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空の妖精  作者: 道豚
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Bになったんだ♪


 ファッションのフロアーで一番カラフルだと言える所「ランジェリー・ショップ」。この世の中で最後に残された「男子禁制の場所」のひとつ。その中に博美たちは居た。

「(ふー… いろいろ有るんだ。 わー… これってどんな人が着るの?)」

 博美が見ている物は、レースがふんだんに使われ、何故か大事なところが透けているように見える。

「あら? 博美。 こんなのに興味あるの? 勝負用に買っておく?」

 横に明美が来て、小さな声で聞いてくる。

「要らない、要らない。 勝負なんてしないから」

 大慌てで博美は否定した。

「冗談よ。 それより計ってもらわなくちゃね」

 そう言って明美は奥に歩いていく。

「こっちよ」

「うん」

 博美は明美の後を追った。




 博美の胸を店員のお姉さんが触り、持ち上げ、メジャーで計る。

「(なんだか、ちょっと恥ずかしいんだけど…… こんな風にして計るの?)」

 頬を桜色に染めながらも、博美はされるがままになっていた。

「(んふふふ…… 可愛いわー まだ成長途中で硬めなのね。 ああ、ずうっと触っていたい…)」

 何故か店員さんの頬も薄っすら赤くなっている。

「それで、如何ですか?」

 明美が店員の様子に気が付き声を掛けた。

「えっ! ああ… そ、そうですね…… えーっと、お嬢さんはアンダーが67センチでトップが78.5センチですので、サイズとしては65のBか70のAといった所ですね。この先、成長することを思えば70のBを使って、今はパットを入れておくのということも出来ます」

 店員の言うには、アンダーの違いによりカップが変わるらしい。

「えっ! AじゃなくてBが合うの?」

 博美はBという言葉に食いついた。

「はい、もちろんデザインによっても変わりますので、試着する必要がありますが、十分Bカップが使えると思いますよ」

 先ほどまでの痴態は何処へやら、プロの口調で店員が説明する。

「分かりました。 お母さん、いっしょに探そうよ」

 博美は明美の手を引いて商品棚に向かった。




 下着を買って博美たちはファッションフロアーを後にした。ランジェリーショップには来ず、一人で店を回っていた光も一緒に歩いている。博美はショートパンツから、ジーンズに着替えていた。

「へー… お姉ちゃん、Bカップになったんだ。 凄いね、春には全然無かったのに、急成長したんだね」

 光がランジェリーショップでの顛末を聞いている。

「うん。 今、着けてるよ。 このブラって、すごく気持ちが良いんだ」

 博美がTシャツの上から胸を持ち上げるようにしてみせる。

「ちょ… ちょっと、こんな所でそんな事しちゃ駄目だよ。 周りから見られてるよ」

 光が慌てて博美の手を押さえた。

「あっ…… あはは…… そうだよね。 つい…」

 博美が周りを伺うと、目を合わせないように横を向く男がいる。

「ほんとだ。 見られてるね」

 小さな声で光に言った。

「お姉ちゃんって、何処に居ても注目されてるんだから、変な事しちゃ駄目だよ」

 光も声を潜める。

「そうね、博美は自覚が無いから… 気をつけなさいよ。 犯罪に巻き込まれるわよ」

 二人のやり取りを聞いていた明美は釘を刺すのを忘れなかった。

「ところで、博美はこれから如何するの?」

 何だかんだと、もう直ぐお昼になる。

「レストランが有る5階のエレベーター前で樫内さんと待ち合わせなんだ。 お母さんたちは?」

「そうねー 私たちはフードコートで軽く食べようかしら?」

 明美が光に確認した。

「うん、良いよ。 それじゃお姉ちゃん、バイバイ。 気をつけて帰ってね」

 光は手を振るとエスカレーターに向かって歩き出す。

「それじゃ、樫内さんに宜しくね」

 光を追って明美も放れて行った。




 5階のエレベーター前は待ち合わせの人が数人居り、エレベーターが止まるたび全員がそちらを向く。何度かそんな事が繰り返された後……。

「えっ!……」

「うっ!……」

「はー……」

     ・

     ・

     ・

 降りてきた博美を見て、その場にいる者が残らず息を飲んだ。特に着飾っているわけでもなく、ジーンズとTシャツに少しヒールの有るサンダルというシンプルなファッションだが、スラリとした立ち姿はギリシャ彫刻のようだ。博美はショートボブの髪を揺らして周りを見渡す。

「(樫内さん、まだ来てないみたいだ)」

 仕方なくエレベーターから少し離れて待つことにした。




 周りからチラチラ向けられる視線に耐え、エレベーターが止まるたびにそちらを向きながら待つこと数分、博美の目は腰の部分にリボンの有る膝丈の白いワンピースを着た美少女を捕らえた。

「(あれって樫内さんだよね? なんだか何時もより可愛い……)」

 博美が戸惑っているうちに、博美を見つけた樫内が大きく手を振る。それに答えて博美も右手を肩の高さに上げて軽く振った。

「秋本さん、待った? 遅くなってごめんね」

 博美の目の前まで来た樫内の言葉は、こういう時の常套句だ。

「ううん。 ぼ、私も今来たところだから」

 そして博美の答えも様式にそっている。

「うふふふ……」

「えへへ……」

 二人は顔を見合わせて笑い出した。

「なんだか恋人同士みたいー」

「ほんと、ほんと。 秋本さんがジーンズで、私がスカートだからまるでアベックだよね」

 話しながら樫内の視線が博美を上から下までサーチする。

「ねえ、胸大きくない?」

 一度つま先まで下がった視線が再び胸まで上がってそこで止まった。

「えっ! 分かる? えへへへ、実はBになったんだ♪」

 嬉しそうに博美の声が弾んでいる。

「なんですって! い、何時の間に……」

 樫内が博美に詰め寄った。

「さっき、ショップで計ってもらったんだ。 あと少しだから薄いパッドを入れてるよ」

 樫内の剣幕に押されて、博美はパッドを入れていることを白状した。

「パッドが要るにしても、Bというのは聞き捨て成らないわね。 何処、何処のショップよ!」

 樫内は今にも掴み掛からんばかりだ。

「に、二階… ここの二階に有るランジェリーショップ…」

「よし、行くわよ」

 樫内が博美の手を握ってエレベーターの方に行こうとした。

「ちょ、ちょっと待って。 もうすぐお昼だから、お昼を食べてからにしようよ。 ブラは逃げないけど席は無くなるよ」

 樫内を引き止めて博美が訴える。お腹が空いたのだ。

「むっ… 仕方が無いわね。 それじゃ食べてから行くわよ」

 樫内は博美の手を握ったままレストラン街に向かって早足で歩き出した。




「(此処って、康煕君と来た店だ)」

 樫内に引かれて来たのは、以前博美が加藤に告白したイタリアンレストランだった。

「早めに来て良かったわ、もうすぐ満席じゃないの…」

 ほっとして樫内が零す。ランチが始まる時間を10分ほど過ぎたばかりなのに、店内は客でいっぱいだ。

「だから言ったじゃない。 ブラ見に行ってたら座れなかったね」

 博美は少しドヤ顔だ。

「そうね、今回は認めてあげる」

 苦々しく言うと、樫内は店員を捕まえた。




「(えーっと、康煕君と座ったのは……)」

 二人用の席に案内された博美は、加藤と座った席を探していた。

「(ひょっとして、あそこかな? でも… なんだか飾りがしてある……)」

 覚えの有る場所には確かに二人用の席があるのだが、その場所だけキューピットの壁紙が張ってあり、蝋燭の灯りが揺れている。

「秋本さん、あそこの席に興味あるの?」

 つい見つめていたのだろう、博美の視線に気が付いた樫内が尋ねた。

「うん、あそこだけ雰囲気違うね。 なんでかな?」

「実はねー 調べてきたのよ。 あそこはね、女の子が告白するとOKを貰える席なんだって。 インターネット上で有名よ」

 今度は樫内がドヤ顔だ。

「えっ! そうなの? (だから康煕君がOKしてくれたのかな?)」

 博美が考えながら尚も見てると、若い男女が店員に案内されて席に着いた。

「あー やっぱり予約されてたのね」

 それを見た樫内が小さな声で言う。

「あそこを予約しようとしたのよ。 でも男女二人で無いと予約できないって断られちゃった。 さっきの事、男には知られてないのよ。 だからあの女性が予約したんでしょうね」

「(だったら康煕君は心からOKしてくれたんだよね。 良かった)」

 樫内の説明を聞きながら博美は安心している。

「その始まりがね、4月に来た背の高い男と美女のカップルだったんだって。 その子の流す涙が素敵だったって、店のブログに書かれたのが伝説の始まり。 素敵ねー 憧れるわ」

 うっとりと樫内が目を瞑った。

「(え、えー それって…… ひょっとして僕たちじゃ……)」

 博美の顔は引き攣っていた。




 博美たちが食後のデザートのケーキを食べているとき、突然回りから拍手が沸き起こった。

「わー これがブログに載っていた祝福ね。 秋本さん、ほら一緒に拍手しようよ」

 周りに合わせて拍手をしながら樫内が博美を誘う。

「えーっと、どういうこと?」

 取り合えず手を叩きながら博美が尋ねた。

「あの席で女性が告白したのよ。 そしてOKされたのね。 そうしたら皆で拍手するんだって。 そう言う風にブログに書いてあったの。 やっぱりあの席にはキューピットが居るんだわ」

 樫内が目を「キラキラ」させている。

「今度、篠宮さんを誘ってOKさせよう」

 樫内の目は「キラキラ」を通り越し「ギラギラ」に変わっていた。





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