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次のステップ

《登場人物》


徳永 真実 (35)  警視庁刑事部捜査第一課警部

高山 朋美 (30)     同 巡査部長

加藤 啓太 (35)  警視庁刑事部鑑識課係長


川村 真人 (22)  西正大学法学部法学科4回生

吉岡 勝  (45)     同      教授

佐野 優奈 (22)     同      4回生


 ― 午後6時 同時刻 東京西正大学病院 ―

 


 川村と佐野は、コンクール会場の爆破を受けて、救急車に搬送され、同じ病室に運ばれた。

 佐野は彼の付き添い幸い怪我はなかった。それとは、別に川村は、爆破の被害からコンクールに参加していた一般客を避難させる為に、誘導しながら逃げようとした時、パニックになった客達にもみくちゃにされ、現場から逃げる事はできたものの頭を教室の壁にぶつけ、その影響で気を失った。

 それを彼女が助け、現在、ここに至る。

「これで大丈夫なはずです」

 白衣を着た優しそうな男が、佐野に告げた。

「そうですか。ありがとうございます」

「もし、患者さんが起きましたら、ご連絡ください。失礼します」

 佐野は深々と男に礼をして、感謝を告げる。

「ありがとうございました」

 医者は次の爆破によって生じた被害者の元へ、足早に向かって、病室から出ていく。

 静かになる病室。嵐が去った空気が出ている。佐野は、寝ている川村の顔を覗き込む様に見てから、隣のパイプ椅子に座った。彼女の体と心に一気に疲れが押し寄せているのを感じている。

「ふぅ。よかったでも川村君、大丈夫かな?」

 それから彼女は背をパイプ椅子に預け少し休む事にした。それから数分してから、川村はゆっくりと目を開けた。

 瞬間に写った映像は白塗りの天井と、装飾品のないシンプルな作りで出来た照明だった。右に顔を振り向かせるとそこには、パイプ椅子に座った女性の顔が残像の様にぼやけながら川村の目に写る。

 佐野は川村が目を開けている事に気付き、声をかけ始めた。

「真人君? 起きたの? 真人君!」

 彼の両耳からはかすかだが、聞き覚えのある声が、響いている。

「うっ……」

 川村の視界はゆっくりと普通の状態へと戻っていく。ずれていたピントもだいぶ良くなり、ぼやけも消滅した。

 佐野は彼の瞼がゆっくりと開いて行くのを確認し、大きく彼の名前を呼んだ。

「……真人君! 真人君!」

 声もよく聞こえた。女性の顔が次第に鮮明に分かる様になり、気付けば佐野の姿だった。

「うん? さ、さ、佐野?」

 彼女は、川村の安否を確認して、安堵の波が一気に押し寄せ、それまで彼女の脳裏にあった不安と焦りと恐怖は和らいでいき、消し飛んでいく。

「真人君!! 良かった! 大丈夫?」

 まだ、自分の状況が掴めず、煙を吸ったのか喉の痛みもあってか、少し呂律の回らない状態で安堵している彼女に言葉を返す。

「こ、こ、此処はど、何処だ?」

 佐野は、瞳から流れている涙を、手の指でゆっくりと拭いながら答えた。

「安心して。ここは病院だよ。良かった!」

 川村は彼女の姿と対等位置にする為に、上半身を起き上がらせる。

「いてて」

 所々、体の節々に痛みを感じたが、なんとか立たせる事ができ、痛みもゆっくりとだが、和らいでいるのを感じていた。

「まだ無理しちゃ駄目だよ」

 川村はある事を思い出し、すぐさま確認。

「せ、先生は!? 吉岡先生は!?」

 彼が吉岡の安否について訊いた時、彼女は、安堵していた表情から重苦しく沈んだ表情になり、口ごもりながら答えた。

「そ、それが……吉岡先生は……」

 佐野の態度からして、吉岡の安否の結果を川村自身、悟った。



【死亡だ。奴は俺の爆弾で死んだ! でも確認はしておくか? もし生きていたら大変な事だからな……】



 確認と共に、なるだけ自分の口から言うのは、避ける様に、状況の読めない芝居をした。

「? どうしたんだ? 吉岡先生は無事なのか?」

 佐野は顔をそらして、一言だけ彼に告げた。

「亡くなったの……」

 川村は、後ろの枕と白い壁に背中を預け、佐野の顔を見るのを止め、近くの物に視点を当てる。なるだけ苦しそうな鎮痛な表情を彼女に見せ、喜ぶ事を表に出さない様にしていく。

「そうか……」

 


【YES! やった! 奴が死んだ! それに爆破で、教授会は中止。奴が予定していた告発も無かった事になった! これで自分の身は、安全だ!】



 佐野は何かを思い出し、立ち上がり、川村に言った。

「あっ! 君が起きたら、医師の人に言わなきゃいけなかった。ちょっと言ってくるね」

 彼女は急いで病室から出ていく。

「あ、ああ」

 川村は他の患者と居残りを食らうが、そんな事はどうでも良かった。

 確実となる結果を得られた事に内心、満足している。吉岡の死亡事実、これが一番の喜びだった。

そりゃそうだ。仕掛けた爆弾が入っている消火栓に一番近いのだから木端微塵に吹き飛んでもらわなければ意味がない。

 多少の重軽傷者がいる事実は、目を伏せるしかないものの、殺したかった相手が一瞬の内に亡くなった事実の喜びは、別の事実を消し去るくらい嬉しかった。採掘工場の火薬はやはり違うなと川村は感じている。だが、問題は次のステップ。川村の思いは既にそちらに入っていた。 



 次のステップは、証拠の隠滅。



 今、自分のズボンのポケットに、リモコンがある。近くのゴミ箱に捨ててもいいが、それでは若干、不安を感じていた。



【どうやって、証拠を片付けるか。コンクール当日に自宅の証拠物件となる物は、捨てているし、ネットの履歴も全部消去した。後はこのリモコンだけなんだよな……早い時間に捨てた方が怪しまれる事はない。なるだけ、早めに捨てるとしよう】

 


 今は、現状の心理と体が追いつかず、病室のベッドで患者として休む事にする。

「休もう」

 結果は最高。状況も良好、自分のリスクは少々あったものの微小なだけ。

 今の状況を深く読んでいく事で、自分が立てた計画がなんとか風向きを向く事ができたと川村自身、感じていた。


第6話です。 病院に搬送された川村が目を覚ましましたね。話は続きます。


いつも読んで頂きありがとうございます! これからも宜しくお願い致します!!

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