丸いお尻と白いふともも
「はい、そこまで」
終了のチャイムが鳴り、監督の教師が声を掛けた。
「答案用紙を裏にして。 後ろのほうから前に回して回収。 ほら秋本、止めなさい」
一番前の席に座っている博美は、答案用紙が後ろから回収されてくるまで粘っていたが、とうとう見つかってしまった。諦めて答案用紙を裏返す。そこに後ろから回ってきた解答用紙を乗せ、教師に手渡した。
「はあーーー」
教師が出て行ったと同時に博美が机につっぷした。
「全部終わったー」
そのまま動かない。
「博美ー なにしてるんだ? 帰らないのか?」
そんな様子を横から加藤が見ていた。それを聞いて博美は机の上で組んだ腕の中で顔を回し
「…………」
加藤のほうを「ジト目」で睨む。
「な、何だよ、その目は!」
「康煕君はきっと問題が解けたんだよね。 いいんだ、僕は…… ドイツ語がこんなに難しいなんて…… ぜったい赤点だよ。 はあーー」
今日で中間試験は終わりだと言うのに、博美は開放された喜びよりこれから帰ってくる試験結果への絶望感に苛まれていた。
落ち込んでいてもお腹は減るわけで、博美は加藤と並んで寮に戻っていた。
「赤点が無かったら原付の免許を取っていいってお母さんが言ったんだ」
なんでそんなに落ち込むのか聞かれた博美が訳を話す。
「おい! そりゃこの学校は原付の免許を取ってもいいぜ。 でも免許が取れるのは16歳からだろ」
加藤はまだ誕生日が来てないので15歳だ。自分より小さな博美もそうだろうと思うのも仕方がないだろう。
「んっ? 僕は16歳だよ。 そうかー 康煕君はまだ15歳なんだね。 んん~♪ 僕のほうがお姉さんなんだー」
気を良くした博美が胸をはる。
「ちぇっ、大して変わらないだろ。 そんな事で威張るなよ」
最近少し自己主張を始めた博美の胸から、慌てて加藤が目を逸らした。
「ところで、誕生日を聞いてなかったな。 何時なんだ?」
「5月30日だよ。 ごめん、教えてなかったよね。 康煕君は?」
「俺は11月9日だ」
「ほとんど半年違うじゃない。 やっぱり僕がお姉さんだ」
「半年じゃない、五ヶ月だ」
「男でしょ。 細かいこと言わないの」
「お前は女の癖に大雑把すぎるんだよ」
お互い負けず嫌いの二人だった。
一旦部屋に帰った二人は時間を合わせて食堂にやって来た。
「ところで、何で原付に乗りたいんだ?」
向き合ってお昼ごはんを食べながら加藤が尋ねる。
「えーとね、安岡さんに誘われた事は加藤君も覚えてるよね。 あれから考えたんだけど、その話を受けようと思うんだ。 飛行場が遠いから飛行機は安岡さんが運んでくれるんだけど、お店までは行かないといけないんだ。 スクーターが在れば便利かなって」
箸を置いて顔を上げ、加藤の顔を見ながら博美が話した。
「その為にわざわざスクーターを買うのか? 勿体無くないか?」
加藤はやや呆れている。
「お父さんが通勤に使ってたスクーターが在るんだ。 晴れた日にはそれで通勤してたんだよ。 雨の日は車だった。 その車はもう無いけどね」
「そうか、それじゃ一緒に飛ばせなくなるんだな」
「えー そんなこと無いよ。 一緒に安岡さんの所で飛ばそうよ」
「そうは言ってもなー 俺は誘われてないんだし……」
「やだよ。 康煕君が居ない飛行場なんて。 ねえ、なんとか一緒に飛ばせないかなー」
「こればっかりは安岡さんの考えだから、俺もクラブに入れてくれるか分からないな。 それより早く食べよう。 今日から部活があるぜ」
「そうだね。 もうすぐ大会もあるだろうしね」
改めて箸を持ち、博美もご飯を食べ始めた。
どんよりとした曇り空の下、博美は右に左に飛んでくるボールを追いかけている。
「秋本さん、ファイト! あと10球」
コートの向こう側に立ってボールを左右に打ち出しながら樫内が声を掛ける。
「はい!」
返事をする声は大きいが、博美はもうフラフラだ。
「(もう駄目…… 樫内さんの鬼!)」
心の中で毒づきながら、動かない足に鞭打ちボールを追い、ラケットを振る。
「はい、ラスト!」
最後のボールが苦手なバックに飛んできて、博美は盛大に空振りをしてその場にうつ伏せに倒れてしまった。途端に周囲から視線が集まる。
「(やった。 見えた)」
「(樫内、グッジョブ)」
・
・
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捲れあがったスカートからスパッツが見えている。別にパンツが見えているわけでは無いのだが、男どもはそのシチュエーションに興奮しているのだ。
「えっ? なに?」
ざわついた雰囲気に気が付き、博美が上体を起こして周りを見た。男どもはすかさず目を逸らして知らん振りをする。ところが一対の視線は逸らされない。
「何処見てるの? 樫内さん」
今だ下半身を「ガン見」している視線の主に向かって氷のように冷えた口調で博美が尋ねる。
「捲れたスカートから覗く、ぴったりとしたスパッツに包まれた丸いお尻♪」
博美の声に怯えることも無く、樫内が答えた。
「これで今夜のオカズは決まりだわ」
「ちょっと、樫内さん。 何言ってるの」
不気味な台詞に博美は引き気味だ。
「この前のお風呂で見た秋本さんのあそこ…… あれもオカズになるし・グエッ!」
突然の胸への衝撃で樫内の独り言が中断された。博美がボールをぶつけたのだ。
「樫内さん。 今度は私が球出しをするから、覚悟してね」
博美の足元にはボールの入ったバケツがあり、右手にはラケットを持っている。
「ちょっとー いきなり酷いじゃない。 ふっ、まあいいわ、受けて立つわよ」
不敵に笑うと樫内はベースラインまで下がりラケットを構えた。
右に左にと飛んでくるボールを軽快なステップで追いかけ、樫内は綺麗に打ち返す。返されたボールは殆どが相手コートのコーナーで弾んでいた。
「(むー なんで追いつくんだろ? 読まれてるのかな?)」
バケツからボールをつかみ出し左右にラケットで打つのだが、ことごとく拾われる。
「あと5球」
バケツに残っているボールを見て博美が声を掛ける。
「はい! 球がゆるいわよ。 秋本さん、ファイト!」
余裕のある樫内が普通とは逆に球出しをしている博美に檄を飛ばした。
「(くやしー)」
博美はボールを打つ力をどんどん強くする。しかし樫内は博美がどんなに強く打っても簡単に追いつき打ち返してくる。
「ラスト!」
最後の一球、博美は思い切りラケットを振った。
「わっ!」
ところが力みすぎたせいか空振りをして、その場で転倒してしまう。当然の様に周囲から視線が集まり、樫内もダッシュでネットにつめ、男子同様の視線を送った。
「痛ーい」
さっきの事があるので、博美は呻きながらも上体を起こしてスカートを直し、
「樫内さん。 また見てるの?」
樫内を牽制した。
「ああー 隠しちゃった…… でもしっかりメモリーに記録したわよ。 捲れたスカートから伸びる白いふ・と・も・も」
「変な事、メモリーしないで! それに樫内さんだって綺麗な足じゃない。自分のを見れば?」
それを聞き、樫内がネットを飛び越えて博美の側に来た。
「とんでもない。 比べると分かるわ」
樫内は博美と並んで座ると、スカートを捲る。
「ほらー」
博美の太股に自分の太股を沿わせ、博美のスカートも捲った。
「ねっ! 私は中学校の頃からテニスをしてるから筋肉が目立つでしょ。 触ると分かるわ」
樫内は博美の手を取って自分の太股に触れさせた。
「秋本さんは、柔らかーい」
そして自分は博美の太股を撫で回す。
「(んふふふ…… これで当分オカズには困らないわ)」
「本当だ、樫内さんってすごい筋肉が有るんだね。 だからあんなに動けるんだ」
樫内の太股は薄い脂肪の下に筋肉がしっかり付いている。
「でしょう。 秋本さんはこんなにならないでね。 (オカズが無くなるから)」
「樫内さん、今変な事考えてない?」
博美は樫内の声が微妙に変化したのに気が付いた。
「ううん、今夜のオカズにしようなんて思ってないから」
「やっぱり変な事思ってたんじゃない! 変態ー」
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「(お互いにスカートを捲って太股の触り合い)」
「(これが百合か……)」
二人は気が付いていないが、周りでは男子部員が残らず前かがみになっていた。




