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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅰ幕 【無貌の心臓】

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心臓編・27『オーク殲滅大作戦』

 

 今日は朝から予定通り、オークの集落殲滅クエストに来ていた。


 シャブームの街から南東の森の奥に湖があり、その湖畔には50年ほどまえに村民全員が行方不明になったという曰くつきの廃村があった。

 そんなホラゲー要素満載の集団失踪事件の真相は未だあきらかになってないらしいが、人がいなくなった廃村はオークにとって絶好の根城になっている。


 数年前までは十数匹住んでいるだけで、人間の気配があるところには出てこなかったのであまり危険視されていなかったが、とうとう繁殖しすぎてエサが足りなくなってきたのか街道近くの森で目撃されるようになっているのだ。

 このままだと人に被害が及ぶかもしれない、ということでクエストが設定されたんだとか。


 事情はどうあれ、王国騎士団が来れないような田舎の魔物を狩るのも、俺たち冒険者の仕事だ。

 余計なことは考えず仕事に集中集中っと。


「よ~し、さっさと殲滅して集団失踪事件の謎を解くぞ~」

「全然集中してない!」


 森を歩きながらワクワクしていると、サーヤにツッコまれた。


「そんなことないぞ。ちゃんと魔物……えっと、たしかゴブリン……じゃなくてオークだったか? オークの弱点だって調べてきたんだしな」

「どんな弱点?」

「頭か心臓だな」

「それ弱点って言わない」


 いやいや立派な弱点だぞ。ほぼ全ての生物が共通なだけで。


 というかオークは単体でDランクの魔物だ。ギルドの話だと100匹ほどが生息しているからAランククエストに設定されてたんだけど、正直殲滅戦なら何匹群れていようがさほど脅威じゃない。防衛戦なら面倒なんだけどな。


 そんなどうでもいい雑談をしながら森を進む。

 サーヤに人見知りしているのか、後ろをついてくるエルニは始終無言だった。


 そろそろ正午かという頃に、ようやく湖までついた。

 思ったより大きな湖で、澄んだ水がかすかにさざ波となって岸辺によせている。


 オークがいるという廃村は湖の反対側にあった。ここからじゃさすがに遠くてオークの姿は見えないが、湖に丸太のようなものがたくさん突き立っているのが確認できる。


 アレはオークの習性で、障害物を立てることで魚に隠れ家をつくらせて、そこに棲みついた魚を獲るらしい。

 なかなか賢い魔物だ。


「言っとくけど、私オークとなんて戦わないからね?」

「わかってるよ。サーヤは見学」


 そもそもオークは単体でDランク。ステータスはともかく精神的にサーヤにはまだ早いし、なにより集団殲滅戦だ。一対一とはワケが違う。

 ほっと胸をなでおろしたサーヤの代わりに、エルニが息を巻く。


「ん、まかせて。ふきとばす」

「ちょっとは手加減しような」


 もし全力でやったら湖ごと消し飛ぶだろう。できるからといって、地形は変えてはいけません。

 とくに今回は討伐証明をしなければならないので、オークの耳か鼻をたくさん持って帰らねばならないのだ。無駄に高い火力はクエストにあまり優しくない。


 修業期間中(ストアニアにいるとき)、それで何度も失敗してそのたび反省していたエルニだったが、いざ戦闘になると謎の破壊衝動が生まれるのかいつもオーバーキルになってしまう。

 何回受付嬢さんに呆れられたことやら。


 俺たちは木々を利用して姿を隠しつつ、湖を回り込むようにオークの集落に近づいていく。集落の外周には見張りっぽい武器を持ったオークが何匹かいるので、見つからないように慎重に。


 なんか潜入もののゲームを思い出すな。

 もちろんゲームとは違ってアラートで敵の意識を教えてくれたり、左上にサブマップが表示されているわけでもないので、不意の遭遇で見つかったら即戦闘の覚悟はしている。


 ただ、できれば各個撃破が望ましいところだ。一気に出てこられたらエルニの魔術で吹き飛ばすしかなくなるからな。


「うわ、オークってほんとに豚みたいね」


 初めてオークを間近でみたのか、サーヤが顔をしかめていた。

 筋肉質の豚が二足歩行で武器を持っている、といえばわかるだろう。体も大きいので、普通の人が出会ったら逃げたくなるのは間違いない。

 ちなみにオスは牙が生えており、メスは牙がない。


 オークにも幼体がいるが、生後半年で一気に大人になると言う繁殖力の高さがウリだ。

 ゴブリンと同じく、1匹見たら10匹いると思え系魔物だ。黒い害虫並みに増えるよ。

 たった1匹でも討ち漏らしてしまったら、数年以内に同じ規模まで膨れ上がってしまうから要注意だ。


「よし、そろそろかな」

「作戦はあるの?」

「そうだな……まず見張りを静かに制圧して、集落内に気づかれないように集落外部に罠を設置。そのあとエルニの魔術でけん制して、集落から出ようとするオークを罠と遠距離攻撃で各個撃破。しばらく続けたらそれなりに数が減ると思うから、あとは中に入って順番に殲滅していく感じかな。エルニ、それでいいか?」

「ん、もんだいない」

「よし。じゃあサーヤはここで見てて、もしオークか他の魔物が近づいて来たら叫んでくれ。すぐに助けに戻る」

「わ、わかったわ」


 コクリとうなずく幼女ふたり。

 俺はミスリルの短剣を抜いて、できるだけ集落に近づいてから見張りに向かって『刃転』を発動した。


 音もなく喉を裂かれたオークは、そのまま地面に倒れ伏す。


 そのまますぐさま森を出て集落へ向かった。俺は気配隠避のスキルがないから、自分自身に遠目ならオークの仲間に見えるよう『閾値編纂』をかけておいた。認識阻害が魔物相手にどれくらい通じるかはわからないけど、ないよりマシだろう。

 オークの死骸は近くの木の根元に隠しておいて、集落を囲むように罠を設置していく。


 罠の術式は『地雷』。


『閾値編纂』と『錬成』の術式を組み合わせて、設置式条件発動型の術式にしている。マントにかけてある結界術式と似た仕組みだが『地雷』は攻撃用だ。


 設置場所に一定以上の負荷がかかると、周囲の地面が形を変えて槍のように獲物を突き上げる、というものだ。ただ地面の形を変えるだけの術だが、オークの両足を貫くくらいの威力はある。

 集落を囲むようランダムに設置したら、一度エルニとサーヤのところまで戻った。


「準備できたぞ。攻めよう」

「ん」


 俺とエルニは木の陰から姿をさらす。

 ここからでも集落内にオークが何匹か見えるが、こっちにはまだ気づいていないようだ。

 エルニが杖を手に、魔術を唱える。


「『フレアストーム』」


 生まれたのは、火と風の複合魔術『フレアストーム』。


 なんの前触れもなく集落の中心に発生した業火の竜巻は、近くにいるオークを焼きつつ巻き上げて暴風を散らす。抵抗できないまま数体のオークは焼け死に、そのまま上空から落ちてくる。

 すぐに気付いて家から出てくるオークたちも、近い者は風にあおられて巻き込まれるか炎の余波に焼かれて倒れ伏す。何が起こっているかわからずパニックになって逃げまどうオークたちだった。


 まさに阿鼻叫喚。

 うわ~えげつな。さすがエルニさんっすわ。


 そこからはオークの悲鳴の大合唱だった。

 外に逃げようとしたオークの多くは『地雷』を踏み、土槍に貫かれて倒れていく。その隙に『刃転』を的確に弱点に叩き込んで確実に討伐する。


 半数近くを倒されてから、ようやく襲撃されていることに気づいたオークたち。それぞれ腰の武器をとって俺たちに襲いかかってくる。

 数匹はまず地雷で倒れ、その仲間を踏みつけて罠を越えてきたオークたちを確実に一撃で仕留めている。

 そうしているあいだにエルニの炎嵐が消えて、エルニも単体攻撃に魔術を切り替え始めた。


「ブォオオオオ!」


 雄たけびをあげつつ果敢に挑んでくるオークたちを、俺は囮になって引き付けつつ切り裂いていく。エルニは距離を取りつつ、初級魔術の『ファイヤーボール』や『サンダーランス』をぶつけて倒していく。


 オークのなかには、それなりに賢いのかエルニに接近しようとする素早い個体もいた。

 でも甘い。


 俺は複数のオークを相手しながらも遠距離に『刃転』を飛ばしてエルニを援護。もっとも、もし俺の警戒網を抜けてもエルニ自身が身を守るだろう。

 純魔術士が近接戦できないって誰が決めたんだ? うちのエルニはあと数センチの距離まで攻撃が迫ってても、まばたきひとつしないほど肝が据わってるんだぞ。そしてコンマ数秒あれば魔術を発動できる超速詠唱。


 ストアニアの冒険者ギルドで、エルニの戦い方を見た冒険者たちが〝近接魔術戦〟っていう言葉を造ってたくらいだからな。


 兎に角、前衛と後衛、しっかり意識した立ち回りをする俺たちを眺めて、それまで怖がっていたサーヤも感心して見入っていた。


 まあ、伊達にふたりパーティでダンジョン100階層まで到達していないからな。俺の立ち回りは至ってシンプルで、動きながらもほとんど視界の中にエルニをおさめるようにしているだけだ。フォローができるように全体を見ながら前衛で戦う、これに尽きる。わりと高度な冷静さが求められるけど、『冷静沈着』先輩のおかげで常に思考はクリアで、さほど難しくはない。先輩マジリスペクトっす。


 対してエルニはほとんど動かない。動いたとしても、俺の移動線と対称になるようにしていた。離れず、かといって近づかず、常に俺をフォローできる立ち位置を維持。さらに魔術を発動したら次の魔術を即座に唱え、いつでも切り替えられるように準備をしている。詠唱速度、威力、術の種類、継戦能力のどれをとってもエルニ以上に優れた魔術士を知らない。

 うちのエルニがチートすぎる。


 冷静に、敵を減らしていく俺たち。


「すごい。これがルルクとエルニネールなんだ……」


 サーヤは感心したような声を漏らす。俺とエルニが完璧に息を合わせて立ち回っている姿を眺めながらも、どこか苦しそうにギュッと胸押さえていた。 


「よし、出てくる敵もそろそろいないか。エルニ、俺は中のオークたちを狩っていくから、引き続き外に出てきたやつを頼む」

「ん」


 ここからは作戦通り、今度は別行動だ。

 相対転移で罠を越え、集落の中へ。


 廃村らしくボロボロになった家屋がたくさんあるが、ところどころ動物の骨や木で補強されていて、オークの住処だということがわかる。エルニの魔術でさらにボロボロになっているな。


 オークの家はエサの残りがそのまま放置されてたりして臭いし汚いが、一軒ずつ中を確かめていく。隠れて襲いかかってくるオークもいれば、この騒ぎのなか堂々と寝ているオークもわりといた。隠れている幼体や赤ん坊も少なからずいたが、そのどれも区別することなくしっかりと仕留めていく。


 可哀想と思うなかれ。ゴブリンとオークは1匹たりとも残してはいけない……それがこの世界の冒険者の鉄則でありルールだ。

 まだ幼体だからと見逃して、その半年後近くの村が成長した魔物に襲われて女性たちが残酷な目に遭ってから殺された、という実話はありふれていて、冒険者たちの教訓になっている。


 廃村の一番大きな屋敷跡に、他のオークに比べて体が大きく力も強そうな個体がいた。そいつは俺と顔を合わせると近くにいた護衛のようなオークを下がらせて、大きな一本槍を抱えて対峙した。

 言葉は分からないが、その行動の意味はわかる。


「ほう、一騎打ちか」


 みたところ上位個体に進化したのだろう。知能も上がって強さも増した、Bランク魔物のブラックオークになっている。


 俺も男だ。魔物とはいえ一騎打ちを申し込まれては受けないわけにはいかない。

 正面から向かい合い、視線を合わせた。


『ブゴォォ!』


 短い咆哮と同時、ブラックオークが突進してくる。

 身長3メートルほどの巨体の腕と長い槍。圧倒的な間合いを活かした攻撃を、俺はあえて正面からダッシュして間合いを縮める。


 槍を半身ずらしてかわし、そのまま間合いを詰める。

 が、ブラックオークも想定していたのか横に跳んで距離を保つ。巨体に似合わないなかなかの俊敏性だ。

 ブラックオークの足が地面に着く前に、俺は今度はバックステップで自分から距離を開けた。お互い間合いの管理ができる相手と戦うとき、小柄な方がわざわざ不利な膂力戦に持ち込む必要はない。


 ――と、普通なら考えるだろ?


 現にブラックオークもそう判断したに違いなかった。

 だからこそ、俺は攻めた。


「『錬成』」


 一歩後ろに下がった足元に術式展開。

 平たい地面を四角柱に変形する。


 それをブラックオークにむかって飛び出すように発動すると、地面が爆発的な速度で俺の足の裏を押し上げる。

 同時に、俺自身も地面を蹴って加速。二重の加速だ。


 砲弾のように加速した俺は、ブラックオークのわずかな油断の隙をついて一瞬ですれ違うように飛び込んだ。

 あとは、ミスリルの短剣を置くように走らせるだけ。

 紙を切るようなかすかな抵抗のあと、ブラックオークの首に一本の血の線が滲んだ。


「ブ……モォ……」


 ごとり、とブラックオークの首が落ちて体は仰向けに倒れた。

 それを見た近くのオークが慌てて逃げ出そうとしたので『刃転』で背中を斬る。

 よし。これで見つけたオークはすべて始末した……と思う。見逃しがないか、もう一度村の中をチェックしてこよう。


 警戒を解かずに村を回ったが、生き残っていたオークを見つけることはなかった。

 念のためエルニの『全探査』で索敵してもらい、最終確認を行ってから息をつく。


 ふぅ。これにてクエスト完了だ。


「ルルク! エルニネール! お疲れさま!」


 サーヤが水筒を出してくれた。

 冷たい水を飲みながら、死屍累々のオークの集落を眺める。


「ざっと120匹くらいだったな。中にブラックオークもいたぞ」

「ん、ルルクのがつよい」

「そうだけどさ。珍しく一騎打ち挑まれたんだよ」

「一騎打ち? 受けたの?」

「ああ。遠距離から仕留めるのは申し訳ない気がして、直接倒した」

「ブラックオークって強いの?」

「Bランク魔物だからな。それなりだよ」


 あの感じだと、もう少しでAランクのキングオークに進化しそうだったけどな。

 もっとも仕留めてしまったから、今更ではあるけど。


 俺たちは少し休憩を挟んだ後、オークたちの耳を切り落として回った。サーヤは耳を切り落とすだけでも顔をしかめていたけど、さすがに戦闘行為ではないので心を鬼にして経験させておいた。冒険者として生きるなら、戦いができなくてもせめてこれくらいはね。


 ついでに食用としても素材としても貴重な肝も捌いてとっておいたが、さすがにサーヤが吐きそうだったので経験させるのをやめておいた。


 こういうとき、ダンジョンの自動ドロップのシステムは楽でいいね。そういえば気にしたことなかったけど、何でダンジョン内では魔物が死んだら死体が消えて素材がドロップするんだろう……謎だよな……?


「うわ~手が血でベトベト……」


 サーヤが不快そうにつぶやいた。


「湖で洗えばいいぞ。冷たくて気持ちいいし」

「そうする……あ、そうだ! ねえルルク、湖の反対側にもどったらちょっと水浴びしていかない?」


 たしかに陽射しは強く、汗ばむ暑さだ。

 水浴びなんて言葉を久々に聞いたな、と思いつつ答える。


「サーヤがやりたいならご自由にどうぞ」

「なに言ってるの、ルルクも一緒よ。もちろんエルニネールも!」

「えっ水着ないんだけど」

「そんなのいらないでしょ! 私たち子どもなんだし!」

「子どもって言っても中身は……なあ」

「ナシ! いまはそれナシ! あ、それかルルクってもしかして子どもに欲情するタイプなの?」

「断じて違う! 俺の好みはエルフのお姉さんだ!」

「じゃあいいじゃない。あ、断ったらロリコン確定だから」


 それだけはやめてくれ。幼女は好きだが、ただ純粋に愛でているだけなんだ……!

 こうして不可抗力という名の理不尽に抗えず、無事にオークの集落を殲滅した俺たちは、なぜか水浴びしていくことになったのだった。

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[一言] 存在強度を維持したままマントに地雷を仕込めれば、ほんとに無敵になりそう()
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