意外な関係?
俺の仕返しが無事に終了し、俺、天城、愛田はいつものごとく席について飯を食い始める。
「何で俺蹴られたし……」
愛田がぶつぶつと文句をいいながら、おにぎり二つ持ちで交互に頬張っていた。
「あはは、それは僕が説明するよ。あんまり大声で言えないから耳を貸してくれるかい?」
天城が愛田に耳打ちをしていた。
「改めて見ると三人はなんか面白い組み合わせだよね」
早川が唐突にそんなことを言い出した。男子三人の視線が早川に集まる。
「や、変な意味じゃないよ?ただ、面白い組み合わせだなーって…あれ?」
早川はぱたぱたと両手を振り、一度ジュースに口を付ける。
「不思議な組み合わせ…いや、なんか違う。うーん……」
上手い表現が見つからず早川はやきもきしているようだった。
「まあ、なんで一緒にいるのか謎な部分はあるよね」
天城が答える。その隣で愛田は頭を抱えていた。
「そうだよ謎なんだ。どうしたらこの三人が一緒になるのか私、想像できないんだよね」
早川は俺たち3人を順番に指差していった。
「愛田くんは二年連続進学クラスの人だし」
「天城くんは誰とでも上手くやってるイメージがあるから、違和感がないとして」
「あんたがまさか誰かとご飯を食べてるなんて……いや変な意味じゃないよ? 意外ってだけで」
「いや、どう考えても変な意味だろ」
何か早川のやつが勘違いしているようなので言っておく。
「別に俺は友達がいないわけじゃない。多くないだけだ」
「お前……それは完全に友達いないやつのセリフだぞ」
天城の隣で頭を抱えていた愛田が言う。
「何でそんなことがわかるんだ愛田」
「そりゃ俺もそうだったからな……って何言わせんだこの野郎!」
愛田が誤魔化しのパンチを放ってくる。俺はそれを筆箱で防いだ。
完全に愛田の自滅だった。
早川はそれを聞いて「なんか意外だねー」言い、天城は笑っている。
愛田は自分の失言を悔やむように唇をかんでいた。
「心配するなよ愛田。お前がどんな過去を持っていようが俺は気にしないぞ」
俺はそんな愛田の肩を叩きつつ優しく言ってやる。
「…なんだ慰めか?らしくねえな」
「だってお前に興味ないし」
「てめーらしい言い草だな! 喧嘩なら買うぞコラ!」
愛田が手元にあった俺の物理の教科書を取って攻撃してくる。俺はそれをまたも筆箱で防御して、そのまま筆箱で反撃する。
「ねえ。天城君。いつも二人はこんな小競り合いしてるの?」
「そうだね早川さん。彼ら曰く、お互いが気に入らないそうだ。おそらくだけど、お互いの存在を否定するために彼らは戦っていると僕は考えている」
「それも男の友情ってやつなの?」
「確実に違うね。だからこそ僕はこの二人を観察している。……だからさっきの早川さんの質問に対する僕の答えは、二人が戦っていて、それを近くで僕が見ている。だからあたかも一緒に居るように見える。というところじゃないかな」
天城の見解はおおむね間違っていないように思えた。
特に俺と愛田を友達扱いしていないなんて最高に合っている。
「うーん……とりあえず三人は仲良しで一緒にいるわけじゃないってことでオーケー?」
「それでいいと思うよ」
「じゃあ三人は友達じゃないの?」
「どうなんだろうね? まあ、見ていて面白い二人ではあるけど。友達かと言われると判断に困る。特に三人で遊んだこともないしね」
「「安心しろ天城。お前は友達だ。こいつは違うけどな!」」
一言一句たがうことなく愛田と俺のセリフが被った。お互い考えていることは同じらしい。真似をするなとばかりに攻防が激しくなる。
「うん、どうやら答えが出たみたいだよ早川さん」
「答えって。天城君たち三人の関係性の?」
天城は大きく頷いた。
「つまるところ、僕たちは友達の友達のという関係なんじゃないかな?これなら普段遊ばない理由もつく」
「なるほどねえ。なんというか、思ってたより普通?」
「うん。普通だった」
びっくりするくらい普通だった。なんと、俺と愛田の関係はなんと普通だったのだ!
「ところで早川さん、彼に用事があったんじゃないのかい」
「そうだった。実はあんたに聞きたいことがあってさ」
「聞きたいこと?」
攻撃してくる愛田の腕を抑えながら早川の方を向く。
「昨日さ、優子があんたに話しかけてこなかった?」
「何だって!?」
勢いよく立ち上がったのは愛田だ。
「ああ。確かに話しかけられたな」
「ま、マジかよ。」
愛田は愕然としていた。七島優子のためだけに神にまでなった男にとっては放っておけない事実なのだろう。
「けどな、人違いで話しかけられただけだ。帰宅部に用があるみたいだったが」
俺がそう答えると、愛田はほっとしたように息を吐いて席につく。
そこまでわかりやすいとからかう気も起きない。
すると、早川は横に指を振る。
「それが人違いじゃないんだよねー。優子はあんたに用があって話しかけたんだよ」
「……はい?」
早川の言葉に反応したのはまたしても愛田だった。
「人違いじゃないってのはどういうことだ?それに、何でお前は優等生が俺に話しかけてきたことを知ってる?」
いちいち愛田に反応するのも面倒なので俺は先を促す。
「そりゃあ私は優子の親友だからね。本人から聞いたのよ」
「お前とあの優等生が親友だって?」
「あ? お前知らなかったのか?結構有名な話だと思うんだが」
愛田はそう言うが、知らないものは知らなかった。早川の交友の広さには毎度毎度驚かされる。
それにあの優等生にも人並みに友達がいたということにも驚いた。
……というか俺から言わせれば、早川と優等生がどうやったら一緒になるかの方が不思議だ。
「誰か手を貸してくれ!」
すると、閉じられていた教室の入り口が勢いよく開かれ、クラス担任の鷲塚が教室に飛び込んできた。何故か手には虫取り網とパンの耳を持っている。
「おう愛田。丁度いいところにいるな。ちょっと手伝ってくれ。」
鷲塚は真っ直ぐにこちらにやってきて愛田の腕を掴んだ。
「え? いや、急になんですか?というか何で俺なんすか?」
愛田は突然の指名に困惑しているようだった。
「実はまた鳩が逃げ出してな。捕まえるのを手伝ってくれ。お前鳩は得意だろ?」
「鳩が得意ってなんですか!嫌ですよ!そこら辺にいるやつに頼んでください!あいつとかそいつとか!」
そこら辺にいる代表として俺や天城が選抜されたが
「ええい、いいからさっさとこい! 手が足りないんだ!」
鷲塚は教室に入ったときから愛田のことしか見ていなかった。
愛田は理不尽な指名から逃げようと体をねじって抵抗したが、鷲塚の手はがっちりと愛田を掴んでいた。鷲塚は簡単に逃げられるような相手ではない。それは俺もよく知っている。
「くそっ…行くしかないか」
抵抗を諦めたか、愛田は観念して席を立つ。
「……早川さん、いつでもいいんで七島さんのこと、教えてもらっても?」
去り際、ここぞとばかりに七島優子の情報を集めようとする愛田だったが、
「悪いけどそれは優子に話していいか聞いてからじゃないとダメかな」
もっともらしい早川の返答にブロックされる。愛田はがっくりと肩を落とすと、大人しく鷲塚に連行されていった。
「ねえねえ、愛田君はやっぱり優子のことが好きなのかな?」
愛田の姿が見えなくなってから早川が尋ねてきた。
「そうじゃなきゃあんなことしないわな。お前も知ってるだろ?『神の一件」は」
「うん。すごい手品だったって優子から聞いてるよ。すごすぎて騒ぎになっちゃったわけだけど……」
「俺も目の前で見てたが実際無駄に凄かったぞ。まあ、無駄に凄かった分、無駄に終わったわけだが」
「それが彼の面白いところでもあるけどね」
今までパックのゼリーを黙々と吸っていた天城が言う。
やつの残念さは見ていて面白いのは俺も否定しない。




