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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅰ幕 【無貌の心臓】

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84/350

心臓編・0.5『とある王の孤独』

本日2話更新予定です。1/2

 

 死にたい。




 何度そう思ってきたか、憶えてなんかいなかった。


 いつから生きていたんだろう。

 気付いたら死なない体になっていて、あてもなく世界を彷徨っていた。


 ハッキリとした記憶があるのは千年くらい前だけど、それよりも随分前から生きてきたことはわかる。この世界に残っている歴史より、はるか昔から生きてきたという感覚と知識があった。


 自分が元々男だったのか女だったのか、それすらも覚えていない。


 一番しっくりくるのは黒髪黒目の少女の姿だった。

 もしかしたら不老不死になる前は、この姿だったのかもしれない。でもいまとなっては確かめようがないし、変えようと思えばいくらでも変えられる。

 本当の姿も、年齢も、性別も、何もかもが曖昧だった。油断したらこうして考えている自分の自我や心まで輪郭を失いそうで、その恐怖とひたすら戦う夜も何度も過ごしてきた。


 確かなものなんて、なにもない。

 ロズという名前すら不老不死をもたらすスキルからとったものだ。



『数秘術八百萬(ヤオヨロズ)森羅万象(あらゆるもの)



 それが彼女の不老不死の原因にして、最高にして最低の〝神域級(ディバイン)スキル〟。


 あらゆるものであるがゆえに、どんな状態になっても生き続けるという数秘術スキルだ。

 そのせいで食事も睡眠も必要としないため、生物の三大欲がなかった。


 任意の変化ですら、構造さえ理解していればどんなものにだってなれる。雷に変化して攻撃するのは彼女の得意技だったし、深海だって真空だって溶岩の中だってなにも変わらない。たとえ星が爆発して虚空に投げ出されても、彼女は生きていられる――否、死ぬことができない(・・・・・・・・・)


 だからずっと、自分を殺せるものを探していた。

 そうやって生きてきた。

 

 死なない体を持ってしまった苦痛に苛まれ続けていたロズ。

 死ぬ方法を求めても手掛かりはなく、いっそこの世界を滅ぼしてしまおうか――そう自棄になり始めていた時だった。


 その妙な少女に出会ったのは。


「ここは! 僕に任せて先に行くのだ!」


 目的もなく、ただぼんやりと森を歩いていたときだった。

 ロズにとっては深い森も毒の霧も底なし沼も、もちろん魔物だって脅威にはならない。前に進もうと思えば、ロズを邪魔できるモノは何もない。

 自分がどこにいるのか、それすらも興味はなかった。


 声が聞こえたのは、森の奥深くのこと。

 そこにいたのは冒険者のパーティだった。


 剣士2人に魔術士が2人の4人組。彼らはボロボロに傷ついて、絶望した表情で腰を抜かして座り込んでいた。森の奥から逃げてきたのだろう。彼らの視線の先には、巨大な蛇の魔物――邪眼蛇バジリスクが舌なめずりをしていたのだ。


 冒険者たちが身の丈に合わない敵に戦いを挑んで返り討ちに会う、よくある光景……のはずだった。

 バジリスクの前で、10歳くらいの少女が木剣を構えてなければ。


「何を休んでいる! ここは! 僕に! 任せるのだ!」


 少女は木剣でバジリスクを牽制している。バジリスクは面白い物を見るように、余裕をもった表情で少女を見下ろしていた。

 冒険者たちは困惑しながらも、少女の言うとおり武器を捨てて逃げ出した。彼らの逃げていく様子を確認した少女は、なぜか笑みを浮かべながら続けてこう言ったのだ。


「よし来いヘビめ! いいかよく聞けよ、僕は帰ったら幼馴染と結婚するんだ! この冒険に出る前から、ここを最後にしようって決めてたんだ! それと僕の祖父がいつも言ってた、正義は負けないって! あと、ええと……そうだ、こんなところにいられるか、僕は自分の部屋に帰る! でへへ、でへへへへへへ……」


 なんか気持ち悪い笑い方を始めた。

 俗に言う死亡フラグを連発した少女は、なぜか蕩けた笑みを浮かべながらバジリスクににじり寄っていく。ヨダレすら垂らして興奮していた。

 さすがのバジリスクも困惑していた。


「さあはやく来いヘビ! 僕をヒト呑みにして胃液でじわじわ溶かし殺したり、ぎゅうぎゅう絞め殺したり、牙の毒で殺したりするんだろう! あ、でもまって、そういえば毒も石化も効かなかったのだ。僕は状態異常無効のスキルあるから、そこのところ考えてよろしくしておくれ! さあ、カモン! さっさと来るのだああああ!」


 少女は木剣を捨てて両手を広げた。

 言うまでもなく、恍惚とした表情である。


 バジリスクは顔を引きつらせて、すぐに背を向けて森の奥へ戻っていった。この少女と関わるなと本能が警告したのだろう。至極当然の判断である。


「ああまって! なんで逃げるの! ほら、美味しい獲物なのだあ!」


 これがロズと、後に勇者と呼ばれるド変態との出会いだった。


 10歳にしてすでにレベル40、スキルは30種類以上、天性の打たれ強さと不屈の精神――アレを不屈と呼んでいいのかは疑問だが――を持っていた彼女を、ロズはさすがに放ってはおけなかった。


 死にたがりの神秘王ロズは、しばらく死ぬ方法を探すのはやめて彼女を育てることにした。

 能力と性格のバランスが非常にあぶなっかしい彼女の世話を焼くことで、何か変わるかもしれないという予感もあった。


 結論、それは正しかった。

 ロズは少女が勇者として覚醒し、魔族の魔王を倒すまでの5年間彼女と共に生活をしていた。記憶がある千年のなかのたった5年。それだけのことだったけど、最も充実していた時間だった。


 勇者はロズの弟子として魔王を倒し、世界を救った。

 しかし実のところ、ロズは弟子という存在に救われたのだった。


 孤独は決して埋められないものじゃない。

 そう教えてもらえた。


 しかしある日、そんな勇者がいなくなった。強大な相手を求めて大陸を巡っている最中、忽然とその姿を消してしまったのだ。

 ロズはもちろん彼女を探したけど、なんの手がかりも見つけることはできず。

 また孤独を抱えてしまった王は、それでも前を見つめ始めた。


 これからも弟子を取ろう。


 彼女のように、自分が心から愛せそうな人間を見つけて、教え、育てていこう。

 時が経ち、いまの記憶が消えたらまた本当に孤独になる。


 その前に、また彼女のような相手を見つけよう。


 そう思って、弟子を取り続けた。

 それがロズの生きる目的になった。


 それから何百年も有望な人物を見つけては、弟子にして育てていった。

 だけど彼女ほど愛せる相手と出会うことはできなかった。それに不老不死のロズにとって、どれほど長寿の種族を弟子にしても、先に死ぬのは弟子だという真実を突き付けられ続けた。


 また少しずつ、孤独という名の呪縛がロズの足を絡めとり始めていった。

 何度も何度も弟子を取り、学びを与える日々を過ごす。


 ここ最近では、エルフの文学少年に植物学を教えた。

 ハーフエルフの占い好きな少女に薬学を教えた。

 人族の冒険者少女に魔術を教えた。

 

 そんな時、出会ったのだ。

 いままで出会ったなかでも頭数個分とびぬけた、天才的な魔術の素質を持った羊人族の少女に。

 

 そして自分をも凌駕する神秘術の才能をもった少年に。


 ロズは安堵した。

 かつての勇者の少女の記憶があるうちに、新しい感情が芽生えたことを。


 その少年はやけに大人びているけど、どこか幼稚でひねくれている悪ガキだった。

 頭がいいのに危うくて、放っておけなくてついつい世話を焼いてしまう。物語が好きすぎて、本を読み始めたら水も飲まずに没頭し続ける。伝承や神話に興奮する悪癖が、勇者のあの子に少し被ってしまう。


 ……ああ、楽しいな。

 ロズは彼と一緒に過ごしていて心からそう思った。


 彼はいずれ自分より先に死ぬだろう。

 だからせめて、それまでは彼のことを守ってあげたい。こんな身勝手な感情、きっと迷惑だろうから態度には出せないけど、それくらいの支えにはなってあげたい。

 ロズはそう思っていた―――ゆえに。


「……危険すぎる……」


 彼女と出会ったのは、そんなときだ。

 なぜか彼と似た匂いを感じる少女。

 だけど、圧倒的に大きなモノを抱えている彼女。



『数秘術1』



 ようやく見つけたのだ。

 ロズを殺すことができる唯一のスキルの種。

 かつて求めていた、神すら殺すことができるという、その素質を。


 出会う順番が違っていたら、きっと殺してくれと頼んでいただろう。

 でももう駄目だ。

 ロズは願ってしまったのだ。

 自分を孤独ごと消し去るより、彼のいる世界を守りたい。


 だからロズは、彼女を警戒していた。

 彼女のスキルが(マイナス)へと傾かないように、丁寧に育てることを誓って。


「でも、もし……もし彼女が心から世界を憎んだとき……」


 ロズはひっそりと誓った。

 それは絶対に、彼には言えない誓いだった。


「私は、彼女を殺してでも世界を――彼を救ってみせる」



~あとがきTips・スキルの進化編~


〇スキルの基本情報おさらい


 スキルには5種類ある。


・コモンスキル(例:『冷静沈着』『威圧』など)

・種族スキル(例:治癒系・属性付与系・身体強化系などの大枠。複数持っている個体もいる)

・魔術スキル(例:『癒しの息吹』など)

・神秘術スキル(例:『相対転移』『刃転』など)

・ユニークスキル(例:『万能成長』など)

 

 各スキルには《発動型(アクティブ)》と《自動型(パッシブ)》があり、どちらも兼ね備えている場合は《自動型(パッシブ)》で表記される。


 前提として《発動型(アクティブ)》《自動型(パッシブ)》ともに、スキルは基本それ単体で完結しているものである。

 ただし複数のスキルが統合して、上位スキルになることもある。(例:『錬成』など)



〇《発動型(アクティブ)》スキル、《自動型(パッシブ)》スキル


・《発動型(アクティブ)》スキルは練習次第で自由に使うことができ、自覚がなくても使用することがある。

・《自動型(パッシブ)》スキルは基本自動で発動し、自覚がなくても発動通知が出て自覚することがある。無自覚、あるいは視覚的余裕がない場合は発動通知がないことも多い。

 


〇数秘術スキルの進化・退化・負化


 数秘術スキルは単体で完結しておらず、持ち主とともに成長したり退化することがある。

 ルルクはいわゆるスキルツリーのようなものと考えているが、自分で進化先が選べるようなものではない。あくまで持ち主の心や環境次第であり、分岐先もそこまで多くはない。


 数秘術スキルの変化には3方向あり、上位スキルへの格上げである進化・下位スキルへの格下げである退化・そして性質が反対方向へと変わる負化がある。

 ロズがサーヤの『数秘術1』を警戒しているのは、この負化があるからだった。


 実際のスキル変化例は、心臓編終盤に記載予定。 



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― 新着の感想 ―
[一言] 不老は欲しいと思うけど不死は欲しいとは思わないな。
[良い点] ロズの感情それなりに重くて最高だわ。 いいぞもっとやれ!!(歓喜) [気になる点] まてよ!?異世界転生の時間差や、ロズの数秘術が日本で語られる八百万だったことを含めると、ロズも転生者なの…
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