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114.ヒメ お店探しで悩む


 「話はつきました。同じデザインで色違いなら買ってくれるということでしたよね。」

 「買ってはあげないけどね。」

 リリーサに引っ張られたほっぺたを擦りながら、わたしはリリーサを睨む。

 朝起きるなりこれだもの。

 「え?では、誰がわたしの指輪の代金払うのですか?」

 「自分で。」

 「マジで消しますよ。」

 「リルフィーナに払ってもらいなさい。そして、あなたはリルフィーナの分を買ってあげなさい。」

 いや、リルフィーナ。わたしの背中に隠れて何言い放ってるの。まぁ、それが正解なんだろうけど、わたしに隠れてる時点で説得力45パーセント減だからね。

 「それでもいいですか。」

 腕を組んでリリーサが考え込む。

 「え?いいの?」

 「わたしの財布を預けます。ヒメさん、代わりにわたしの指輪のお金を払ってください。わたしのお金でわたしの分を払うのです。問題ないですよね。で、財布を返してもらったらリルフィーナの分をわたしが払います。」

 あれ、いや、いいんだよね・・・問題はない、よね・・・なんかよくわからなくなってきた・・・


 朝ご飯のテーブルに着く。

 「リリーサにそう言われたと。」 

 ファリナが搾りたての果汁を飲みながら、ジトッとした目で見る。

 「まぁいいんじゃない。それくらいで納得してくれるのなら。」

 ファリナは納得してるようだけど、実際すでに指輪を買うという目的以外は、理由も経過も全て忘れ去られてるよね。いや、今更蒸し返そうとも思わないんだけどね。

 「明日からはゴルグさんのところへ行ってブラウンヘアーボアの解体、<なんでもボックス>の中に入っているレッドウルフの肉の塊を切り分けてもらうなど、2日がかりの大仕事があります。いろいろな草は何とか予約分は確保しました。なので、今日はアクセサリーショップに行って指輪の下見をしましょう。」

 リリーサが、パンをかじりながらみんなを見回す。

 「「「異議なし!」」」

 ファリナやミヤはともかく、リルフィーナも賛成ですか。

 「なんか採取しに行くって、昨日は・・・」

 「「「「はぁ?」」」」

 「何でもありません・・・」

 あれ、誰も味方がいないぞ・・・いや、いいんだけどね。昨日の今日だから、また何か出そうな森に行かなくて済むのならそれはそれで。


 「いいお店知ってる?マイムじゃ気の利いたお店なんかないし。ロクローサはどうだっけ。」

 「すまん。そういうことにはミヤは役に立たない。」

 「ガルムザフトでは、そうですね・・・」

 なんか、わたしを蚊帳の外にして話が進む。あ、このパンおいしいや。


 「王都ならそれなりのお店があると思いますよ。」

 リルフィーナの一言に全員の動きが止まる。

 「お、お、王都ね・・・」

 ドギマギしだす面々。そう、実は王都は、わたしたちみたいな地方の領民には敷居が高い場所なのだ。なにせ、一生に何度行く機会があるのかというくらい行くことがない。下手したら、一生行かずに人生を終える人だっているくらいに。

 「でもそうね。近々国王に会いに行かなきゃいけないんだから下見は必要かしらね。」

 「そうなると、エルリオーラ王国の王都がいいのでしょうか。」

 みんな(ミヤ除く)不安と期待に顔が引きつっている。

 「リリーサは白聖女時代に行ったことないの?王都。」

 ファリナが尋ねる。

 「ガルムザフトの王都にはないです。王都に行くとしたら、王族の誰かが怪我した時くらいでしょうけど、その場合でも異教のわたしを呼ぶことはないでしょうし、あったとしてもそういう場合は、身分を隠してお忍びで教会にいらしてたでしょう。そもそもが、わたしが自由に外出できる機会など教会が認めてくれませんでしたから。」

 わたしたちと大して変わらないのか。仕事なら外出できたわたしたちの方が自由だったのかな。

 「ギャラルーナ帝国の帝都に、弟君を治療のために呼ばれたことはありますが、あの時は、外の見えない馬車に乗せられて、お城の中まで連れていかれて、帰りも同じ馬車で送ってもらいました。なので、馬車の外の様子はまるっきりわかりません。お城の中なら少しはわかりますけど。」

 なんなんだろう。町の様子を見られたくなかったのか、リリーサを護衛するためなのか、よくわからないな。なんにせよ、お城の中の情報はいりません。

 「男性の直系がいるのに女帝なのね。弟が無能ってこと?」

 「いえ、弟君のバンス様はまだ未成年なのです。成人した後、様子を見て皇帝として相応しければ、姉帝は帝位から降りると言われています。今は姉帝が民衆からの支持を得ていますので、帝位にいることに誰も反対を唱える者はいないらしいです。」

 まぁよその国のことはどうでもいいや。

 「町並みは見たことありますよ。ガルムザフトもエルリオーラも。」

 リルフィーナがパンにかぶりつきながら言う。

 「え?見ただけ?」

 「丘の上から眺めたのですが、どちらも大きくて気後れして街の中には入れませんでした。」

 「べ、別に気後れなんかしてません。たまたま行かなければならない用事がなかっただけです。」

 プイと顔をそむけるリリーサ。

 鋼の心臓のリリーサでも気後れするのか。


 「でも、この面子で王都か。出禁になりそうな予感しかしないんだけど。そうなったら、国王に会わなくてもよくなるのかな。」

 「王都で出禁になるような騒ぎを起こしたら、その前に縛り首でしょうけどね。」

 ファリナがため息交じりにわたしを睨む。

 「王都炎上か。やっぱり国王に会わなくて済みそう。」

 「王都以外にいいところないのかな。ヒメが面倒を起こす未来しか見えないんだけど。」

 「買い物に行くだけで町が大参事とかどこの魔王ですか。」

 ファリナの戯言にいちいち答えなくていいの、リルフィーナ。


 「で、なぜ俺のところの来る?」

 ズールスさんがものすごく嫌そうにわたしたちを見る。

 「それが実の娘を見る目ですか?」

 リリーサがカンカン。

 「面倒以外のものを持ってきてから言え。アクセサリーの店?なぜ俺に聞く?」

 「いやー、知り合いの貴族は、貴族だから無駄に高いだけで大したことない店しか知らなさそうだし、あと、こういうのに詳しそうなのってズールスさんしかいなかったんだよ。ごめんね。」

 悪く言ったけど、パーソンズの家の人には知られたくないので相談できない。マリアさんやフレイラが介入してくる危険がある。

 残った大人の知り合いって、わたしたちもリリーサも、ズールスさんとゴルグさんしかいない。リャリャさんなら何かしらの情報を持っているかもしれないけど、まずはダメもとでズールスさんに聞いてみようという話になった。リャリャさんとは、明日ボアの解体の時に会うので、そのときでいいだろうという理由でもある。

 「女性のアクセサリーなんて10年以上買った事はない。すまないが俺にはわからん。」

 「16年以上でないんですか?」

 リリーサが変な所に食いつく。

 「つまり、母の亡きあと、誰かに何かを送ったと?」

 「い、いや。正確には17年だが、言い方としては10年以上で間違ってはいないだろう。」

 言い訳じみたセリフのズールスさんをジトッと見るリリーサ。


 「こんにちわ。」

 お客さんが来た。邪魔にならないように帰らなきゃ、と、戸口を見るとアリアンヌとユイだった。

 「なんだ、ヒメにファリナにミヤ。それにリリーサとリルフィーナか。いつもここにいるな。」

 「ユイ、ここはリリーサさんのお父様のお店です。いて当然でしょ。」

 「そうか。親子仲がいいんだな。」

 「消しますよ。」

 「あれ?やるんだったらやるぞ。首を落としてやる。」

 どこかへ行ってやりなさい。邪魔です。

 「ヒメさんも剣の確認ですか?」

 アリアンヌが屈託のない笑顔を向けてくれる。この娘、ツンの時とデレの時のギャップが大きくて、その筋には受けがよさそう。

 「なるほど、その筋ですか。うちのミロロミと勝負させてみたいですね。」

 見物人が鬱陶しそうだからやめよう。


 「わたしたちは・・・そう、ミヤの剣がどうなったかを見にね。」

 「わたしたちも毎日来ています。新しい剣が楽しみで。」

 笑いながらユイを見るアリアンヌ。

 「だから、お嬢、まだ2,3日かかるって言われてるんだから、どこかに狩りに行きましょうよ。」

 「できてるぞ。」

 ズールスさんが奥から剣を2本と短剣1本を持ってくる。

 「え?なんでですか?」

 「正直、毎日来られると仕事の支障になる。さっさと仕上げた。」

 ズールスさん、毎日アリアンヌの楽しみな顔を見せられるプレッシャーに勝てなかったんだね。


 「では、これはお返しします。」

 ユイとアリアンヌが、腰のショートソードを鞘ごとズールスさんへ。2人とも剣を造る間、ズールスさんの剣を借りてたのか。

 返してもらった剣を鞘から抜いて、傷を確認する。

 「アリアンヌは剣の扱いがまだまだだな。」

 「うぅ・・・」

 アリアンヌ、ガッカリ。

 「お嬢は剣を扱い始めて、まだ半年ちょっとだもんな。」

 「がんばります。」

 ユイに疲れた笑顔で返すアリアンヌ。

 半年ちょっとってことは、サムザス事変以降ってことか。アリアンヌが家名をはく奪された原因って、やっぱり・・・いや、まだはく奪されたと決まったわけじゃない。よけいな事だろうし気にしない、気にしない。

 「ユイはきれいなものだな。使ってないみたいだ。」

 「あー。あたし、魔法がメインだから使わないんですよ、剣。いや、使うには使うんですけど、もっぱらこっちなもんで。」

 魔人族の剣を持ち上げる。

 ズールスさんの目から光が消える。ガクッと首を落とす。

 「いや、だから言ったんだよ。無理には・・・あー、いや、その・・・すいません。」

 剣を造らなくてもいいって言ってたもんなぁ。

 「まぁ、いい。これがお前たちの剣だ。」

 ユイとアリアンヌに1本ずつ渡す。

 「わー、きれい・・・」

 鞘から抜き、白銀色の刃を見て、満面の笑みを浮かべるアリアンヌ。

 「きれいすぎて使うのがもったいない。」

 「いや、剣なんだから使ってくれ。飾り物じゃないんだ。」

 ズールスさんの瞳に光が戻らない。 

 「アリアンヌが毎日ここに来れば、あの男を精神的に追い詰められるのでは・・・」

 「そして、いつしか愛に変わって、2人は結ばれて、リリーサはアリアンヌをお義母さんと呼ぶことになるんだね。」

 「消しますよ、ヒメさん。」

 「首を落とすぞ。」

 リリーサだけでなく、ユイにまですごまれてしまった。

 「そんな事より、ユイの剣は?」

 些細な事より、剣が気になるアリアンヌ。

 「同じですよ。同じものを2本頼んだんだから。」

 鞘から抜いて見せる。

 「すごい、すごい。」

 アリアンヌが嬉しそう。

 「あれですかね。すぐそこのアーニン橋が転がってもうれしい年頃、ってやつでしょうか。」

 リリーサが何か言ってる。自然災害以外でアーニン橋が転がるのを見れたなら、わたしもうれしいかもしれない。その橋を見たことはないけど。


 「で、ミヤのはこれだ。」

 ズールスさんが短剣を手渡す。

 「おー。」

 珍しくミヤが感嘆の声を出し、鞘から抜く。

 ユイたちのと変わらぬ色の短剣だが、ミヤは嬉しそうにファリナに近づくと、ファリナの剣を鞘から少しだけ引き出して、自分の短剣と並べる。

 「お揃い。」

 「うん、そうだね。」

 「お揃いね。」

 同じ色の刃を比べて嬉しそうなミヤに、わたしもファリナも笑顔で答える。

 「え?なら、わたしだってお揃いですよ。」

 リリーサが短剣を抜く。そういえば、リリーサの短剣もズールスさんが造ったんだっけ。

 「空気を読まない奴。」

 ミヤが零下にまで下がった目でリリーサを見る。

 「3人だけでいい思いはさせませ-ん。」

 子どもか、こいつは・・・

 「ちなみに、わたしもお揃いですよ。」

 リルフィーナまで入ってこないで。


 「ヒメ、リリーサ、せっかく剣が新しくなったんだ。なにか狩りに行かないか?」

 ユイがあたしたちに声をかける。

 「いいでしょう。受けて立ちましょう。」

 リリーサが受けて立つ。いや、ケンカも勝負も挑まれてないよね。

 「あまり奥までは行きたくないんだけど。」

 また人魔でも出てきたら鬱陶しい。

 「試し切りだからな。白の森の奥くらいがいいかな。」

 「それくらいなら。」

 わたしたちは、ズールスさんのお店を出る。


 何か目的を忘れている気がするけど、まぁいいか。






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