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空の妖精  作者: 道豚
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ミニスカート

脚を出せるのは若いうちですね。

 三人は明美の車で、何時ものショッピングセンターのフードコートに来た。このショッピングセンターは色々なテナントが入っていて、それでいてデパートほど高くなく、駐車場も広いので明美のお気に入りなのだ。

「お姉ちゃん、またハンバーガーなの?」

「そう言う光だって、サンドイッチばかり食べてるじゃない!」

「サンドイッチの方が可愛いの。 ハンバーガーは大口を開けなきゃいけないから、可愛くないの!」

「ちょっと、二人とも、声が大きすぎ。 回り中から注目されてるわよ」

 慌てて博美が周りを見渡すと、目の合った男の子たちが次々と目線を逸らす。恥ずかしくなった博美は、小さくなってハンバーガーの残りを齧ることになった。

「いーなー お姉ちゃん。 可愛いから皆に見てもらえてさ」

「嫌なこと言わないで! すごく恥ずかしいんだから」

「光! 変なこと言わないの。 うるさかったから、皆が見てたのよ」

「ごめんなさい。 今のは私が悪かったです」

「もう良いよ。 うるさくしたのは僕も同じだから」

「さあさ。 食べたら一寸買い物に行くわよ」

「「はーい」」

 明美の後ろを二人は並んで付いていった。




「此処が良いかしら」

 明美が一軒のテナントの前で立ち止まった。若い子向けの店のようで、店員さんのファッションも今風だ。

「なに、お母さん。 洋服を買いに来たの?」

「そうよ博美。 あなた美容院でファッション誌を見てたでしょ。 せっかく可愛くしてもらったんだから、少しはおしゃれしなくちゃ」

 喋りながら明美は店の中に入っていく。博美と光は顔を見合わせて、しばらく躊躇していたが、後を追って入っていった。

「いらっしゃいませー」

「この子達に、なにか合うものは無いかしら」

 近くの店員に明美が尋ねる。

「可愛いお嬢さんたちですねー どういったものをお望みでしょう?」

「そうねー この子ったら、あんまりスカートを履かないのよ。 スカートを見せて」

 博美の肩を抑えて明美が言った。確かに今日もジーンズだ。




 10分後、博美は試着室で店員の選んだミニスカートを手に持っていた。

「これを着るの……」

 鏡に映っているそれは、花柄のレースで出来た、ふんわりしたガーリーなスカートだった。

「博美ー まだなの」

 明美の声がする。

「ちょ・ちょっと待って」

 仕方なく、ジーンズを脱いでスカートを履く。ストッキングを履いていないので、生足だ。

「(みじかっ!)」

 太ももが殆ど見えている博美の足が鏡に映っている。

「もう! 遅い。 開けるわよ」

 いきなり明美がカーテンを引き開けた。

「わっ! お母さん、急に空けないで」

 慌てて両手で足を隠そうと、前に屈んで博美が抗議するが

「あんた、そんな格好するとパンツ見えるわよ」

 後ろの鏡にしっかりスカートの中が映っていた。

「いやぁー!」

 博美はしゃがんでしまった。見る見る顔が赤くなっていく。

「なに恥ずかしがってんの、お姉ちゃん」

 試着したスカートを履いたままの光もいる。こちらは水玉のシフォンミニスカートだ。

「こんなスカートを履くときはさー 堂々としてないと余計恥ずかしいよ」

「さあ、立って。 分からないでしょ」

 明美が博美を立たせた。光の言った事に納得した博美は、恥ずかしさを堪えて真っ直ぐに立った。確かに真っ直ぐ立っていれば、スカートの中は人に見えない。

「うん、良いじゃない。 似合ってるわ」

 ふんわり広がったスカートから、綺麗な真っ直ぐな足が伸びている。見えている白い太ももは、太すぎず細すぎず、まるでマネキンのようだ。

「それじゃ、これを頂くわ。 このまま着て帰るから」

「はい。 有難う御座います」

 店員がタグを切り、博美のジーンズを畳んでくれた。




「お母さん。 ほんとにこの格好で帰るの?」

 店を出たところで博美が尋ねる。

「もちろん! ああ、お母さんは後ろを歩くから、あんたたち二人は前を歩いて」

「いいよ♪」

 博美ではなく、光が元気に返事をした。

「お姉ちゃん、手を繋ご♪」

 光は「のりのり」だ。

「う・うん……いいけど……」

 手を繋いで歩く二人を、明美は微笑ましく見ている。すれ違う人たち、特に男の子たちはびっくりした様に振り返り立ち止まる。女の子が立ち止まった連れの男の子を引っ張って行くのは、その後の修羅場を思うと悪魔的な楽しさを覚えてしまう。そうこうしている内に、前方から男女のカップルが歩いてきた。男の子はかなり背が高くて180cmは超えるだろう。その男の子を見て、博美が光の後ろに隠れようとする。

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「ちょっと……」

 見ると博美が泣きそうな顔をしている。

「なに? お姉ちゃん、あの人知ってるの?」

「あれっ! 博美ちゃんじゃない?」

 博美が答えるより早く、男の子が博美を見つけて声を掛けてきた。

「う・うん……加藤君、こんにちは」

「どうしたんだよ。 なに逃げてるんだ?」

「お姉ちゃん。 誰?」

「同級生の加藤君」

 博美が光に紹介する。

「そうなんだ。 始めまして、妹の光です」

「あらまあ、加藤君なの? 何時も博美から話は聞いてます。 母の明美です」

 追いついた明美も挨拶をする。

「あ! どうも。 加藤です。 何時も博美さんにはお世話になってます」

「加藤君。 デートでしょ。 もういいよ」

 博美が光の後ろから声を掛ける。

「えっ! デートおーー ひょっとして、これか?」

 加藤がびっくりして隣の女の子を指差す。博美より年下のようだが、背は少し高く162cm程度で、胸が大きい。その子が怒ったように言う。

「お兄ちゃん! 人を指差して「これ」は無いでしょ!」

 その言葉に博美が加藤を見る。

「おまえは「これ」で良いんだよ。 これは妹の麻由美まゆみ。 中学2年だ」

 それを聞いて、博美の顔がみるみる赤くなる。

「ご・ごめん……ごめん加藤君。 今、すごく恥ずかしいこと言っちゃった?」

「えへへー お姉ちゃん、もしかして「やきもち」焼いた?」

 光が「にやにや」して言う。

「やめてー それ以上言わないで」

 博美は顔どころか、スカートから伸びている太ももまで赤くして、明美の後ろに隠れてしまった。




 加藤と博美が並んで歩くのを、明美と光、そして麻由美は後ろから見ていた。三人はすれ違う人たちを観察して、内心大いに楽しんでいる。前を歩く二人を見た人は一人残らず、男は驚愕の後嫉妬を、女は諦めの表情を浮かべ、立ちすくむ。

「娘が注目を浴びるのって、なんか気持ちいいわー」

「お姉ちゃんって、凄いよねー もしかしてモデルになれるかも」

「お兄ちゃん。 よく秋本さんの事を話してくれてたんですけど、こんなに美人だなんて思ってもみませんでした」

「でしょー 妹としても誇らしいわー」

「でもね、博美は自分が可愛いってこと、全然分かってないのよ。 そこが不思議なの」




「加藤君、さっきはごめんね。 変なこと言っちゃって」

「別にいいよ。 でもさ、博美ちゃん。 今日は随分可愛い格好してるんだな」

「うん、お母さんが強引に買ったんだ。 変かなー」

「全然。 すごく似合ってるよ。 綺麗な足だよね」

「いやだー 変なとこ見ないで」

「それにしても、この周りからの視線は凄いよな」

 加藤はちょっと周りを見渡してみた。途端に周りの人たちが他所を向く。

「博美ちゃんがあんまり可愛いから、隣に居る俺が嫉妬されてるな」

「まさかー 加藤君がカッコいいからだよ」

「また言ってる。 おまえは可愛いの! 少しは自覚しろよ」

「?????」

「ほんと、天然だわ」

「ところでさ、井上さんの手伝いだけど、何か連絡あった?」

「今のところ、俺には何にも無いな。 博美ちゃんには?」

「僕にも何も無い。 どんな用意をすれば良いのかなー」

「井上さんのことだ、いきなりメールで言ってくるさ」

「そーだねー いっつも勝手に決めるんだよねー」

 二人とも、意外と図太い神経をしているようで、回りからの刺すような視線の中、平然と話しながら歩いている。やがて駐車場の入り口に着いた。



「それじゃ、加藤君、気をつけて帰ってね」

 明美が運転席の窓を開けて言う。

「はい、秋本さんもお気をつけて。 それじゃ失礼します」

 加藤が麻由美を連れて挨拶を返した。

「加藤君、バイバイ」

 博美も助手席で手を振る。車は動き出して、加藤は店内に入っていった。

「博美、今日はどうだった?」

「最初は恥ずかしかったけど、後では気にならなくなっちゃった」

「うふふ。 意外と気持ち良いでしょー」

「うん」

「うわー お姉ちゃんが目覚めちゃった……」

「なによ! 目覚めてなんかいないよ」

 まだまだ素直になれない博美だった。



子供が注目を浴びるのは、親としては誇らしいです。

短いスカートで車に乗ったら、危ないところまで見えそうですよね。

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