四十五話
「————なぁ。一ついいか。なんで俺が付いてく羽目になってんだ」
「文句があるならルイスに言え。ユリウスを連れて行くか騎士十人連れて行くか選べと言ったのはアイツなんだからな」
〝北の魔女システィア〟との邂逅から早、二週間。
人が三人通れるかどうか程度の幅しかない獣道を歩く人影が三つ。
私と、ヴァルターと、現在進行形で不貞腐れ、ぶーたれるユリウスの姿がそこにはあった。
————友好国であり、隣国であったからこそ、前回は何も言いませんでしたが、ミスレナともなれば話は変わってきます。メセルディア卿を連れて行くか、僕が選ぶ騎士を十人連れて行くか。好きな方をお選び下さい。
ミスレナに向かうと告げるや否や、かつて無い程の威圧感と共にハーメリアの口から発せられたその言葉。
しかし、これまで私という例外を除き、ただ一度として自身の護衛という存在を拒み続けてきたヴァルターにとっては馬の耳に念仏ならぬ、ヴァルターに縁談話————かと思われたのだが、ここで思わぬアクシデントに見舞われた。
そんな事知るかと一蹴せんと試みたヴァルターに、ではなく。何故か私に向かって何を思ってか、ハーメリアは言葉を発していた。
『時に、フローラ殿。ウェイベイア卿は御壮健でしょうか』と。初めは言葉の意味がわからなかったけれど、続く言葉で全てを察した。
『もし、帰省する事があればウェイベイア卿に言伝を……あぁっ、おっと失礼。そういえばウェイベイア卿は近く、此処へお越しになられるのでしたね』と。
……つまり、ハーメリアは私を脅してヴァルターに護衛をつけさせようと考えたらしい。要するに手段は選んでられない、と。ふざけんなボケ。
思わずキッ、とハーメリアに話したんかお前。と言わんばかりにヴァルターを睨め付けるも、んなわけあるかと彼は即座に否定。
私が抱えるこの厄介ごとの詳細を知る人間は私本人とヴァルターを除けば、諸悪の根源たる父、ユベル・ウェイベイア。もしくは————
『……ユリウス殿ですか』
私は答えに辿り着く。
その言葉に対するハーメリアの返答は——笑みを顔に刻み、にっこりと微笑んだ。
犯人判明。
下手人はユリウス・メセルディアである。
その瞬間、今後の方針は決まった。
どうせ、誰かを連れて行かなきゃいけないならユリウスを巻き込もう。馬車馬の如くこき使おう。私の胸中にて、全会一致でそう決まった。
故に。
「自業自得です。恨むならその自分の軽い口を恨んで下さい」
ユリウスに向ける慈悲はない。
「……おいおい、辛辣過ぎるだろ」
ぷい、と私は顔を背けて先頭を歩くヴァルターを足早に追い掛ける。道幅の狭い獣道ともあって、縦に一列で歩み進めていた。
並びはヴァルター、私、ユリウスの順。
曰く、スェベリア王国からミスレナ商国に向かう場合、馬車などを使うよりこの細い獣道を通った方が早いらしい。
「今回ばかりはお前が悪い」
「ったく、あの眼鏡め。厄介ごとを俺に押し付けやがって……」
ヴァルターにまで責め立てられた事で、これ以上は何を言っても仕方がないか、とユリウスは燻る怒りの矛先を怒り心頭の私から他の人間へ変えていた。
眼鏡とはルイス・ハーメリアの事である。
どうにもユリウスとはあまり反りが合わないらしく、ハーメリアの悪態を吐く時は決まってユリウスは彼の事を眼鏡と呼ぶのだ。
くしゃりと前髪を掻きあげる。掻き混ぜる。
次いで肩を竦め、「あいつにはもう何も話してやんねぇ」とユリウスは口を尖らせた。
「にしても、陛下が認めるだなんて意外でした。てっきり、こそっと出て行くものかとばかり」
「向かう先がミスレナでなければ間違いなくそうしてた。が、今回は事情が違う」
護衛嫌いの国王陛下。
故に、ハーメリアからの提案を跳ね除けるのかと思えば、縁談の件をネタに脅される私を見兼ねてか、いともあっさり分かったと頷いていたのだ。
「ミスレナに向かうって話だったからまさかとは思ってたが、アレか。今回は〝北の魔女〟の依頼絡みって事かよ」
「ご存知なんですか?」
「そりゃな。嬢ちゃんは知らねえかもしんねえが、あいつ一応、スェベリアじゃ、貴族扱いされてっからな。一代限りの名誉貴族ってやつ」
訳知り顔でユリウスは言う。
「スェベリアは実力主義。能力のあるやつは悪人でない限り誰だろうと抱え込む。当然だろう?」
「……ヴァル坊の言う事はあんま信用しねぇ方が身の為だぜぇ。ヴァル坊のやつ、〝北の魔女〟になにやら借りを作ってたらしく、てめぇが王の間は自分を名誉貴族にしてくれって言われてたからな。抱え込みって言や、聞こえはいいがありゃ実際は————」
「……ユリウス」
「おーっと。こえぇ、こえぇ。つい、まぁた口が滑っちまうところだったぜ」
いや、もうほとんど言っちゃってるし。
手遅れ過ぎるから。
などと思ったが、黙っていた方が良さそうなので私は閉口。先人は偉大な言葉を遺してくれた。つまり、沈黙は金である。お口チャック。
とはいえ、ヴァルターの言葉が信用出来ない事なんてサテリカでのやり取り等で身に染みて分かっている。平然と嘘をつくあの態度に何度、時は残酷と思わされた事か。
「まぁ、そうだな。言っちまえばアレだ。〝北の魔女〟からの依頼は人手が幾らあっても足んねえようなもんばっかりなんだ。だから、今回は特例で俺の同行を認めざるを得なかったって事なんだろうよ」
「はぁ」
聞いた限り、『千年草』と呼ばれる薬草を取ってきて欲しいというお使い染みた頼み事のように思えたが、違うのだろうか。
「ま、覚悟はしといて損はねえと思うぜ」
何せあいつは〝北の魔女〟なのだから。
おっかねえ奴の頼み事はおっかねえと相場が決まってる。と、ユリウスは言葉を締めくくる。
「あ、そうだ」
何かを思い出したのか。
突としてユリウスが発言。
「あれから口にする機会がなくてつい、忘れてたんだが、前に言ってた親父の件」
「げっ」
そして私は盛大に顔を引きつらせ、流れるような動作にて、両手で耳を塞いだ。
「んな身構えなくとも、そう悪い話じゃねえよ」
それは嘘だ。私だからこそ、言い切れる。
それは絶対に嘘だと。
縁談は嫌だからと助けを乞い、なら、その日はメセルディアの家に来いよというユリウスの提案を次の日。ミスレナに行く事にしたからやっぱ無しでと言った私の事を怒っていないはずがない。
私がその立場なら多分キレてると思うし。
「縁談から逃げる為に他国に逃げようとする馬鹿がいると聞いて親父の奴、腹抱えて笑ってたぜ。思ってた通りの面白い奴だ、ってよ」
「……そうですか」
「それと、会いたいって言ってた件についてはどうやら、もう良いらしい。どうにも、親父が勝手に出向いて来るらしくてなぁ」
ほら。ほらほら!
やっぱり悪い話じゃん。
こうなっては最早、私に逃げる術はない。
人知れず私は絶望をした。ジーザス。
「ま、何度もとは言わねぇが、一度くらいは会ってやってくれ。その剣を渡したのは俺だが、渡せと言い出したのは親父だったんでな」
そんくらいの義理は通してくんねえかとユリウスは言う。
……分かってる。
嫌だ嫌だと表面上は言っているけど、家宝を譲り受けたからにはちゃんとその礼を言わなきゃいけないとは思ってた。
……散々、先延ばしにしようと試みてきたけども。
「……ご心配なさらずとも、少なくとも一度は此方から出向かせて頂くつもりでした」
「おー、そうか。そりゃ親父も喜ぶ。んじゃ、その時は頼むぜ」
「……ええ。分かりました」
ちょうど今も腰に下げている無銘の剣を受け取ってしまった時点で、避けては通れなくなった道。
一体私はどんな顔をして会うべきなのだろうか。そんな事を今から考えていると心が病んでしまいそうだったので取り敢えず頭の隅に追いやる。
きっと、未来の私が上手くやってくれる事だろう。…………多分。
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