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空の妖精  作者: 道豚
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美容院

髪型でイメージって変わりますよね。

 日曜日の朝、秋本家の三人は車で5分の所にある、明美行きつけの美容院に来ていた。

「あらあら、秋本さん。 今日はお嬢さんと一緒ですね」

 美容院のオーナーである尾藤がにこにこして話してくる。

「ええと、たしか、光ちゃんでしたよね?」

「おはようございます」

 光が挨拶をした。

「おはようございます。 ええと此方は……」

 これまで博美は床屋に行っていたので、尾藤は知らないようだ。

「長女の博美です。 此方ははじめてかしら」

 明美の紹介に、

「おはようございます。 博美です」

 博美がお辞儀をした。

「まあ、可愛い! おはようございます」

「お姉ちゃんには可愛いって言った……」

 光が小さな声で零すのを聞いて、明美は苦笑するしかなかった。




 明美が予約したため他に客は居ないので、三人は並んで椅子に座った。

「どの様にしましょう?」

「私は何時ものように。 娘たちは毛先を揃えて。 博美は伸ばしたいそうだから、途中でおかしくならない様にお願いできますか」

 明美がさっさと注文してしまう。

「分かりました。 それでは奥様から」

 アシスタントの女性が明美の髪を洗い出した。

「(へー 最初に洗うんだ!)」

 始めてみる美容院に、博美は「きょろきょろ」している。

「お姉ちゃん。 恥ずかしいからあんまり「きょろきょろ」しないで」

「だって、初めてなんだもん」

 飾り気の無い床屋に比べて綺麗にデコレーションされた店内に博美は興味津々だった。





 髪を洗い終わった明美が鏡の前に移ると、次は光が洗髪に呼ばれた。

「いらっしゃいませー!」

 突然、奥のドアを開けて女の子が入ってきた。光が行ってしまったので、一人で座っている博美が驚いて見ていると、

「おかあさん、何か手伝うことない?」

 その子は尾藤に近づき尋ねた。

「そうねー それじゃ洗髪お願いできる?」

 尾藤は事もなくそう言うと

「それじゃ、博美ちゃん、どうぞ」

 博美を洗髪に呼んだ。




 博美は仰向けに寝たような椅子に乗せられた。当然洗ってくれる女の子と顔を見合わせる事になる。

「ごめんなさい。 私の知ってる人に似てるけど…… ひょっとして秋本君?…… でも秋本君は男の子だし……」

「ひょっとして美郷中?」

 博美も見覚えがある。

「そうそう。 今年卒業したばかり。 2組の尾藤理恵びとうりえよ」

「そうなんだー うん秋本だよ。 博美。 1組だった」

「えー 可愛い! どうしたの? 今は女の子?」

「うん。 間違いで男でいたんだ。 ほんとは女なんだ」

「そんな事があるんだねー。 秋本君、可愛いから問題ないね」




 洗髪が終わると、鏡の前の席に移動する。

「きれいな髪ね。 でもちょっと毛先が跳ねてるかしら。 博美ちゃんは伸ばしたいの?」

 尾藤が博美の髪に触りながら言う。

「はい。 出来れば」

「分かったわ。 それじゃ毛先を揃えて、整えておくわね」

「はい、おねがいします」

「なにか雑誌を読む?」

「えっ 雑誌?」

「座っているのは暇だからって、雑誌を読む人が居るの。 博美ちゃんは読みたい雑誌ってある?」

「うーん。 それじゃファッション誌あります?」

 何時までもファッションに疎いんじゃ駄目かな、と博美は思い始めていた。




 出来上がりは博美が最後だった。

「お姉ちゃん、可愛い。 悔しいけど可愛いーー」

 博美を見て、光が両拳を「ぷるぷる」させて言った。所謂ショートボブなのだが、博美の顔に良く似合っていて、芸能人の様だ。

「光もよく似合ってるよ」

 光のテンションに「引き」ながら、博美が答えた。

「お姉ちゃんは「似合ってる」なんてもんじゃ無いの。 お姉ちゃんのためにこのヘアスタイルが存在するの!」

「ほんと。 ねえ、モデルのオーディションに出ない?」

 洗髪してくれた理恵がとんでもない事を言い出した。

「絶対採用されるよ!」

「嫌だよ! はずかしい」

「まあまあ。 ためしにお化粧しようよ」

「そうね。 博美、してみようか?」

 明美まで乗り気だ。結局押し切られた博美は、化粧をしてもらうことにした。




「「「きゃーー 凄いすごい。 可愛い。 美人。 天使……」」」

 やや派手目な化粧をされた博美を見た皆が口々に叫ぶ。光と明美はあわてて写メを撮りだした。

「これは掘り出し物ね」

 理恵が「意味深」な事を言うと、急いで奥に走っていった。やがて戻ってくると、手には大きな「一眼レフ」のカメラが握られていた。

「秋本君……じゃおかしいか。 秋本さん、右手を軽く握ってあごに当てて!」

「少し右を向いて」

 矢継ぎ早にポーズの指示をすると、連射を始める。博美は突然のことに、ついポーズを取ってしまう。

「いいよ、いいよ。 今度は左を向いて「グー」って。 そうそう」

 撮影会は延々30分続いた。




「ありがとうございましたー」

 三人が美容院を出てきた。撮影会の後、オーディションを受けないかと進める理恵を何とか宥め、その代わり店の宣伝に博美の写真を使って良い事にして、やっと開放されたのだった。

「疲れたわねー もう直ぐお昼だし、どこかで食べて帰る?」

 明美がやれやれといった口調で言うと

「ほんと、お姉ちゃんが可愛すぎるのがいけないのよ」

 光が的外れなことを言う。

「僕のせいじゃないでしょ! 二人ともお化粧に乗り気だったじゃない!」

 化粧をしたまま美容院を出たので、博美はこの田舎町には不釣合いな美人になっている。少し離れた駐車場に向かって三人が歩いていると、すれ違う人が皆振り返り

「……おい、あれ誰だ? 芸能人か? モデルか?……」

 小声で話す声が聞こえてくる。博美は段々恥ずかしくなってきた。

「ねえ、早く何処かに行こうよ。 僕恥ずかしいよ」

「うふふ、博美ったら、男の視線独り占めね。 そうねー いっその事、街に行こうか」

 明美が何か考え付いたようだ……



個人でやっている小さな美容院なので、予約を3人も取ったら午前中は他に客は入れられません。

お店の宣伝と言うのは、よくあるフリーペーパーです。そこに乗せる写真に使うわけです。

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