幕間 アメリア・メセルディア 過去3終
「……おいおいおいオイ。何だありゃ。びっくり箱にも程があんだろ」
肉薄。打ち合い。
火花を散らし、連撃猛攻。
耳を劈く金属音と銀の軌跡しか残らない馬鹿げた戦闘を眼前に、一人の男——ハイザは傍観に徹していた。
「あんにゃろ、いつ見て盗んだのか知らねえが、おれの剣技を勝手にパクってんじゃねぇよ!!」
そして、忌々しげに吐き散らす。
いや、そもそもハイザの剣技は見て盗めるような容易いものではないのだが、現実、化物の片割れ——アメリア・メセルディアはハイザの剣技を用いている。
ただのひと振りがまるで蛇のように絡み付き、易々とは離さないあの嫌らしい剣技。
まさしくハイザそっくりである。
「つーか、ユースティアのとこのアホは何してんだ。これじゃ灸を据えるどころかまぁたアメリアの踏み台行きじゃねえかクソッタレッ!!」
この男、実はピンチに陥ったアメリアの窮地を自身が助けて見直してもらおう。というクソ過ぎるマッチポンプの為にこれまでもこのような茶番を幾度と無く繰り返した前科がある。
しかし、アメリアでは一歩、二歩及ばず倒せないであろう相手をハイザは選んでいるつもりなのだが、毎度の如くアメリアが打ち勝ってしまうという不思議現象に見舞われていたのだ。
そして今現在。
ユースティア神聖王国に籍を置く将軍。その懐刀と呼ばれるやべーやつを相手に据えてやったというのに目の前で繰り広げられる趨勢を見る限り、アメリア超優勢。
……もうけしかけられる相手はいねえよとハイザは人知れず空を仰ぎ、ほんの少しだけ絶望した。
「……ったく。シャムロックのヤツからも鍛えてくれって言われてんのによぉ」
これじゃあ、肩慣らしにすらなりゃしねえと今し方アメリアと激闘を繰り広げるバルバドスに対し、ハイザは落胆の感情を向けた。
シャムロック・メセルディア。
アメリア・メセルディアの父であり、東南戦役の英雄とまで呼ばれたハイザの元部下。
ついでに言えば、剣の技量に限って言えば東南戦役の英雄をして、時代の寵児とまで称えるほど。
「とは言え、生憎とおれみてぇな古臭い兵士にゃ、実践が一番としか教えようがねぇんだよなぁ」
しかし、戦争は終わり、現国王は平和路線をひた走っている。それが悪いとはハイザは思っていない。だが、強くなるという機会が絶望的に失われてしまったというのは紛れもない事実。
『————女騎士として生きるからには、圧倒的な武が必要となります。だからこそ、貴方に娘の事を頼みたい』
名門——メセルディア侯爵家が現当主であり、元部下でもあるシャムロックの頼みに対し、首を横に振れなかったのがハイザの運の尽き。
彼が時代の寵児と呼んだシャムロックが、この才能を腐らせるには惜し過ぎると評したアメリアの世話をなし崩しに見る事となり、気づけば4年の歳月が経ち——犬猿コンビなどという渾名まで付けられる始末。
とは言えである。
寄る年波には勝てないとはよく言ったもので、その時点で既に剣の技量はハイザよりシャムロックの方が数段上であった。
だからこそ、てめぇが教えてやれよとハイザは口を尖らせたのだが、返ってきたのは「自分はマナを扱えません」というごもっともな言葉。
結果、マナを交えた剣技をハイザが渋々伝授していたわけである。
「お」
声を弾ませる。
眼前の戦闘光景が変化。
血飛沫があがった——どうやら、アメリアが一撃入れたらしい。
「こりゃ、まじで今回も失敗だな……くっそ、計画が見事に狂いやがった。……まじ、どーすっかな」
いくら下手人とはいえ、将軍の懐刀な為、身柄を押さえたならば誰が仕留めたのだという話になる。しかし、ハイザはアメリアにデカイ顔を死んでもされたくはないのだ。
さぁ、どうする。
このままだと100%アメリアが勝ってしまう。
だからといってこの状況で乱入? いや、それは流石に格好が悪過ぎる。
何より、部下の手柄を奪うくらいなら手柄ごと消し炭にする。それがハイザ・ボルセネリアというロクでなしの矜持である。みんなが手柄ゼロ。素晴らしくハッピーな世界の到来だ。
「……よし。嘘を真実に変えちまおう」
当初、アメリアに吐いていた嘘である——末端のぺーぺーという嘘を真実として事実改変。つまり、ねじ曲げる。
嗚呼、素晴らしきかな捏造工作。
ハイザのアメリアに対するこの手の捏造もかれこれ八回目。慣れたものである。
「おーおー。袈裟懸けに一撃……からの腹に一発。えずいたところを見計らって得物を弾き飛ばして……あーあ。こりゃ決まったな」
足の踵を使ってバルバドスをうつ伏せに倒れさせ——どしん、と音が立つ。
次いで背中目掛けて足で踏みつけ。
ジ・エンドである。
「蓋を開けてみりゃただの雑魚。期待外れだくそったれ」
折角逃してやったのに。
まぁ、逃したのは一時的なもので、後で仕留める気ではいたけど。などと、ぼそりとひとりごちながら、隠れて観戦していたハイザは木陰から姿をさらした。
「お、アメリアみーっけ。ちょっとばかし面倒臭い魔法を使うヤツだったから、ヘマしてんじゃねえかって心配になって来てはみたが……大丈夫だったらしいなぁ。感心、感心」
「……末端のぺーぺーじゃなかったんですか」
訝しむ視線がハイザに飛んでくる。
真に末端のぺーぺーであるならば、心配する余地はどこにもありはしない。だが、どうしてかハイザはこうして心配になって追いかけてきたと宣った。
アメリア自身にも現在進行形で踏み付けているバルバドスにそれなりの手応えを感じたのだろう。末端のぺーぺーにしては強くない? と。
「いやいや、そいつ幻術使ってたろ? たまーにいるんだよ。幻術にかかって窮地に陥る馬鹿ちんがなぁ……?」
「なんでそこで私を見るんですか……」
「だってお前、結構抜けてるところあるしよ」
そこでアメリアは重大な事実に気がついた。
「……あれ? つい流しちゃいましたけど、さっき私の事心配って——」
「————死体処理が面倒臭いもんでなぁ」
「死ね」
無拍子かつ、無詠唱小規模魔力凝縮砲。
くたばれクソ野郎という想いを込めた一撃。
「うぉいっ!? て、てめっ、おれを殺す気か!!!」
「死ねば良かったのに」
「そこは嘘でも誤魔化せよ!!」
ゴタゴタをやっているうちにアメリアの足は背中から頭部へと徐々に移動をして行き、最終的には瀕死の重体ながらも、呼吸困難に陥り、必死にもがくバルバドスをよそに始まる身内同士の小競り合い。
この生意気小娘、ぜってぇいつか痛い目に合わせてやると心に誓い、ハイザがトラフ帝国にアメリアの情報をリークして更なる強者を呼び寄せようと傍迷惑な画策をするのはもう少し後のお話。
そして、彼女らが経験してきた全ての事情を知悉していた者はのちにこう述べる。
アメリア・メセルディアが最後の最期まで慢心という言葉に触れる機会すらなく、謙虚な態度を貫いていた原因の実に七割はこの男、ハイザ・ボルセネリアのせいである、と。
幕間の続編は予定しておりません。
二章までもう暫くお待ちを、、、
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