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空の妖精  作者: 道豚
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ドクヘリ到着

今日は短めです

『患者は中学三年生の男子。 症状は腸からの大量の出血。 現在血圧は80/50。 意識混濁』

 どうにか意識を取り戻したドクターが救急車の救命士から患者の様子を聞いている。その無線はヘリコプターの乗員は全員聞くことができるので、看護士の桜井が必要になると思われる輸血の用意を始めた。

「みなみ6。 患者の血液型は?」

『A型です。 RH型は不明』

 それを聞いて桜井は手を止めた。もしRH型が合わなければ輸血できない……

「みなみ6。 なんとかしてRH型を調べて」

『分かりました。 この中学校の生徒なので、保健室に情報があるかもしれません』

 救命士はそう言って無線を切った。



「あと5分で到着する。 散水は間に合うか?」

 井上が南消防署に尋ねた。学校のグランドは乾いた土なのでヘリコプターの巻き起こすダウンウォッシュで舞い上がり、視界が遮られる可能性がある。それを押えるため、ドクヘリが下りるときには消防車が散水することになっているのだが、田舎ゆえ消防車が間に合わないようなのだ。

『申し訳ない。 消防車の到着にも5分掛かる』

 消防署の連絡係が済まなそうに返事をした。

「分かった。 そのつもりで着陸する」

「(まあいいさ)」

 井上は視界が利かない場合も想定した訓練やシミュレーションを思い出し、頭の中に操作手順を置いた。




「あれ消防車じゃないですか?」

 山下が左下の道を赤の回転灯を点けた消防車が疾走するのを見つけた。

「そうか。 間に合わなかったようだな」

 井上は簡単に答えると、全員に指示を出す。

「すぐに到着する。 現在追い風で飛んでいるため、Uターンして着陸することになる。 この中学校のグランドは気流が悪い。 歯を食いしばって揺れに耐えろ。 俺に任せておけば落ちることは無い」

「それは嫌味ですか?」

 桜井がつい口を挟む。

「だまってろ!」

 井上の口調からは冗談が消えていた。それもその筈、この中学校は山の麓に建っていて、今日の様な北西風の時は山を越えてくる風が上下にうねっていて、タイミングを誤ると下降気流に捕まり地面に叩きつけられてしまう。そして散水がされてない現在、悠長にタイミングを計っているとホワイトアウト(砂埃で視界が利かなくなる)により操縦不能になる可能性もある。それらを加味するとかなりの降下率で接地しなければいけない。ピッチを上げる、下げるタイミングと量が重要だ。




 ドクターヘリ「JA135E」は一旦グランドの上空を通過し、鋭く左旋回をした。

「あっ! 生徒たちが消火栓で水を……散水をしている」

 左の席に座っている山下が声を上げた。

「よし」

 それを聞き、井上はホワイトアウトの可能性を頭の中から消去した。これで難易度は相当低くなる。




「向こうの方がまだ乾いてるぞ」

「いそげ! 直ぐそこまでヘリコプターが来てるぞ」

 3年1組の男子全員が消火栓から伸ばしたホースを持ってグランドに水を撒いている。

「いい仲間たちね」

 その喧騒を聞きながら田中はベッドの上に倒れている秋本に声を掛けた。しかし秋本は意識を失っていて返事は無い。

「(ほんっと、可愛い顔してるわね。 体つきもほっそりして…… 本当は女の子じゃないのかしら?)」

 さっきまで救命士に症状の説明をしたり血液型を教えたり忙しかったのだが、いまは何故か誰も保健室にいなくなっていた。




 ヘリコプターはグランドに急降下してきたと思ったら、高度5メートルほどでタイミングを計るように一旦停まり、それから滑らかに地面にスキッドを着けた。エンジンが止まる。それと同時にフライトジャケットの男女がまだ回っているローターを潜って走ってきた。

「患者は何処ですか?」

 どうやら二人は医者と看護士らしい。待ち構えていた救命士が保健室に二人を案内した。

「土足で失礼します」

 二人は返事も待たずに保健室に入ってきた。

「医師の広川です。 此方は看護士の桜井です」

 簡単に自己紹介して広川は秋本の血圧を測りだし、桜井は輸血の用意を始めた。

「用意できました」

 桜井は既にRHがプラスだと聞いてたので、持ってきた輸血パックをセットして広川の指示を待っている。

「はい、初めて。 それと昇圧剤を」




「ここでは十分な診断もできませんし、病院に搬送します。 付きましては何方か付き添いされますか?」

 広川が田中に聞いた。

「私が付いていきます」

 田中がさも当然の様に返事をした。



この日は風が強いので、実際はホワイトアウトの可能性は少ない筈です。

ドクターヘリは名前の通り「医者」が乗って来ますので、医療行為がその場で出来ます。

救急車の救命士は簡単な医療行為しか許可されていません。

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