五十六話
————流石に内容は言えんが、こんな俺にも誓いの一つや二つくらいある。そして意地を通した結果、幸か不幸か俺は王になった。ただそれだけだ。
「んー…………」
ぼふんっ、と音を立てながらベッドに背中からダイブした私は悩ましげな声を口端から漏らしながら考え込む。私の頭を埋め尽くしていたのは十数分前の彼との会話。その一部。
なし崩しで付き合う事になったヴァルターとの気晴らし散歩を終えた私は今度こそ、大人しく用意された部屋に戻り、休息を取っていたのだが、心境は何処か釈然としなかった。
「なんでヴァルターって王になったんだろう」
ヴァルターから聞かされた話は王になったばかりの頃の苦労話が主であった。
ただ、武勇伝とかではなく、その頃より世話になっている人間には随分と迷惑をかけただ。
そのせいで頭が上がらない者達が多いだとか、そんな感じの話。
それだけ聞けばかなり腹黒いけど、人間味溢れたまあ良い王様。
みたいな感想に落ち着くんだけれど、私の中では十七年前のヴァルターが私にとってのヴァルター・ヴィア・スェベリアの根幹として据えられている。
だから、その決定的な差異に眉根が寄った。
「間違ってもそんな感じの性格してなかったと思うんだけどなあ……」
何が何でも王にならなきゃいけない!
みたいな欲動に突き動かされる人間ではなく、どちらかというと私みたいな、のほほんとした性格寄りだった筈だ。
確固とした目標とかはなくて、ただ、何となく生きられたらそれでいいかなみたいな感じ。
「ま、側仕えは当分続きそうだし、近くにいればいつか分かる、かな」
考え込めば答えに辿り着けるワケでなし。
今後の楽しみの一つとして覚えておこう。という結論で私は妥協する事にした。
「————にしても。あいつらマジであり得ないでしょ……」
そして意識を過去の出来事から今に向け直す。
あいつらとは勿論、ヴァルターとユリウスの事である。
これは、ついさっきの出来事だ。
私がヴァルターの護衛らしく、ここはスェベリアではないからと出来る限り護衛に付こうとした矢先、『今日はここ、女人禁制って事で。だから嬢ちゃんは部屋帰って今日は寝ときな』と、ユリウスに進入禁止を言い渡されてしまったワケである。
何やらヴァルターに話があったらしく、それでいて私には聞かせられない話だったらしい。
どうしてかと、ワケを聞くと『まず嬢ちゃん自身がトラブルメーカーって自覚持とうか』と言われてしまった。そして当然の如くヴァルターもそれに同調。
全く、ひどい風評被害である。
「私のどこがトラブルメーカーなんだよ……!」
百歩譲って。……いや、ちょっと心当たりがあるから五十歩くらい譲ってアメリア・メセルディアがトラブルメーカーというのならまだ許せた。
あの頃は本当に問題児とか言われてたから、不承不承ながらユリウスの言葉を認めましたとも。
だけど。でも!
「最近の私はぜんっぜんトラブル起こしてないのに……ないのに……」
サテリカで美味しそうな名前の人に絡まれたような気もするけど、多分気のせい。
〝鬼火のガヴァリス〟って人と戦う羽目になってたけど、あれは元々サテリカの抱えていた問題だ。断じて私が引き起こしたものではない。
つまり、私は人畜無害な人間という事になる。
遠回しにお前に聞かせるとトラブル引き起こしそうだからイヤだとか言う人の気が知れない。
「…………そうだ。ヴァルターの部屋は隣だし、聞き耳立ててみよ」
むくりと起き上がり、私はそう言って壁に耳を近づける。程なく、ぴたりと密接させるも
「…………」
十数秒待っても物音ひとつ聞こえてきやしない。流石は高級そうな宿屋。防音設備もバッチリならしい。クソが。
「とすると、手掛かりらしい手掛かりはユリウスが言ってたあの言葉ぐらい、になるかな」
————エドガーのおっさんが言ってたあの件についてちょいと話がある。
それは女人禁制を言い渡される前に、ユリウスがヴァルターに向かって言っていた言葉。
私に聞かせたくない話とやらの手掛かりらしい手掛かりは本当にそれくらい。
「エドガー……エドガー……エドガー?」
言葉を何度も繰り返し、反芻。
なんか何処かで聞いた事があるような名前な気がするんだけど、うまく思い出せない。
ヴァルターやユリウスが会うくらいの人間だから、お偉い人間なのは分かってるんだけど、興味がない人間に対して、記憶力が全く働かない自分の脳味噌が今は恨めしい。
「……だーめだ。思い出せない。今度酒場にでも行った時、リッキーさんに聞こ……」
きっとあのノリの良いリッキーさんなら気前良く教えてくれる筈だ。
とはいえ。
「向こうは向こうで忙しそうだし、もしかすると〝千年草〟は私一人で入手しなきゃいけないかもなあ」
一応、今日限りのような口振りではあったけれど、もしかすると私と彼らの別行動はもう少し続くやもしれない。
まぁ、鍛冶屋の店主であるニコラスさん曰く、自生しているフォーゲルという山は色々と規制がかかる程危なっかしい場所らしいし、ヴァルターが危険な事に首を突っ込まないのは僥倖なんだけれども。
「まぁ、だからといって何か不都合があるわけでもないんだけれど」
ヴァルターがいればコネか何かですぐに手に入るだろうになあとか思ってない。そんな事はちょっとくらいしか期待してなかったから。うん。
「でも、とすればもしもの時はアクセアさんに頼るしかないよねえ……」
〝ギルド〟に属する人間の知り合いなぞ、リッキーさんの酒場で出会ったアクセアさんくらい。
本当に〝ギルド〟の一部の人間以外の立ち入りを禁止しているのであれば、もしかすると彼を頼るしか〝千年草〟を手に入れる手段はないかもしれない。
うーん、うーんと唸りながらも私はもう一度ベッドへ今度は頭からダイブ。
「何か返せるものがあれば良いんだけどな」
ギブアンドテイクに、私が頼み事をするかわりに彼に何かを返せる手立てがあれば気軽に頼めるのになぁと私は呟く。
……といっても、返せるものは〝剣〟くらいのものなんだけど。
ごろんと寝返りを打ち、私は天井を見上げた。
「この様子だと別行動はそれなりに続きそう」
なんか私、仲間外れにされてるし。と言葉を付け足す事も忘れない。
だけど、ここ最近はヴァルターの側仕えらしく、殆ど毎日共に行動していたので別行動というものはかなり新鮮であった。
恐らくは私が必要になれば向こうからその旨を伝えてくれる事だろう。
ただ、勘だけどその時は当分やって来ないような、そんな気がした。
「でもまあ……偶のこんな機会も悪くはない、かな」
何より、視野を広く持つ事は肝要だ。
折角なんだし、この機会にスェベリアの外を見ておくというのも存外悪くはない。
私はそう結論付け、もし明日も別行動となった場合、どうしたものかと考えながら——部屋の明かりをつけたまま、目蓋を閉じる。
そしてゆっくりと、意識を手放した。
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