ラジコンクラブ
免許を持ってないと、飛行機を運ぶのは大変。
翌日は冬にしては暖かく、風も弱かった。
「おはようございます」
博美がグライダーを持って自転車で河川敷に行くと、数人のおじさんが既に飛行機を広げて雑談をしていた。
「おはよう。博美君、久しぶりだね」
みんな知っている人たちで、この河川敷の占有許可を取っているラジコンクラブのメンバーだ。博美も父とともにメンバーで、特に光輝は世話役のような役目をしていたのだった。
「高専、受かったのかい?」
進学が決まるまでは飛ばしにこないことを宣言していたので、こう聞かれたのだが
「いや、昨日面接が終わったばかりで……」
ばつが悪そうにそう答えると
「大丈夫、大丈夫。 博美君なら心配ないよ」
おじさんたちは口々に言って
「さあ、バンバン飛ばして」
博美をけしかけるのだった。
博美のグライダーは自転車で運ぶことを考えて、翼の長さが1mと小さいのだが、外国製の高性能な機体で、博美のテクニックを持ってすれば一回投げるだけで最低でも3分、調子がよければ10分でも飛んでいられる代物だ。
「うまいもんだねー」
今も上昇気流を捕まえ、遥か上空を飛ぶグライダーを見てクラブ員の一人が声を掛けてきた。ふと気づくとクラブのメンバー全員が博美の飛ばしているのを見ている。
「いや、たいした事ないですよ……」
十分な高度に達したグライダーを博美は急降下させる。位置エネルギーを速度エネルギーに変換したグライダーは、エンジンが付いてないとは思えないスピードで滑走路の上を飛び過ぎ、再び急上昇して高度をとる。こうして一旦位置エネルギーを得たグライダーを博美は自由自在に操るのだ。
「なにが「たいした事ない」だよ。 まったく若いのには敵わないなー」
「そうだ、そうだ。 年寄りには付いていけないスピードだー」
クラブ員たちが口々に呆れた口調で声をかける。なんか博美は恥ずかしくなってしまった。
「エンジン機はやらないのかい?」
休憩しているとそんな風にメンバーが聞いてくる
「自転車じゃ運べませんし、まだ僕には早いです」
いつもと同じ答えを返しながら、博美は光輝が曲技飛行を練習していた空を見ていた。今は彼は居らず、年配のクラブ員がゆったりと高翼機を飛ばしたり、スポーツ機で簡単な曲技飛行を試しているだけだった。
光輝は全国大会に出場するほどの腕前を持っていて、彼が飛ばすと誰一人無駄口を叩かず見入ってしまうほどだった。博美はどんなに風が吹いても微動だにせず真っ直ぐ飛ぶ飛行機を光輝以外の操縦で見たことがなかった。彼が飛ばすとエンジンの音さえ音楽のようで、空の上で妖精がバレエを踊っているようだった。そして博美はそんな飛行を見るのが好きだった……
博美は空を見ながら、空想の中で自分の飛行機を飛ばしてみる。その飛行機は博美の操縦によって空の上でアクロバットをする。それはまるで光輝が操縦しているように華麗な飛行をするのだった。
博美の所属しているラジコンクラブは、光輝が中心となって作ったクラブで、一級河川の河川敷にあります。田舎ゆえに若い人はなかなか入ってきません。
急降下させたグライダーの速度はとんでもなく速くて、一時期は模型飛行機の中での速度記録を持っていました。




