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空の妖精  作者: 道豚
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テニスウェアー購入

新しい事を始めるときは形から入る?

 博美と樫内が仲直りしたという噂は、あっという間に学校中に広まり、機械科と電気科との乱闘は未然に防がれた。そのことは博美にとっても嬉しい事だったが、困ったことが……

「秋本さん、おはよう。 もう起きてる?」

 朝の6時30分、樫内が博美の部屋をノックする。これまで博美の知らなかった事だが、樫内の部屋は207号室で、博美の部屋のすぐ近くだった。

「はい、起きてます。 でも裕子ちゃんはまだ寝てるんです」

「もう起きても良い時間よ。 入るわね」

 樫内は永山がまだ寝てるのにも関わらず、部屋に入ってくる。

「うーん。 私服も可愛い」

「ちょっと、いきなり抱きつかないで!」

 樫内は部屋に入ってくるなり、机で予習をしていた博美に後ろから抱きついた。

「だって、部屋に持っていけないんだから……」

「そんなに顔をくっ付けないで! 胸を触っちゃだめ!」

 仲良くなった途端、樫内の欲望が爆発したようだ。

「仲のいい事…… 人前であんまり見せ付けないで」

 流石に永山も目が覚めたようで、ベッドの上から二人を見ている。





 樫内が朝晩やって来るようになって四日、土曜日の朝。今朝も樫内は博美の部屋に居る。

「秋本さん、やっと土曜日ね。 今日は一緒に街で買い物よ。 うふふー 楽しみだわ」

 そうなのだ、博美はテニスウェアーを一緒に買いに行く約束をしていたのだ。

「どんなのが似合うかしら。 これとか、これとか、もしかしたらこれなんかが良いかも」

「樫内さん、そんなに「派手」なのは合わないから。 もっとシンプルなのにするからね」

 樫内が広げているカタログの写真を見て、博美は若干「引いて」いた。

「そんなこと無いわよ、絶対似合うから。 スポーツをする時は少しぐらい派手な方がいいのよ」

「まあ、お店に行ってからにしょうよ。 着替えるから、ちょっと出ててよ」

「別に気にしなくて良いわよ」

「僕が気になるの!」

「きゃーん。 僕ーー」

「ちょっと、抱きつかないで!」

 博美が「僕」と言うと、条件反射的に樫内は抱きつくようになってしまっていた。





 博美は樫内を引っぺがすと、廊下に放り出し、外出着に着替えた。そういう騒動の間、永山はベッドでぐっすり寝ている。もう樫内と博美が騒ぐのにも慣れてしまったのだ。

「それじゃ、裕子ちゃん、行ってくるね」

 寝てる永山に声を掛けて、博美は部屋を出た。樫内と博美が並んで歩くと、すれ違う男子たちが次々振り返る。

「凄いねー、樫内さんって注目の的だね」

「あんた、何バカ言ってんの。 秋本さんを見てるのよ!」

「僕なんか見ても仕方が無いんじゃない? って抱きつかないで!」

「もー、可愛いんだから……」

「(うっかり「僕」って言えないなー)」

 抱きつかれて歩きにくくはなったが、バス停に着いたときには未だバスは来ていない様だった。

「はあ、間に合った。 もう…… 歩きにくいんだから!」

「駄目なのよ。 あの言葉を聴くと抑えられないの」

「樫内さんの前では「僕」って言わないようにするね……ってまたー」




 時刻表通りに来たバスに乗り、二人は街のバスセンターに着いた。バスの中でも樫内は博美がうっかり「僕」と言うたびに抱きつくので、二人は周りの乗客から好奇な目で見られていた。

「はあ、やっと着いた」

 博美はすでに疲れてしまっている。そんな博美の手を取って、樫内はずんずん歩いていく。

「樫内さん、何処に行くの?」

「まず、ここの4階よ。 そこに良いのが無かったら、一度外に出て隣のショッピングセンター」

 樫内はエレベーターのボタンを押しながら答えた。




 4階はスポーツ用品のフロアーだった。樫内はテニス用品を扱っているテナントに博美を引っ張って来ると、店員さんに声をかけた。

「おはようございます、樫内さん」

 声を掛けられた店員は、樫内におじぎをする。

「樫内さん。 知ってる人?」

 博美が怪訝な面持ちで尋ねる。

「私、中学校からテニスしてるでしょ。 よく来るから覚えてもらったの」

「はい、樫内さんはよくお出で下さいます」

「テニスってそんなにお店に来る必要があるの?」

 博美の家は母子家庭なので、そんなにお金が使えない。博美はちょっと気になった。

「そんなこと無いわ。 人によりけりね」

「(よかった。 でも最初はお金が要るよね)」

「最初に揃えたら、暫くはそれを使えばいいから、頻繁に来る事は無いわ」

「それでは、今日はお友達の用品ということで御座いましょうか?」

 店員さんが聞いてくる。

「そうよ。 秋本さんって言うの。 今年から始めるから、ウェアー、シューズ、ラケットを見せて」




「はい、秋本さん、これ着て」

「まだ着るの? もう5着目だよ」

「いいから、いいから。 秋本さん、何着ても似合ってるから」

「はあ、もうこれ位から決めようよ」

 ラケットは初心者用だという事で簡単に決まったのだが、ウェアーを決めるところで、樫内が次々持ってきて、なかなか決められない。

「(ううー テニスのスカートって短いよ)」

「ねえ、ショートパンツは無いの?」

「ショートパンツなんか駄目。 スカートが可愛いんだから」

「だって、短くて恥ずかしいんだよ」

「大丈夫、下着が見えないように、アンダーを履くから」

 樫内は博美にスカートを履かせるつもりのようだ。

「でもさ、洗い換えがいるから、二着いるよね。 二着ともが同じだと面白くないから、一つはショートパンツで良いんじゃない?」

 博美が妥協案を出すが

「大丈夫、一つはワンピース、もう一つはスカートとポロシャツにすれば良いから」

「そ、そうね…… そうすればいいのね」

 絶対にスカートは譲れないらしい。




 結局、ワンピースとスカート、ポロシャツを買い、さらにウェアーに合わせたシューズを買って店を出たのはお昼を回ったころだった。

「秋本さん、おつかれさま。 これからどうするの?」

「ぼ……私は外泊届けを出してあるから、家に帰る。 樫内さんは?」

「私も家に帰るわ。 それじゃここでお別れね」

「樫内さんのお家って何処?」

「ここから近いわよ。 路面電車で二駅だもの」

「すごーい。 樫内さんって都会っ子なんだ!」

「何言ってんの。 この街なんて都会なんかじゃ無いわよ」

「そうなの? ぼ……私には十分都会に見えるけど」

「テニスの大会で大阪に行ったことが在るけど、此処なんか比べると村ね」

「ほえー そうなんだ」

「そうそう。 んじゃ秋本さん、また日曜日の夜に会いましょう」

「はい。 それじゃ失礼します。 今日はありがとうございました」

 歩いてバスセンターを出て行く樫内を見送って、博美はバスに乗った。



タイプは違いますが、樫内も美人です。

博美の家は明美がフルタイムで仕事をしているので、貧乏という訳ではありません。

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