表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空の妖精  作者: 道豚
77/190

ポートレート


 博美のフライトの余韻がまだ残る中、集計結果が発表された。

「一位、眞鍋選手、2000点。 二位、井上選手、1990点。 三位、岡山選手、1980点」

 選手を集めて成田がメモを読み上げる。

「以上が予選通過者となる。 そして四位、徳島選手、1930点。 この選手が補欠。 以上、後の順位は掲示板で確認してくれ」

 それだけ言うと成田は後ろに下がり、安岡が前に出てきた。

「これで全日本曲技飛行選手権中国四国予選は終わります。 皆さんお疲れ様でした。 予選通過者はここに残ってください。 はい解散」

 安岡の言葉に皆それぞれに解散して行った。




 博美たちはテーブルの周りで閉会式を見ていた。

「予選通過者は残るんだって。 なにするのかな?」

 光が安岡の最後の言葉を気にしている。

「多分、写真を撮るんじゃないかな?」

 博美が答えた。

「よく雑誌に飛行機を持った写真が載ってるもの」

 毎月読んでいる雑誌の記事を思い出したのだ。

「それじゃ井上さん雑誌に載るの? わー 楽しみだわ。 どんな顔で写ってるかしら」

 桜井の声のトーンが高くなった。

「おーい、博美ちゃん。 こっちにおいでー」

 突然、井上が本部席の前で呼んだ。

「はーい! なんですかー」

 返事をして博美が走っていく。

「むっ! 私じゃないのね」

 桜井が変なところでむくれているが、待っていたのは成田だった。

「来たな。 それじゃこれを持ってそこに立って」

 いきなり「ダッシュ120」を渡してくる。

「わっ! いきなり何ですか?」

 突然わたされた「ダッシュ120」を落としそうになり、博美が悲鳴を上げた。

「いいから、そこに立って」

 井上が「にこにこ」しながら指示をした。その隣には博美の知らない男がカメラを持って立っている。

「ここですか?」

 訳が分からないながらも博美が「ダッシュ120」を持って立った。

「もう少し機体を左に寄せて、あと少し立てて」

 カメラを持った男が博美に指示をする。

「ねえ、お姉ちゃんがあそこで写真を撮ってるよ」

 光が明美に教えた。

「あらほんと。 やだ、あの子髪がぐちゃぐちゃじゃない」

 博美の髪は今日の風で乱れている。明美がそれに気が付き大急ぎで駆けつけた。

「博美、あんた髪が酷い有様よ。 梳いてあげるから待ちなさい」

 明美が博美の髪を櫛で梳き始めた。カメラを持った男は特に気にする様子も無く終わるのを待っている。

「さあ、いいわよ。 でもこれって何の撮影?」

 明美が尋ねた。

「知らない。 急に言われたんだ。 何だろうね?」

 博美も訳が分からない。

「あれー 聞いてないの? 成田さん、彼女聞いてないって」

 男が成田に声をかけた。成田が本田を連れてやって来た。

「わるい、説明を忘れた。 博美ちゃん、こいつはラジコン雑誌の記者なんだ。 それでな、博美ちゃんのポートレートを載せたいんだとよ。 協力してやってくれ」

 謝りながらも、雑誌に写真が載るのがさも当然なような話しぶりだ。

「えー! 全国紙ですよね。 恥ずかしいですよ」

「顔は売っておいたほうがいいぜ。 どうせ全日本選手権に行くんだからな」

 井上が横から口を挟む。

「ええっ! 彼女予選には出てないですよね」

 それを聞いて本田が言う。

「俺の助手だから選手権には行くぜ。 それに目慣らし飛行をすることになったから」

 井上が簡単に説明した。

「目慣らし飛行なんて聞いてないですよ?」

 博美は知らないことだ。

「さっき皆で決めた。 どうせ助手で来るんだろ、せっかくだから「空の妖精」を見せてくれ」

 成田がことも無く言う。

「成田さん「空の妖精」って何ですか?」

 博美は初めて聞いた言葉だ。

「これもさっき閃いた。 博美ちゃんのことだ」

「えーー! なんですかそれ、恥ずかしいですよ!」

 博美が「ダッシュ120」を持ったまま身を捩じらせる。

「遅くなるんで、そろそろ撮りましょう」

 記者がカメラを構えた。博美は仕方なくポーズをとる。

「そうそう。 博美ちゃん、今度から風の強い日はズボンでおいで。 今日は時々白いものが見えてたよ」

 記者の横で成田が思い出したように言う。

「うそだー! 今日僕は白じゃないもん。 水色なんだから」

「ばか! 自分から言う奴があるか」

 加藤の声が聞こえてきた。

「あっ!……」

 博美の顔が赤く変わった。いつもなら手で顔を隠すのに、今は「ダッシュ120」を持っていて隠せない。

「わーー 可愛い」

「若いねー」

     ・

     ・

     ・

 周りから歓声が上がった。

「もうーーー みんな馬鹿ーー」

 そっと「ダッシュ120」を下におろすと博美は明美の車に走っていった。




 時間がたつにつれ、飛行場から人が少なくなっていく。遠くから来ている選手は早く帰らないと明日からの仕事に差し障るのだ。

「そろそろ帰りますか?」

 小松が皆に言った。

「そうだな、皆明日からは仕事だったり学校だったり忙しいからな」

 井上がそれに答え、博美に向かって言う。

「博美ちゃん、今日はありがとう。 来てくれなかったら俺は予選を通過できなかったよ」

「いいえ、こちらこそすみませんでした。 手術なんかしたものだから、井上さんに心配かけてしまって」

 ますます強くなった風にスカートを抑えながら博美が答えた。

「そう言えば、安岡さんが博美ちゃんを欲しがってたぜ。 どうするか考えておいてくれ」

 井上は合同練習の時の話を思い出した。

「えっ! 安岡さんって独身?」

 博美の大きな目がさらに大きくなった。

「いやー 確か奥さんは存命でお孫さんもいるはずだ」

 何を聞くのか不思議に思いながら井上が返事をする。

「だったら何で僕が欲しいのかな?」

 博美は理解できない。

「おい…… ひょっとして養子とか結婚とか考えてないよな?」

 加藤が博美を見て言った。

「えっ、違うの?」

 博美が加藤を見る。

「違う。 安岡さんは博美ちゃんに自分のクラブに入って欲しいってことだ」

 やれやれと加藤が噛み砕いて説明した。

「なんだそうかー あーびっくりした。 でもクラブに入るとここまで来なきゃいけないよね。 遠いなー」

 博美はやっと理解したようだ。

「安岡さんは博美ちゃんに教えたいみたいだぜ。 正直言うと、俺も博美ちゃんを手放したくは無い。 しかし博美ちゃんは俺よりずっと上まで行く人間だ。 それを思うと、博美ちゃんは安岡さんに習ったほうが良い」

 井上が博美を見て言う。

「まっ、今決める必要は無い。 ゆっくり考えるんだな。 どっちにしても選手権では助手をしてもらえるんだよな」

「はい、選手権でも助手をさせてください」

 博美がにっこりとお辞儀をした。




 明美の運転する車の助手席に何時ものように博美が座っていて、光は後ろの席で寛いでいる。

「お姉ちゃん。 クラブ変わるの?」

 光もさっきの話を聞いていたようだ。

「分からない。 井上さんと離れるのは嫌かもしれない。 でも新しい事に興味もある。 今はまだ分からないよ」

 流れる景色を見ながら博美は答える。

「それに今は次の手術のほうが気になるよ」

「そうね、今すぐ決める必要が無いことは後に回しなさい。 とりあえずは次の手術ね。 それにそろそろ試験があるんじゃない?」

 明美が学生の一番嫌な事を思い出させた。

「光はもうすぐだよね。 僕はもう一寸先だから……」

「まっ、頑張りなさい」

 光と博美の顔が少し引きつったのを明美は気が付かなかった。





いつも読んでいただき、ありがとうごさいます。どうやら一段落つきました。

現在、執筆速度は一話1~2週間です。ストックを利用してなんとか週に二話投稿を維持してきましたが、流石にストックも尽きました。

ここで少しお休みを頂き、ストックを増やしたいと思います。

目安として二ヶ月程度を考えています。

勝手なことですが、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ