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空の妖精  作者: 道豚
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発熱

 ゴールデンウイーク最後の日となる日曜日、寮の部屋で永山は朝から机に噛付いていた。追い込まれるまで何もしない性格の彼女の元には、明日提出期限のレポートが溜まりに溜まっていて、とてものんびり休んでは居られなかったのだ。

「あ~~あっ。 もう、何でこんなにレポートがあるのよっ! とても終わらないっ」

 サボっていた自分が悪いのにも係わらず、悪態をつきながら背伸びをする。

「(もう夕方じゃない。 ご飯食べてこなくちゃ)」

 机に手を突いて、のろのろと立ち上がり、もう一度背伸びをした。

「やっとまともなご飯が食べられる~」

 昨日の夕方に寮に戻ってきて、今日の朝は菓子パン、お昼は冷凍ピザと簡単に食べられるものしか口にしていなかった永山は、うきうきと食堂に向かった。




「ただいまー 裕子ちゃん、お土産買ってきたよ。 あれっ、居ない?」

 博美が部屋に帰ってきたが、珍しく永山が居ない。

「(ご飯食べに行ったのかな?)」

 荷物を自分の机の横に置いて永山の机を見ると、レポート用紙が広げてある。どんな事を勉強しているのか興味がわいた博美は書きかけのレポート用紙を覗き込んだ。

「(うえっ! なにこれ? 記号ばっかり……)」

 化学の実験だったのか、レポート用紙には博美には「ちんぷんかんぷん」な化学記号が並んでいる。

「(僕はやっぱり機械科にしておいて正解だった)」

 博美は自分のベッドの上に寝転がった。

「(それにしても、休みだって言うのに裕子ちゃん勉強してるんだ。 凄いなー)」

 サボっていた為に仕方なくやっている事を知らない博美は感心するばかりだった。




「それじゃーねー」

 食堂で一緒になった物質工学科のクラスメートに手を振って、永山が部屋のドアを開けた。

「(あれっ! 博美ちゃん帰ってたんだ)」

 ベッドの上で着替えもせず博美が寝ている。少し伸びた髪の毛が頬にかかり、少し開いたピンクの唇がつやつやと輝いている。何時もは「ぱっちり」と開けられている目は今は閉じられ、長いまつげが目立っていた。

「(綺麗……まるで天使だわ)」

 永山は操られるようにベッドに近づいた。

「(少しなら良いよね)」

 ベッドに手を付いて、顔を近づけていく。

「(もう少し……)」

 今にも唇と唇が触れそうになった時、博美の目が「ぱっちり」開いたと見るや突然永山は突き飛ばされた。

「裕子ちゃん! びっくりさせないで!」

 起き上がった博美が胸を押さえている。

「あ~あ、惜しかったな~ もうちょっとだったのに」

 永山は本当に残念そうに言った。

「でもね、博美ちゃんが可愛いからいけないのよ」

 反省はしてないようだ。




 翌朝、博美はなにか身体が熱くて目が覚めた。下腹もじんじん痛んでいる。

「(あ~ 始まったかな?)」

 枕もとの目覚まし時計を見ると、まだ五時前だ。当然永山は寝ている。

「(汚してないかな?)」

 そおっと掛け布団を捲り覗き込んでみるが、どうやらシーツは汚れていない。博美はそのままベッドから降りてトイレに向かった。

「(やっぱり始まったんだ~ あ~あ、めんどくさいなー)」

 トイレに座ってちょっと力を入れるだけで、やや黒くなった経血が便器を赤くした。

「(四回目か……なんとなく慣れちゃったな。 でも熱っぽいのは初めてだ)」

 なにか熱があるような、頭がふらふらするのを博美は感じていた。




 いつも博美に起こされる永山がふと目を覚ますと、部屋はずいぶん明るくなっていた。一応持っている目覚まし時計を見ると起きる時間はとっくに過ぎている。博美のベッドを見ると、布団が丸く膨らんでいて、未だ博美が寝ているのを表していた。

「博美ちゃん! 起きて、起きて。 もう七時だよ!」

 永山は慌てて起きると博美の入っていると思われる布団を揺すった。ゆっくりと布団から博美が顔を出す。

「ひっ! 博美ちゃん、どうしたの?」

 夕べの天使のような綺麗な顔は何処へやら、生気の無い青い顔を見て永山の声が裏返った。

「裕子ちゃん……お腹が痛い……気持ち悪い……」

 消えるような声で博美が答える。

「えっ! 気持ち悪いの? 洗面器持ってこようか?」

「そこまでじゃない……ごめん、体温計ある?」

「えっと、私は持ってないから借りてくるね」

 永山はパジャマのままで部屋を飛び出していった。




「ちょっと、なに慌ててるの。 まだ遅刻しないわよ」

 永山は寮備え付けの薬棚で体温計を見つけると、すれ違うクラスメートの声を聞き流し、二階の部屋まで駆け上がってきた。

「博美ちゃん、持って来たよ」

 ベッドの上で、さっきからまったく動いた様子の無い博美に声をかけ、体温計を脇の下に差し込んだ。

「あっつい! なにこの体温」

 博美の体は、まるで湯たんぽの様に熱い。

「計るまでないわよ! 絶対40度はあるわ」

「ねえ、休まなきゃいけないかな?」

 体温計が差し込まれたのに気が付いて、博美が尋ねる。

「あったりまえよ! 私が連絡しといてあげる。 担任ってだれ?」

「社会の堤先生」

「分かった。 あの小さなおっさんね」

「うん、そうだけど……先生にその言い方は無いよ」

 弱っていても「天然」な博美だ。




 朝食もそこそこに職員室に行った永山は「小さなおっさん」の堤先生に博美の事を伝えると、保健室に向かった。

「しつれいします。 田中先生いらっしゃいますか?」

 ノックをしてドアを開ける。

「はい。 何かしら? え~と、永山さんでしたかしら?」

 田中はちょうど来たところのようで、白衣を羽織るところだった。

「はい、あの……ルームメイトの秋本さんが凄い熱で。 彼女が田中先生に来て欲しいそうなんです」

「えっ! 秋本さんが? 何度ぐらい?」

「さっき計ったら41度ありました」

「分かったわ。 すぐに行ってみる。 永山さんは授業に行きなさい」

「私も何かお手伝いします」

「ありがとう。 でもね、あなたは学生だから、ここは私たちに任せて」

「でも……心配です!」

「大丈夫よ。 さあ、教室に帰りなさい」

 永山はしぶしぶ保健室を出て行った。

「(秋本さんに何が起きているのかしら? たしか広川先生が何かあったらすぐに連絡してくれって言ってたわね)」

 永山の足音が遠くなった事を確かめ、田中は田中総合病院の広川に電話をかける。

『広川先生、おはようございます。 田中です。 いま電話してもいいですか?』

『おはよう。 ああ、大丈夫だ。 まだ家にいる』

『秋本さんなんですが、今朝から41度の熱を出しているらしいんです』

『分かった。 様子を見て、下腹が痛むようだったら連れて来て』

『分かりました。 これから行きます』

 診察道具をカバンに詰めると、田中は黄色い「ビートル」で寮に向かった。




博美は括約筋のおかげで経血が勝手に出てくることが殆どありません。

基本的にトイレで出すことになりますが、ただ水のように「さらさら」なので出てしまう事もあります。

その為、ナプキンを付けています。

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