女じゃない
わりと博美はいじられキャラ……
「おはよう」
休みが明けた月曜日、博美が登校してきた。
「おう。 面接はどうだった?」
それを見てクラスメート達が尋ねてくる。高専の試験は私立高校より、ましてや公立高校より早く行われるので皆参考にしたいのだ。
「もうやばい位緊張するぞ。 僕は腹が痛くなったし、気持ちも悪くなったから」
博美がその時の事を若干大袈裟に言うと
「ほんとか……」
「俺、腹が弱いのに、トイレに行きたくなったらどうするんだよ……」
等など、周りで大騒ぎになってしまった。
少し騒ぎが収まった頃に一人が尋ねた。
「なあ、3組の吉岡も受けたんだろ。 あいつはどうだったんだ?」
「(そういえば、電気科を受けた吉岡君も同じ日に面接だったんだよな。 とてもじゃないけど、あいつの事を気にしている余裕は無かったな)」
「さあ、知らない。 面接場所は受ける科によって違っていたから合わなかった。 それに自分自身に余裕がなかった」
博美が答えると
「あいつなら大丈夫だろ。 何時でも成績が一番なんだぜ」
「3組の女子も受けたんだよな。 誰だったっけ?」
「確か高木じゃないか。 あいつも5番以上だしな」
またまた勝手に周りが盛り上がってしまった。
周りでの話を聞いて、博美は筆記試験に行った時のことを思い出していた。その日は朝に一旦学校に集まって、進学担当の教師の車で行ったのだった。
「高専は特別だからな。 私立や公立を受ける奴らにはこんなサービスはないんだ」
教師はそんなことを言って、試験に行く博美たちにプレッシャーを掛けてくれた。お陰で車の中はお通夜の様になり、特に助手席に座っていた女子はぶるぶる震えていた。
「おい、高専は男子校じゃないのか?」
誰かが疑問を投げる。
「いや、違う。 共学だよ。 女子は少ないらしいけど」
博美が答える。
「少ないって、何人いるんだ?」
「科によって違うけど、電気科で一クラス二人くらい、物質工学科なら10人近く居るそうだよ」
「機械科は?」
「今は一人も居ないって」
その答えを聞いて誰かが言った。
「ということはだ、秋本が受かれば唯一の女子になるんだな」
「どうゆうことだよ。 なんで僕が女子なんだ?」
「おまえな、よく鏡を見ろよ。 こんな可愛い男が居るか?」
確かに博美は身長157cmと小さく、体つきもほっそりしている。まだ2次成長する前の小学生のようで、声変わりもしていない。
「文化祭で女装しただろ。 あれを見た男子生徒が何人恋に落ちたか知ってるか?」
秋にあった文化祭で博美たちのクラスが「男の娘によるミスコン」なるものをしたのだ。それに無理やり出された博美は全得票数の80%もの得票でぶっちぎりの優勝だった。
「やめろー! 黒歴史を掘り返すな」
博美が大急ぎでそいつの口を塞ぐ。実際、その後からしばらくの間、下駄箱にラブレターが入っていたり、告白されたり……(男からが少なからず有った)……と、酷い目にあったのだった。
「そうそう、博美君可愛かったよねー ちょっと嫉妬しちゃった」
女子生徒まで横に来て話しに加わった。
「……やめろってー……」
博美は耳を塞いで机に突っ伏した……
「(僕は男なのに…… おしっこが立って出来るのに……)」
「(きっと高専に入ったら背は伸びて声変わりだってするんだから)」
騒ぎは担任がやって来るまで収まらなかった。
放課後、博美は科学部の部室にやってきた。文化部なので明確な引退という決まりが無い事を利用して、暇つぶしに来ることがよくある。
「あれ。 吉岡君、来てたの」
中に入ると部長だった吉岡透が顧問の先生と話をしていた。
「ああ、とりあえず受験が終わったのでね」
「流石、学年一番は違うね。 受かることが当たり前なんだ」
博美の言葉はちょっと皮肉っぽかった。
「変なこというなよ。 結果は分からないさ」
博美の言葉をさらっと受け流して吉岡は続ける
「それより秋本はどうなんだ。 遊びに来るぐらいだから自信があるんだろ?」
「全然無い。 僕は英語がダメだから……それに面接のときに体力が無いなんて言われたんだよ」
実際、博美はほとんど病気では休んだことが無いのだが、体力測定では女子と比べた方が良いくらいの成績だった。
「ところで一緒に試験を受けた女子って高木さんだっけ?」
ふと朝の教室での話を思い出して博美は尋ねた。
「そうだよ、高木恵子さん」
「どうだったのかな?」
「良かったみたいだよ。 今日は朝から元気だった」
「う……そうか、危ないのは僕だけか……」
暗くなった博美が呟いた……
「秋本、自信を持てよ。 きっとお前も受かるからさ」
吉岡がそっと声を掛ける。
「高専は特徴ある生徒が欲しいそうじゃないか。 秋本ならピッタリだ」
博美がゆっくり顔を上げる。上目遣いで見るとちょっと吉岡の顔が赤くなった。
「機械科に入ろうとする女子なんて、特徴あるなんてもんじゃないだろ」
「はあ」
博美が叫んだ
「僕は女じゃない!」
博美のビジュアルイメージは「剛力彩芽」さんのつもりです。




