反省会
門限って有る?
「もしもし、 あっ おかあさん? 博美です…… うん、終わったよ。 今、井上さんたちと喫茶店。 それでー これから反省会をするんで、帰るのが少し遅くなるんだけど…… うーん、多分7時ぐらいに帰れるんじゃないかな? …… えっ! 井上さんと代わるの?」
取りあえず休憩に入った喫茶店で皆が一息ついた所で、井上が今日の反省会をしようと言い出した。それを聞いた博美が、帰りが遅くなると母が心配するからと、家に電話を掛けたのだった。
「井上さん。 母が代わって欲しいって」
博美が井上に携帯電話を渡す。
「替わりました、井上です…… はい分かっています…… はい遅くはなりませんから」
明美が何か言っているようだ。
「博美ちゃん。 代わろう」
再び博美に携帯電話が帰ってきた。
「おかあさん、何? …… そんなことする訳ないじゃない! それじゃ切るね」
「最後に何を言われたんだ?」
少し怒ったような口調で電話を終わらせたので、加藤が気になったようだ。
「ほんとに井上さんと居るのか確かめるために電話を代わってもらったんだって。 嘘ついて夜遊びしてるんじゃないかって。 失礼しちゃうわ」
「へー 意外と信用が無いんだ」
「心配しすぎなのよ」
博美の怒りはなかなか収まらない。
「こんな所かな? そろそろ帰ろうか」
井上が反省会を終わらせた。さっき明美に約束した手前、博美を遅くまで帰さないわけにはいかない。
「あの、次回の練習は何時にします?」
博美が尋ねた。
「ゴールデンウイーク中に一度出来ると良いな。 予選は5月の中ごろだから、それが最後の練習になると思う」
「はい、分かりました。 また連絡してください」
「「よし、帰ろう」」
小松と井上が席を立とうとすると
「すみません、トイレに行ってきます」
加藤が二人に言って、席を立った。
「あっ! 僕も」
博美も席を立って、加藤を追いかけた。
加藤がトイレに入ろうとすると、博美が後ろから
「加藤君。 話があるからちょっと待ってて」
そう言って、トイレに入っていった。
「お・おう。 分かった」
突然のことでビックリしながらも、加藤は返事をして自分もトイレに入る。
「(何だよ…… ビックリさせやがって。 何の話があるんだ? 井上さんたちには聞かれたくないのか?)」
まあいいや、と思い直して、加藤は手を洗ってトイレから出る。博美はまだ出てこないようだ。
「ごめんごめん。 待った?」
謝りながら、割と直ぐに博美が出てきた。
「今出てきた所だけど。 話って何だ?」
「ねえ、明日何か用事がある?」
「別に無いよ。 家でごろごろしてるつもりだった」
「じゃあさ、一緒に街へ行かない?」
「いいけど。 どこか行きたい所があるのか?」
「安岡さんのお店。 ヤスオカ模型に行ってみたいの」
「なんだ、そんなことか。 いいぜ、一緒に行こうか」
「それでね、どうせならそのまま寮に帰ろうかなって。 いちいち家まで戻ってまたバスを街で乗り換えて寮に帰るなんてバカらしいでしょ」
「OK。 それでいいぜ」
「ありがと」
二人は井上たちが待っている席に戻ってきた。
「遅かったな。 二人で何をしてたんだ?」
「いや、別になんにも無いですよ」
加藤が平然と返す。
「まあいいか。 さあ帰ろう」
四人は駐車場に来た。
「それじゃ、さよなら」
「さよなら。 今日は有難うございました」
「気をつけて帰れよ。 それじゃな」
「さよならー」
井上のレガシィの助手席で博美は、イルミネーションが灯りだした街を見ている。
「博美ちゃん、さっき加藤君とトイレに行ったとき、何を話していたんだい?」
博美が何時もと違って静かなのを訝しんだ井上が、声をかけた。
「明日、一緒にヤスオカ模型に行こうって、誘ったんです」
「うん? 振られたか?」
「いえ、一緒に行ってくれるって」
「良かったじゃないか。 なんでそんなに黄昏てるんだ?」
井上には、どうも博美が悩んでいるように見える。
「悩みでもあるのか?」
「男の子って、おしとやかな女の子が良いんですかね? 僕はどちらかと言えば「お転婆」だし」
博美が前を向いたまま話し始める。
「そんなの、人によるとしか言えないな。 誰か気になる男の子でも居るのかい?」
「どんな風に、気持ちを伝えたらいいのか分からないんです。 その人、何時も淡々としていて、僕のこと如何思っているのか分からなくて……」
「(そうか、博美ちゃんは加藤が好きなのか。 それで勇気を出して誘ったんだな)」
井上は此処まで聞いて、相手が加藤であることに気が付いた。
「焦ることは無いと思うよ。 思いは何時か届くから」
「でも。 もしその人に彼女が出来たらって思うと、もう耐えられない……」
「そうか…… だったら、少し行動をしてみな。 意外と両思いだったりするぜ」
「…………」
家に着くまで、博美は無言だった。
「おかあさん。 明日は何も用事は無いよね?」
夕食を食べながら博美が尋ねる。
「ええ。 別に何も無いわよ」
「それじゃ、明日は街に行って良い?」
「そうねー 別に良いんじゃないかしら。 誰と何処に行こうと思ってるの?」
「加藤君とヤスオカ模型っていう模型屋さんに行く約束をしたんだ」
「あら。 デートにしては変わったお店ね」
「デートじゃ無いよ。 お店に興味が有るだけだから」
「はいはい。 分かったわ」
「デートじゃないっていうのにー」
夕食後、博美はお風呂に入っていた。
「少し大きくなったよね」
湯船の中で乳房をマッサージしながら独り言を言う。光が持っていたティーン向けの本に載っていたのを読んで、それを実践しているのだ。
「絶対大きくしてやるんだから」
人目のある寮のお風呂では出来ない分、ここぞとばかりのぼせそうになりながらも頑張る博美だった。
同じ趣味の人たちと喫茶店で喋るのは楽しいものです。仕事や年齢の違いを殆ど無視できます。
たまには「威張る」人もいますが、そんな人は直ぐ居なくなりますね。
博美の胸は未だAに届いていません。




