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111.ヒメ エアたちと話す


 「うぅ、もうお嫁にいけない・・・」

 体を抱きしめるようにして地面に座り、むせび泣くわたし。

 「うん、大変だね。」

 「それは一大事。」

 他人事のように呟くファリナとミヤ。さらに、リリーサとリルフィーナが・・・

 「家に来ますか?」

 「お姉様、うちでは飼えませんよ。」

 何、その捨て犬扱いは?わたしの扱い酷くない?

 「しかし、ヒメ様のお腹の責任はミヤたちにある。」

 「そう、わたしたちにはエアに文句を言う資格はないの。」

 「すべてはヒメさんのお腹が悪いんですね・・・って、ぎゃぁぁ!」

 「人の事言えるの?見なさい、このプヨプヨを!」

 リリーサの後ろから抱きつきリリーサのお腹をつまむ。

 「け、消します!消しますからね!こんなことしてただで済むと思ってるんですか!?」

 「ヒメさん、そろそろ代わってください。ズルいです。」

 大騒ぎだった。


 「もう、ヒメさんに責任とってもらうしかありません・・・」

 しなだれるように地面に座るリリーサ。呆れた目のミヤ。指をくわえて見るリルフィーナ。そして、巻き込まれるのを恐れて、離れた場所でお腹を隠すようにして立つファリナ。

 「面白いな、お前ら。」

 ケラケラ笑うエア。いや、元凶はあんただからね。

 「すべてを忘れて薬草を探そう。なんか毒草も採取できそうな気がしてきた。」

 すべてがもうどうでもいいや。


 国境近くで、人があまり来ないという話は本当らしく、ここは薬草の宝庫だ。

 と同時に、獣や魔獣も多い。オーク、オーガ、小物ではゴブリン。

 オークやオーガは、人を食べる代わりに、人間にとっても食べられる食材になる。絵に書いたような弱肉強食。ここで焼肉定食のボケはインパクトが小さすぎて使えない。

 「焼肉にできるんだから、そのボケは使えると思うんだけど。」

 「小ボケすぎて笑いがとれないのではないか。」

 ファリナとミヤが検証。

 「何をやっているのですか?」

 「いいところに来た、リルフィーナ。弱肉強食を焼肉定食に置き換えるボケは通用するかどうかなんだけどね。」

 「今更感が大きすぎませんか?」

 「それよりまじめにやってもらえませんか?」

 わかったから、リリーサ、とりあえず右手を降ろしなさい。


 「いや、面白いな。見ていてあきないぞ。」

 エア、あんたも少しは手伝いなさいよ。

 「死ぬときは死ぬんだ。薬など必要なかろう。」

 「簡単に開き直れるほど人間は強くないんだよ。」

 ユイと同じで、魔人族での生活が長そうなエアは、人の機微を理解できないようだ。

 「いつから人族の領地にいるのよ。」

 「いつだったかな。つい最近からだぞ。」

 最近の魔人族の領地では、男っぽいしゃべり方が流行ってるのかな。


 多いとはいえ、そこいら一面が薬草で埋まっているはずもなく、探しながら移動していると、どうも現在位置がわからなくなる。黒の森には、ギャラルーナ帝国の国境の壁がないけど、国境まではまだかなり距離があるはず、の場所に誰か来る。わたしの探知魔法だから何か来るが正確なところなんだけど。

 「おい、ガルムザフト王国のハンターか?国境を越境している。ちょっと調べるから大人しくついてこい。」

 いきなり声をかけられる。

 下卑た笑いの男4人が木の陰から現れ、わたしの目の前に立ちふさがる。あれ、女の子には乱暴なことしないんじゃなかったっけ。これは燃やしてもいいよね。

 「ギャラルーナ帝国の方ですか。久しくしております。エリザベート様はお元気ですか?」

 横から声。リリーサが立っていた。

 「何だ、お前?お前も一緒に・・・」

 「おい!」

 話しかけている男のセリフを別の男が遮る。

 「・・・なんだ?」

 「し、白聖女様だ。」

 「え?」

 わたしとリリーサに話しかけいていた男の顔色が変わる。

 「来いと言うのは、エリザベート様がお呼びと言うことですか?」

 「い、いえ!我々は警備中だったのでありますが・・・も、申し訳ございません!国境線を勘違いしておりました!白聖女様のお仲間とは存ぜず、大変失礼なまねをしてしまいました!お許しください!」

 男たちは顔を青ざめ、直立不動でわびの言葉を述べた後、頭を下げる。

 「ならよかった。バンス様の容体が悪くなったのかと驚きました。」

 リリーサはにこやかに対応してる。知らない名前ばかりだよ。とは言え、ここで聞くのも悪いだろうし。

 「お、おかげさまでバンス様のお体は完治いたしました。その節は本当にありがとうございました!」

 男の顔の汗が止まらない。冷や汗なんだろうけど。

 「でしたら、わたしたちは作業を続けたいのですがよろしいでしょうか。」

 「は、はい!作業のお邪魔をいたしましたことお詫び申し上げます。申し訳ございません。」

 「いえ、みなさんこそお仕事ご苦労さまです。では、気をつけて。」

 「はい。失礼します。」

 機械人形のような動きで、男たちは体の向きを変えると、一目散に逃げてゆく。

 「何なの?あれ。」

 ちなみに、離れたところではファリナが半分剣を抜き、ミヤは鉤爪を出していつでも攻撃できる体制で男たちを睨んでいた。リルフィーナはぼんやりと様子を見ていて、そして、エアは楽しそうだった。


 「ヒメさんが1人だけだと思ったんでしょうね。わたしたちから離れるから危ない目にあうんです。」

 「向こうが。」

 「うん、危なかったよね、あの男たち。」

 ファリナとミヤに斬られそうだったからね。

 「ヒメに燃やされそうだったよね。」

 「お姉様が消してしまうと思いました。」

 「「「「「うん、危なかった。」」」」」

 全員一致。

 「で、リリーサ、向こうの国に顔効くんだ。」

 「あぁ、今の皇帝が女帝エリザベート様、で弟君がいて名前はバンス様。以前馬から落馬して大怪我したのを、白聖女時代のわたしが治してさしあげた事があるのです。危うかったです。わたしが到着するのが半日遅れていたら、神の御許に召されていました。」

 「白聖女の出張ってありなんだ。」

 「一国の最高指導者からのお呼びですからね。まぁ、ガルムザフト国民のわたしには関係ないんですけど。聞いた話じゃ、かなり儲けたらしいですよ、シスターカレンは。」

 ガナープラ神教の司祭だっけ。

 「女帝様に貸しがあります。ギャラルーナ帝国の方は、わたしに頭があがりません。顔も利きますのでエリザベート様とはお話くらいならできますよ。向こうも忙しい身、予約は必要でしょうけど。話します?」

 「遠慮します。」

 「あいかわらず偉い人がお嫌いですね。」

 どうせロクな奴じゃないわよ。偏見込みだけど。


 「ウルフはいませんね。」

 草狩りに飽きたリリーサがぼやく。

 「ぼやいていません。そもそも草狩りってなんですか。草刈りですよ。」

 いや、なんか毒草は『刈る』ってより『狩る』ってイメージじゃない?

 「刈ってないから。採取だからね。まじめにやりなさいよ。目的忘れたわけじゃないでしょうね。」

 え?ファリナ、何だっけ・・・あ、痛い。叩かないで。憶えてるよ、指輪のためだったよね。

 「なんだ、人族の国じゃウルフで指輪が買えるのか?」

 「あのね、エア。ウルフはめったにいない魔獣だから、肉や毛皮は高く売れるの。そのお金があれば指輪だってなんだって買えるの。」

 「指輪と言うのは人族の愛情の証ではなかったか?それを手に入れるのに財が必要なのか?人族は愛情を財で手に入れるのか。意外に世知辛いのだな。」

 「ウグッ!」

 愛情をお金で買うのかといわれ、胸を押さえて倒れるファリナ。

 「ち、違う・・・そうじゃない・・・けど、そうなのかな・・・あれ、何かわからなくなってきた・・・」

 地に四つん這いになってブツブツ言い始める。

 「そういうわけではないけど、証としての装飾品は人族はお金を出さなきゃ手に入らないの。自分で作ったりできないからね。」

 「物をやらんと愛情として認められないのか。心があれば物など必要ないだろう。」

 バリバリ正論ぶつけてくるのやめてくれないかな。反論しようにも心が折れそう。

 「人族は心も体も弱い。心を満たしてくれる確かなものが欲しいのだ。力でしか物事を測れない魔人族に理解できるはずもない。」

 ミヤがわたしの横に来る。

 「そういうお前は?」

 「ミヤはヒメ様のつがい。それ以上でもそれ以下でもない。よって、欲しいものは欲しい。口出し無用。」

 などと、それなりにかっこいいセリフを言いつつも、わたしの腰にしがみついているから、いまいち格好がついてないよ、ミヤ。

 「あの、ケンカですか?ケンカなんですね。ヒメさんを取り合うのですか?なら、ファリナさんも参戦ですね。さらに、わたしもやりますよ。」

 少し離れていたリリーサが混ざりたそう。

 「ケンカじゃないよ。価値感の相違を埋めてただけ。いいから、薬草探すよ。エアもそれくらいでいいよね。」

 「すまんな。わからないことが多すぎて、言うなれば勉強したいのだ。もめたいわけではない。語弊があったら勘弁してくれ。」

 悪びれもしないで笑う。エアの方が正論だからなぁ。気分的には負けたみたいだよ。


 「ほんと、どこにでもいるな、お前らは。」

 ギャラルーナ帝国の国境の方からいきなり声がする。人魔ログルスが立っていた。

 「そのままお返しするよ。」

 ため息が出る。エアに引き続きこいつもかい。ここってガルムザフト王国だよね。ログルスの生存範囲ってエルリオーラ王国じゃなかったの?

 「それに、なんでそいつがいる?」

 エアを指さす。エチケット違反だよ、指さすのは。

 「私はこの娘らをつけまわしているんだ。この娘たちのいるところならどこにでもいるぞ。」

 その堂々としたストーカー宣言やめて。

 「人魔です!いえ、人魔さんです!今日はウルフいないのですか?」

 リリーサがにこやかに話しかける。もう魔人族相手の対応じゃないよね。

 「別件でこちらに来ている。ウルフは連れていない。」

 「消します。」

 人差し指をログルスに向ける。手のひら返しが早いな。

 「消してしまえ、消してしまえ。」

 エア、笑いながらあおるのやめて。


 「欲しいものがあるから、金になりそうな魔獣を狩りに来た?ほんっと自由だよな、お前ら。」

 「間違えないでください、人魔さん。わたしは毒草を採りに来ました。」

 「何に使うんだ、そんなもの。」

 「売ります。売れます。」

 「人族のやり様に口を出すつもりはないから好きにやればいいが、いいのか?親が泣くぞ。」

 「泣かせておけばいいんです、あんなの。」

 呆れた顔のログルス。魔人族に呆れられるなんてどれだけ外道なものやら。

 「で、ログルスは何でここにいるの?別件って何?」

 「お前は俺の上司か。なぜ説明しなければならん。」

 したくないなら出てこなきゃいいのに。

 「来たくはなかったが、これだけ不穏当な顔ぶれが近くにいるとなると、何事なのか確認せざるを得んだろう。この混血が最大の問題だが。」

 エアを横目で睨む。

 「混血って言わないでよ。デリカシーないなぁ。ここには3人もいるんだからね。」

 ほっぺたを膨らませてログルスを睨む。

 「あ、いや、そうか・・・」

 言い淀むログルス。なんかかわいい。

 「ジジイをかわいいと呼ぶのは失礼だぞ。」

 「人をジジイと呼ぶのは失礼ではないのか?」

 「ジジイをジジイと呼んでいけないのか?」

 「ふん、お前こそ若いふりをしているが、そこそこの年増だろう。」

 エアとログルスが顔を見合わせて、舌戦を初めてしまう。

 「ストップ!もう少し仲良くしようよ。」

 「勘違いするな。仲良くしたくて俺はここにいるわけではない。」

 「そうか?私はヒメと仲良くするから、どこぞヘ行け。」

 「お前と仲良くしたいわけではないと言っている!」

 「では、ヒメとは仲良くしたいのか?魔人族のジジイが、いやらしい。」

 「やるか?一度はっきりさせた方がいいよな。」

 「人族に曰く、年寄りの冷や水、という言葉を知っているか?年をとると気が短くなるから冷たい水を飲んで落ち着けと言う・・・」

 「「「違う!」」」

 エアが訳のわからない事を言い始めた。

 「え?ヒメのお仲間なの?」

 ファリナ、失敬だぞ。どちらかというとリリーサだろう。






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