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獣な彼女【書籍化】  作者: こる


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3話 回復の泉

 トラ猫人間のことは気になったが、あれから2日、ヤツが顔を出すことも無かったし、他の猫のテリトリーを侵害して喧嘩になったというような噂も聞かなかった。

 やっぱり、興味本位だったのだろう。


 がっかりしたような悔しいような、胸糞悪さを抱えながら、週に1度の魔力回復日を迎える。


 人間の姿に戻らなくてはならないため、テリトリーを離れて街を出る。


 注意深く街を出て、森の中に入ってゆく。


 森の中には肉食の獣も生息しているが、そいつらは森の奥に生きているので、まだ街に近いここら辺は大丈夫だ。


 街道を逸れた本当に小さな流れの小川に沿って進んでゆく。

 すると少しだけ開けた場所に出る、そこには小さな泉がある。

 あたしが回復の泉と呼んでいるそれは、浸かっていると魔力を急速チャージできる素晴らしい泉だ。


 こういったチャージスポットは結構色んな場所にある。

 勿論街の中にもあるのだが、如何せん王宮と神殿の中なので、猫の身では近づくことがままならない。


 だから、わりかし街の近くにあたしだけのスポットを見つけられたのはとても運が良かったといえる。


 


 猫の姿のまま、泉に近づきその水を舐める。

 うん、疲れたから水分補給ね。


 猫の姿のままだと魔力は回復しない、変化している間は魔力を消費しているので、消費中に回復はしないというわけだ。

 だから、人の姿に戻る。


 周囲の気配をうかがってから、草むらに座り変化を解く。


 久しく人間に戻っていない体に慣れるのは少々時間が要る。

 座ったまま両腕を振り、肩を回し、首を回し、そろそろと立ち上がる。

 おしりに付いた草を払い、泉に近づきつま先からゆっくりと泉に入る。


 目が覚めるほど冷たいその水温に耐える。

 少し体が冷たさに慣れたところで、頭まで泉に浸かり久しく洗っていなかった髪をわしわしと洗う。


 もう随分と切っていない髪は腰近くまで伸び放題。

 自慢の黒髪だが、全く手入れをしていないので絡まり放題。

 今度ナイフか何かを持ってきて切ってしまおう、さっぱりと耳ぐらいまで。


 頭をがしがし水洗いした後、泉の傍の木にくくりつけておいた手ぬぐいを外し、それを泉で洗ってから体をこする。





 ひとしきり体を擦ってすっきりする。

 いくら猫ライフを楽しんでいるとはいえ、人間なのだから風呂くらい入りたい、というか、戻れるなら人間らしい生活がしたい……。


「人間が、人間らしい暮らしを望んで何が悪いかー!!」


「好きで猫やってるわけじゃないんだぞー!!」


「人間なんか大嫌いだー!!!!」


 いつもの発声練習だ。

 ちゃんと声を出しておかないと、出し方を忘れるからな。


 思いっきり吼えて、スッキリした。

 うん、魔力もすっかり回復したし、帰ろう。


 顔を洗って、泉から出る。


 一つ大きく伸びをして体を伸ばしてから、呼吸を整える。




我が内に宿る魔力よジ・イーリマ・ステャ我が体を組み替えよジ・シェ・ロウ猫へマロゥ

 魔法言語を唱えると、一呼吸の内に黒猫へと変化した。


『悲しいけど、しっくりくるのよね……』

 一つ唸り、猫の体を震って体に付いていた水滴を払う。


 その時風下の草むらがガサガサッと揺れた。

『何だっ!?』




 黒猫の姿で飛び退り、体を低くして臨戦態勢をとる。

 そこから現れたのは筋骨隆々の魔法剣士で。


 吃驚しているうちに、真正面から捕獲されました。


『な、なにすんのよ!? ちょっと! 離してよっ!!』

 慌てて暴れるも、背後から上手いこと抱っこされているので逃げること叶わず。

 そうだ! 人間に戻って逃げよう!

 と気づいた時に、魔法剣士の魔法の詠唱が耳に届いた。


眠れ(ディスロ)

 うそ…っ、そんな短い詠唱なんて……っ。


 すぴすぴと可愛い寝息を立てる黒猫をそっと抱えなおす。

 くったりと体を預ける柔らかな存在に、魔法剣士は笑みを浮かべた。



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