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142 「さよなら、スパイダーマン」

 


 こんにちは。

 今回はまた、中学校国語の教科書で紹介されていたものです。

 ブランフォード・ボウズ賞を獲った作品とのこと。


 〇「さよなら、スパイダーマン」(原題:「MY SISTER LIVES ON THE MANTELPIECE」

 アナベル・ピッチャー・著 / 中野怜奈・訳 / 偕成社(2017)


 教科書で紹介されているぐらいなので、よい本であろうことは間違いないのでしょうけれども、それでもやっぱり一読はしておきたいものですよね。

 ということで、未読の本を片っ端から読んでいるわけなのですが……。

 こちらも間違いなく、本当によい本でした。そこまでになるとは予想もしていなかったのですが、実はめっちゃ泣かされてしまいましてね(苦笑)。


 主人公はイギリスの10歳の少年、ジェイミー。

 もとは父、母、双子の姉、そして猫のロジャーとロンドンで暮らしていましたが、5年前のとある事件によって家庭内に不和が生じ、今は父、姉のジャスミン(ジャス)、それに猫のロジャーとともに湖水地方の町、アンブルサイドで暮らしています。


 実は、彼の家庭を引き裂いたのは5年前のテロ事件でした。

 イスラム過激派組織による爆破テロに巻き込まれ、双子の姉・ローズが死んだのです。この家族はそのために深く傷つき、ずっと悲しんできました。

 ですが、当時5歳にすぎなかったジェイミーには、父と母、それに姉のジェスの悲しみがいまひとつ実感できません。彼の中にはローズに関する思い出がほとんど残っておらず、家族が涙を流す場面でもかれらに合わせつつもよく理解できずにいます。ローズの死に対して、一度も涙を流したこともないのです。

 この事件が原因となり、やがて父と母の間には不和が生じ、母は家をでていって別の男性と暮らし始めてしまいます。父は酒びたりになり、ほとんど働くこともなくなって……。


 ちなみにこの父親はローズの遺灰の入った壺を非常に大事にしていて、それはいつもかれらの家の暖炉の上に置かれているのでした。

 ここから原題の意味がわかりますね。直訳すれば「姉はマントルピースの上で生きている」ですから。そこからなぜ邦題が「さよなら、スパイダーマン」に変わったのかはちょっと興味ありますね。

 もちろん、ジェイミーがスパイダーマンが大好きで、離れて暮らす母親からバースデープレゼントに贈られたスパイダーマンのTシャツをずっと着ていることと関係があるわけですが!

 ともあれ父親は、この事件から特にイスラム教の人々に強い憎しみを抱いています。


 さて新しい学校に通うようになったジェイミーですが、そこでも様々な問題が。

 スポーツは好きだけれど得意ではなく、内気で、絵をかくことがすきな「オタク」を自認するジェイミーは、クラスのいわゆる目立つ子、力のある子に目をつけられて虐められるように。そしてここに登場する先生は、自分の評価ばかりを気にして虐められている子にはあまり関心を払わないタイプ。

 そんな中、ジェイミーはたまたま隣の席になったイスラム教徒の少女・スーニャと次第に仲良くなって……。


「えっ待って。イスラム教徒ですか?」

 そうなんです。

 イギリスにも普通にイスラム教徒の方々はおられますもんね。そしてこの作品にイスラム教徒が登場することは非常に重要なことなのです。


 スーニャは頭にスカーフのような布・ヒジャブーを被っている、とても魅力的な女の子。明るく機転がきいて、ジェイミーがいじめっ子に攻撃されたときには巧みな作戦で仕返しを敢行してくれます。

 実はそのスーニャ自身も、例のいじめっ子たちから「カレーくさい」「カレー菌がうつる」などと揶揄されて日常的に虐められていました。「イギリスにもそういう差別があるんだな」と、正直暗澹たる気持ちになりました。

 お互いを「スパイダーマン」「スーパーウーマン」と呼び合って助け合い、仲良くなっていくふたり。

 けれどももちろん、周囲はそんなかれらをそっとしておいてくれるはずもなく……。


 私が何に爆泣きしたのかは、本を読んでいただければ理解していただけると思いますが、ジェイミーが夢想するような大団円ではないものの、希望を感じられるラストとなっていました。


 作者はこの作品を、特に子どもたちのために著したとのこと。

 これからを生きていく子どもたちに、現在存在する様々な差別に打ち勝つ勇気を与えてくれる本ではないかなと思いました。よろしかったら学校図書館にもどうぞ。

 それでは、今回はこのあたりで。


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