表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空の妖精  作者: 道豚
52/190

うふ・うふふ……

ついにデート?


 ベッドの上に洋服を並べて、博美は悩んでいた。枕元には若者向けのファッション誌が広げてある。

「(加藤君、どんなのが好きなのかなー)」

 夕べは「デートじゃない」なんて言っていた割には、まるで恋人に会う乙女の心境だ。

「(やっぱり女の子らしいのが良いよね)」

 やっと決まったのは柔らかな綿の、衿と袖に細かいレースで飾りの付いた半そでシャツの上に、ひざ上長さのピンクの小花柄キャミワンピだった。

「(ちょっと短いかも……)」

 博美はドレッサーの前でくるくる回ってみる。ワンピースの裾がふわりと広がり、太ももが覗くのが色っぽくて顔が赤くなった。

「(だめ! 恥ずかしい)」

 仕方なく、ジーンズを下に穿くことにした。




 洋服が決まったので、メイクをしてセミロングのウィッグを付けると、博美はダイニングに下りていった。

「おはよう」

 ダイニングには珍しく早起きをしたらしい光が居た。

「おはよう、お姉ちゃん。 なになに、朝からお化粧して、ウィッグまで付けて、どうしたの? ひょっとしてデートー?」

「ち・ちがうよ…… ちょっと一緒にお店に行くだけ」

「だれとー?」

「誰でもいいじゃない! とにかくデートじゃないから」

「へへへー もしかして加藤さん?」

「もー 誰でもいいじゃないの」

「やっぱり加藤さんなんだ。 加藤さん良い人だもんね。 カッコいいし」

「……なんで分かるの?」

「お姉ちゃんが加藤さんを見る目って、恋する乙女って感じがするもんね」

「…………」

 博美は耳まで真っ赤にして俯いてしまった。

「聞こえてたわよ。 やっぱり加藤君とデートだったのね」

 キッチンから明美が朝食を運んできた。

「うん、博美。 なかなか可愛く出来たじゃない。 これなら加藤君もイチコロね」

「おかあさん! そんな……そんなよこしまな気持ちじゃ無いから」

「何言ってるの。 女の子は時には悪魔にならなきゃ」

「そうよー お姉ちゃんって、奥手なんだからー」

「…………」

 2対1では博美は絶対敵わない。 どんどん追い込まれて、言い返せなくなった。

「さあ、ご飯にしましょ。 光、手伝って」

 もう十分だと、明美が終了宣言をした。




 田舎とはいえ、日曜日の朝のバスはそれなりに込んでいて、座れたにも関わらず博美は少し疲れてバスセンターに着いた。

「(わー 人多すぎ……)」

 加藤と待ち合わせるはずの待合室も人でごった返している。

「(失敗したなー こんなに人が多いなんて……)」

 人ごみにしり込みした博美は中に入れない。仕方なく、加藤にメールを出すことにした。

{人が多すぎて待合室に入れない。 どこか場所を変えよう}

 通路に立っていると邪魔になるし、なんだか通る人がお尻や胸に触っていくような気がして、博美はバスセンターから外に出てしまった。

{ごめん、まだバスの中だ。 それじゃバスの止まる3番口で待ってて}

 博美が不安になったころ、やっと加藤からメールが帰ってきた。

{分かった、待ってる}

 簡単にメールを返すと、博美はバスセンターに再び入っていった。




 バスの乗車場と違って降車場は、丁度到着するバスが少ないと見えて人影も疎らで、さっき自分も降りた場所の筈なのに、まるで何処かの廃墟に紛れ込んだようで、博美は寂しくなってきた。

「(加藤君、早く来ないかな)」

 加藤のメールにあった3番口の近くにあったベンチに埃を払って座り、博美は不安な目で辺りを見渡した。ふと気が付くと、此方に歩いてくる人影が見える。近づくにつれ、若い男の姿となったそれは、博美の座っているベンチに「どっか」と座った。

「(……加藤君、早く来て……)」

 泣きそうになった博美は、ベンチの上でバッグを抱え体を小さくして、ただ俯いていた。




 5分も経っただろうか、博美はちらっと、間を開けて座っている男を見た。男はスマホを見ているようだ。すると「ふっ」とその男が笑顔になり、何かスマホに打ち込みだした。

「(この人も、誰かを待っているのかな。 もしかして恋人?)」

 なにか仲間を見つけたようで、博美は寂しさが消えていくのを感じた。ふと気が付くと、周りに人が集まっている。

「(???)」

 博美が不思議に思っていると、バスのエンジン音が響いてきた。

「(そうか。 バスが着くので、迎えの人が集まったんだ)」

 目の前に、座れず立っている人が窓から見えるバスが止まり、次々人が降りてくる。ちょっと大人びた女の人が降りてくると、その人は顔を輝かせ、博美の座っているベンチに歩いてきた。さっきまで座っていた男は既に立ち上がっていて、その女の人を迎えると肩を抱くように出口に歩いていった。

「なにボーっとしてるんだ」

 突然頭の上で声がして、博美は上を見上げた。

「加藤君!」

「うわっ! ち・ちょっと……」

 待ち焦がれた加藤を見て、博美は立ち上がって抱きついていた。




「うふ・うふふ……」

 加藤の左手を胸の間に抱くようにして、博美は路面電車の乗り場にいる。ヤスオカ模型は、この路面電車で二駅西に行った所にある。

「おい、博美ちゃん。 今日はどうしたんだ?」

 顔を赤くして加藤が尋ねる。

「博美って呼んで」

 加藤の問いには答えず、博美が甘えた声で言った。

「博美…… 今日はどうしたんだ?」

「んーーー」

 博美は頬を加藤の肩に押し付けて、うっとりとしている。

「うれしい…… ねえ、加藤君…… 私も名前で呼んで良い?」

「あ・ああ…… 別に良いけど…… ほんと、どうしちゃったんだ?」

「康煕君…… ねえ、今日の私のファッション、似合ってる?」

「良いと思うぜ。 かつらを付けてるんだよな?」

「ウイッグって言うんだよ。 ねえ、いつもの私とどっちが良い?」

「どっちも博美だ。 俺にとって違いは無いよ」

「嬉しいけど、微妙…… 一生懸命考えたんだよ」

「見た目は違っても、俺にとってはどちらも博美だ。 中身は変わらないからな。 今日の格好が似合ってない訳じゃないぜ。 可愛いと思う」

 博美の顔が「ぱっ」と輝いた。

「ねえ、最後に何て言った?」

「可愛いと思う」

「う・れ・し・い」

 周りで路面電車を待っている人たちが「どん引き」しているのも気がつかない博美だった。



初めて加藤と二人で出かけるので、博美は気合が入っています。

待っている間寂しかった反動で、博美は甘えています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ