は奥のガラス戸のついた棚に並べてください。」

 奥のレジ横に、わたしの背より若干高さのあるガラス戸のついた棚がある。普段は使われてないけど、こういう時に使うんだ。

 リルフィーナが、レジの下の引き出しから鍵を出し、棚を開ける。

 「ハンガーに掛けて、並べてください。左からパープルウルフ、レッドウルフ、レビウルフ、ブラウンヘアーボアの順にお願いします。」

 リルフィーナの指示通り、毛皮をハンガーに掛け、棚に並べる。


 ふとリリーサを見ると、お店の横側にあった棚を収納にしまい、その場所に以前見た事のある、レジ付きの机を収納から出す。前回同様、妙な笑いを浮かべながら、机の引き出しに収納から出した何かを並べだすけど、こちらからは机の上の物に隠れて見えない。ま、見なくても何入れてるのかわかるけど気にしない。気にしたら負けだ。


 毛皮と草は並べ終わった。明日は通常商品は売る予定がないそうだ。

 「そういえば、ミロロミのお客が来るんじゃなかったの?後、ミヤの。」

 嫌そうな顔でわたしを見るミヤ。

 「ミヤさんのお客様はどうかわかりませんけど、ミロロミのお客様には申し訳ないのですが、明日は物が物ですので、ご遠慮願うことにしました。なので、ミロロミもお休みです。」

 それもそうか。以前のような灰色狼とかならいざ知らず、明日の商品って、貴族御用達の問屋くらいじゃないと買えない商品だもんね。

 「ここの冷蔵庫は冷やすだけで冷凍はできないので、肉は明日並べます。そして、お店にはトイレはありますけど、お風呂がないので家に戻ろうと思います。ミヤさん、明日まででいいので、防御の魔法を家にかけていただけますか。」

 「また後からここに帰ってくるの?」

 リリーサの家で、ご飯食べて、お風呂入ってまた戻ってくるのか。

 ファリナ、ミヤ、リリーサが白けた目でわたしを見る。

 「休憩室ですが、テーブルを除けたら十分な広さがありました。くっついて眠れないなら意味ありませんから家で寝ます。ミヤさんお願いします。」

 「ん、わかった。」

 ミヤがお店の表の壁を爪で引掻き出す。

 いや、ちょっと待って。

 「え?ここで寝るんじゃなかったの?」

 「今説明しました。面白くないので家でいいです。」

 「お風呂入った後で戻ってくるのめんどくさいもんね。」

 ファリナまで?

 「普通に寝るのならどこでもいい。」

 さらにミヤ。

 朝から部屋を確認に来るだけの熱量はどこへ行ったのか・・・


 次の日。昼前に空間魔法でリリーサのお店の中へ。

 「さすがに泥棒が入ることはありませんでしたね。では、肉を並べます。」

 お店中央の冷蔵庫を開け、リリーサが氷のピューリー鉱に魔力を通す。ここのは業務用ではないので、リリーサが鉱に触れるとすぐに冷気が流れ出す。

 外から見えないように夜の間、入口にかけられているカーテンをわずかにずらして表を見る。

 「けっこういるね。」

 「前回の噂を聞きつけた王都の商人が増えたのでしょう。貴族とか王族からならいくらむしり取ってもかまいませんよね。」

 20人まではいないと思うけど、前回のパープルウルフの時よりは多そうだ。

 1人前金貨250枚の肉を買おうなんて大バカ者がこんなにいるんだ・・・世も末だわ。

 「それだけ特権階級だけが優遇されて生活してるのよ。」

 ファリナが面白くなさそうにウルフの肉を並べる。

 「大体、リリーサだって、普通にお店をやっていくだけなのに、これ以上の儲けが必要なの?」

 「将来に向けて手を広げます。ここグリューバル領を産業都市にします。」

 それはまた壮大な夢だね。

 「と言っても大したことはできません。農業と水産業に少し投資しようかと考えているだけです。」

 「投資って?」

 「農家や漁師さんがもっと稼げるようにします。いろんな野菜を作ったり、いろんな魚が手に入るようにして、それ専用のお店を作ってそこで売ります。夢で終わるかもしれないけど。」

 まぁ、立派だと思うよ。ずっと寝て暮らしたいと思うわたしよりは。

 「そうしたいのは山々なんですが、ずっと寝ていいと言われたら、ずっと起きないでしょう。ずっと起きないとお腹がすきます。お腹がすくのは大変です。」

 リリーサが何を言ってるのかわからない。なぜ最後までかっこつかないんだろ。


 「お店を開けます。ミヤさん、入り口の前に立ってください。」

 ミヤが家を守っていた防御魔法を解く。入り口のカーテンを開き、扉を開け、店の前に出て立ち尽くす。

 「おぉー、ミヤ様だ、ミヤ様がご降臨なされたぞ。」

 一部からわけのわからない歓声が上がる。

 「ヒメ様、あの一帯を燃やせ。」

 まぁ落ち着いて。あまりに酷いようだったら燃やすから。


 「開店します。前回で価格がある程度決まったので、今回は定価となります。今回販売する商品はこちらになります。」

 お店の入り口横の壁に、商品名と価格が記入された大きな紙を、わたしとリルフィーナとで張り出す。

 「レッドウルフがあるぞ。」

 「ブラウンヘアーボアの毛皮と肉がある。」

 お客の男たちの驚きの声が響く。

 「数量は限定なのでクジ引きになります。肉は1人3人前まで。これから欲しい物の数量を聞きます。販売数より希望が多い場合は、肉もクジにします。何か質問はありますか?」

 男たちが顔を見合わす。

 「レビウルフとパープルウルフの肉はないのですか?」

 1人が手をあげて質問。商品にはレッドウルフとブラウンヘアーボアの肉しかないんだっけ。レビとパープルの毛皮はわたしたちの持ち込みだから肉は考えてなかったなぁ。

 リリーサに腕を引っ張られてお店の中へ。

 「ヒメさん、レビウルフとパープルウルフの肉はまだありましたっけ?」

 「あと10人前ずつくらいはあったはずだよ。」

 「合わせて20人前ですね。お店に並べていただけませんか。」

 「リリーサに譲ればいいんだね。」

 「ヒメさんの売り上げで構いません。」

 「それじゃ、リリーサの儲けにならないじゃない。」

 「儲けは2の次です。商品がないと言われるのは屈辱です。」

 「ない物はないでいいんじゃないの?」

 「ないのならないと言います。けど、今、ヒメさん持ってますよね。あるものをないと言うくらいなら死にます。」

 リリーサの顔がマジだ。

 「出します!出させてください!」

 肉くらいで死なれたらたまらない。商人の矜持なのかな・・・わたしにはよくわからないや・・・

 「保冷庫に入れておくから、リリーサはお客さんに説明を。」

 「正確に何人前ありますか?」

 <ポケット>から袋詰めのレビウルフとパープルウルフの肉を出す。

 「っと、各11人前だね。」

 「わかりました。すべて保冷庫に。ありがとうございます。お礼は、今度魔獣狩る時に手伝いますね。」

 「いや!気にしなくていいから!」

 リリーサと魔獣を狩りに行ってロクな目にあったためしがない。と言うか、リリーサと行くと、魔獣狩りが人魔狩りになるのはいかがなものか。

 「え?それじゃわたしの体で返せ、と。」

 ガタンっと大きな音がした方向を見ると、お店の入口からファリナとミヤが鬼の形相でこちらを睨んでいた。

 「斬るからね。」

 「切り刻む。」

 何、立ち聞きしてるのよ。


 「とりあえず、お客が待ってるから行って、リリーサ。」

 「後で相談ですね。」

 リリーサが表に説明に出たのを見送って、わたしは、保冷庫の空いているところに肉を並べる。ミヤが食べたかったとか言い出さないかな。でも、まだレビとパープルとレッドは解体しないで持っているはずだよね。後、ホワイトとメイルらしきウルフも。まぁ、さっきの話を聞いていたなら、肉を渡したのは知ってるんだろうから大丈夫か。

 お店の外に出ると、お客が紙に何か書いていた。

 「商品の希望数を書いてもらっています。集計して、売れる物はすぐに売ってしまって、さっさと帰ってもらいます。まぁ、おそらく全部クジになるんでしょうけど。」


 ミヤにファリナの剣を持たせて、お店の前で見張り。

 入り口前で、鞘にしまわれた剣を床に突き立てるように持ち、両手で剣を支える。ミヤの身長だと、ファリナの剣だと胸近くの高さまで剣があり、両足を広げて立つ姿は凛々しい・・・はずなんだけど、なんかかわいい。

 その隙に、残りの4人は大慌てでお客の注文書の買いたい商品の数量をつき合わせる。

 「後、確認してないのはどれ?ヒメ、確認した紙を混ぜないでよ!」

 「これは、見ましたっけ?」

 「あぁ!もう、リルフィーナはミヤさんの横に立ってなさい!」

 けっこう大騒ぎだった。


 「今の苦労は何だったの?」

 ファリナが今にも崩れ落ちそうだ。

 わたしとリリーサが、お店の中で相談していて、それをファリナとミヤが懸命に立ち聞きしている間に、買い物に来ていた男たち、つまり商人の間で、談合が成立していた。

 とどのつまりが、競合無しで商品はすべて買い手が決まったのだ。争わないように買い物をして、後はお互いでやり取りする契約ができていた。無論、買った物をどうするかは手に入れた者の自由だから、こちらが口出しすることではない。とは言え、後から出したレビとパープルまできちんと数があってるんだけど、いつの間に相談したんだ。さすが商人という他ない。

 「売れ残りもなかったですし、後は誰が何をいくらで売ろうと、わたしたちには関係ないですしね。もめ事もなかったのですから、よかったではないですか。」

 「燃やせなかった。」

 「捌けなかった。」

 「ヒメさんとミヤさんは、近くの森に行って、狼でもイジメてきてください。」

 わたしとミヤの愚痴をリリーサが軽く流す。

 今回ももめ事がなかった。ただ立っているだけなんてつまらない。


 結局、全部で金貨42.000枚強の売り上げ。

 わたしたちの分が12.000枚とちょい。リリーサが30.000枚とちょい。

 ウルフの肉を後から余分に出した分、わたしたちの分が予定より増えた。

 回を重ねるごとに売り上げの桁が上がってるんだけど、いいのかな、この状況。

 「こんなことはもうないでしょう。貯蓄できるうちにできるだけ貯めておきます。未来のために考えて使わないと。」

 リリーサが立派だ。わたしたちも考えないと。

 「それはどうでもいいのよ。明日、あのお店に行くからね。」

 「指輪♪ 指輪♪ ゆ・び・わ♪」

 ミヤが嬉しそうなのはいいけど、その歌何とかならないかな・・・






あけましておめでとうございます


今年も応援よろしくお願いします

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