博美に黙っていたこと
子供に言えない親の秘密ってありますよね?
昼寝をしてしまった博美は、晩御飯に起こされた。
「あーあ、なんか無駄な時間だったー」
「お姉ちゃん、朝から買い物で疲れてたのよ。 たまにはこんな時間も必要だよ」
「うん、この一週間、揉め事が多かったから、疲れてたのかなー」
「まあ、そんな疲れを癒すためにも帰ってくれば良いのよ」
明美が夕食を並べながらそう言う。
「ありがとう、おかあさん。 やっぱりここは落ち着くよね」
「そうよ、家族なんだから。 博美も光も甘えて良いのよ」
光輝が死んだ時から、明美は子供たちを支えていこうと思っていた。
夕食が終わって、博美はお風呂に入っていた。昼寝をしたにも関わらずなんだか疲れていて、ぼんやりと湯船に浸かっていると、ふと自分の体に目が行った。丁度胸の辺りまで浸かっているので、水面の形が胸の膨らみを如実に現している。
「(少し大きくなったかも……)」
博美はそおっと触ってみた。
「(うーん、これってどの位の大きさなんだろ)」
ちょっと力を入れてみると、中の方に何か硬くなった物があり、なにか痛く感じる。
「(これなんだろう。 悪いものじゃないよね?)」
何か音がしたようで、ふと脱衣所のほうを見ると人影が見える。
「(あれ、誰だろ。 なんで服を脱いでるの?)」
二人にはさっき風呂に入ることを言っていたのに、と博美が思っていると
「博美、お母さんも入っていい?」
明美の声がした。
「え! お母さん、なんで?」
「一緒に入りたいのよ。 嫌なの?」
「別に嫌ってことは無いけど」
博美が答えると、すぐに明美は入ってきた。
明美の体をまともに見られず、博美は正面の壁を見つめている。深く浸かっているのでのぼせそうだ。
「博美もだいぶ女の子らしい体つきに成ったわね」
体を洗いながら明美が言う。
「ねえ、お母さんに見せてくれない?」
「ええー なんで! 恥ずかしいよ」
「女同士じゃない。 恥ずかしくなんか無いわよ」
「だって、僕は男だったんだよ」
「ううん、違うわ。 博美は女の子。 その事はね、お母さんとお父さんはずっと前から、博美がまだ幼稚園に行く前から知っていたの」
「それじゃ、なぜ男の子だって言ってたの?」
「滞留精巣じゃないかって診察されたことがあるって話、覚えているわよね。 あのときは誤魔化したけど、実際にはエコーなんかで調べたの。 そして精巣が無いことが分かったのね」
初潮で出血して、救急病院にヘリコプターで搬送されたときの医者との話を博美は思い出した。生理の出血なので、女性ならば大騒ぎにはならなかっただろうけど、男の子が出血すれば大事を取って病院に運ぶのは当然と言える。
「つまり、男の子じゃないって事が分かったのだけれど、見た目が男の子なのね。 このまま女の子だって言うと、子供のことだから、苛められると思ったの。 ほら、子供って、他人と違うのを凄く気にするでしょ」
「(そうだよな、あそこが男の子みたいなのに、女の子の格好をしてたら、絶対苛められたよな)」
「だから、出生届も男で出してあるし、手術が出来るまでは男の子で居させようと、お父さんと決めたの」
衝撃的なことを聞いて、博美は唖然としている。
「秘密にしていてごめんね。 正直、ほとんど忘れていたっていうのが本当なんだけど、初潮がきたっていうので、はっきり思い出したの。 ほんとうにごめんなさい」
「おかあさん…… ありがとう…… そ、そうだよね、おかあさんとおとうさんのお蔭で苛められずに済んだんだよね。 あそこがこんなじゃ、きっと苛められたもの。 感謝してる、僕に謝らないで」
博美は涙ぐんでいる。
「博美、泣かないで。 ほんと苦労掛けたわね。 そんな体に生んだお母さんが悪いのよ」
「ちがう! お母さんは悪くない。 絶対悪く……なんか・無・い・んだ・から…… わぁーーん……」
博美はとうとう声を上げて泣き出してしまった。
湯船の中で、博美は明美に抱きしめられ、頭を撫でられている。
「落ち着いた?」
優しく明美が尋ねる。
「うん。 もう大丈夫」
顔を赤くして博美が答える。気持ちが落ち着くにつれ、裸で抱きしめられていることが恥ずかしくなって来たのだ。
「僕、もう上がるね」
「そう。 それじゃ、博美の体、お母さんに見せてくれる?」
まだ諦めていないようだ。仕方なく博美は洗い場に出て、明美のほうを向いて立ち上がった。流石にあそこは手で隠している。
「腰が括れて、お尻も大きく、綺麗だわ。 女の子って感じよ」
「おかあさん、あの…… 胸の中に硬い物があるようで、触ると痛いんだけど。 悪いものじゃないよね」
「それは大丈夫よ。 それは乳腺が発達しているしるしだから」
「そう、よかった。 僕の胸、大きくなるかな?」
「なるわよ。 お母さんと同じくらいには成るはずだから」
博美は明美の胸を見た。今年40になる明美は、二人の子供が居るとは思えない、若々しい肌をして、素晴らしいプロポーションだ。胸もC~Dほどの大きさがあるだろう。
「よかった。 お母さんぐらい欲しいよね」
母の言葉に希望を抱く博美だった。
パジャマを着てソファーでテレビを見ている博美の髪を、明美が触っている。
「だいぶ伸びたわね。 そろそろ美容院でカットしてもらったほうが良いわ」
女の子で生きると決めて以来伸ばしているので、サイドは耳が隠れ、後ろは肩に触るくらいになっている。
「えー、僕、伸ばしたいのに」
「いいわよ。 伸ばしなさーい。 でも、伸びる途中が変な髪形になったら駄目でしょ。 だから毛先をカットして揃えてもらうのよ」
「そうなの? それじゃ行く」
「じゃ、予約しておくわね」
テレビも見終わり、自分の部屋で博美はグライダーを眺めていた。飛行機は部屋に持ってこれないが、グライダーは油汚れが付かないので部屋に置いているのだ。
「(お父さんは、僕が女の子だってこと知ってたんだ。 だからかな? ラジコンしたいって言ったとき反対したのは)」
送信機と受信機のスイッチを入れる。小さな音を立てて、サーボが動き出した。
「(世界選手権の出場権を手に入れたのに、出張と重なって出られなくなり腐ってたな)」
送信機のスティックを素早く動かす。グライダーの方向舵と昇降舵が「ぱたぱた」と動いた。
「(お土産なんか要らないって言って、代わりにこのグライダーを強請ったんだ。 渋々だったなー)」
受信機と送信機のスイッチを切って、グライダーを棚の上に戻した。
「(ラジコンをするなら、グライダーからだって何時も言ってたから、これが欲しかったんだ)」
送信機をケースに戻す。
「(2年も飛ばしたんだ。 もう飛行機に専念しても良いよね? お父さん)」
博美の目から一筋涙が零れた……
光輝や明美は博美が女の子である事は知っていました。ただ手術が出来るまで秘密にしておいたら、その事を忘れてしまったんですね。
博美はグライダーを貰う前から光輝に借りて飛ばしていました。だからグライダーを「2年飛ばしている」と言えますし、光輝が居なくなっても自力で飛ばすことが出来たのです。
博美が光輝から巣立った日です。
景気の回復でしょうか、仕事が込み合ってきました。そのため今まで週3回の投稿でしたが、これからは週2回(火曜日と金曜日)にします。




