身体検査
泥縄で見栄を張るのはやめましょう。
高専入学2週目の月曜日の朝、朝食の行列に並びながら、博美はおかしなことに気が付いた。何故か女子が居ないのだ。
「(そういえば、裕子ちゃん、お腹の調子が悪いって言ってたな)」
まさか、女子全員がお腹が痛いなんてことはないよな、と変な考えを頭の中から追い出して、何時ものようにご飯少な目のお膳を持ってテーブルに着く。
「秋本さん、おはよう。 やっぱり秋本さんもご飯少な目だね」
話しかけられて顔を上げると、吉岡が「にこにこ」して立っていた。
「おはよう。 僕は何時も少なめだよ。 やっぱりってどういうこと?」
吉岡の言葉に違和感を感じて博美が答える。
「そう言えばそうだね。 んー、 今日の予定、知ってるよね?」
「知ってるよー 午前中が身体検査で、午後が部活紹介」
「それを知ってて何時も通りの朝ごはんなの? 流石だね」
「?????」
「分からないの?」
「分からない。 ねえ、一緒に食べる?」
博美の発言に周囲が「ザワッ」とする。
「い・い・いや…… 止めとく。 まだ命が惜しいから」
吉岡は慌てて、友人と思われる男子の方へ走っていった。
「?????」
首を傾げて見送る博美の周りが再び静かになった。
博美は健康診断のため、体操服に着替えて体育館に居た。女子は少ないので、1年生全クラス合同で健康診断をする。男子たちはその後でクラスごとに行うのだ。
「秋本さんも当然朝ごはん抜いたよね?」
久しぶりに会った高木が聞いてくる。
「いや、別に普通に食べたけど」
博美は当たり前のように答えた。
「ふうん…… 朝ごはんを食べるなんて。 皆に対する挑戦ね」
高木の目が険を持つ。
「ねえねえ、今朝からそんな事をよく聞かれるけど、どうゆうこと?」
「ふんだ! スマートな人には分からない事よ」
「?????」
どうも女心が未だ分かっていない博美だった。
「博美ちゃん、何キロ?」
身長、体重の測定が終わり、心電図の行列に並んだ所で裕子が聞いてきた。
「43キロ」
たいして気にもせず博美が答える。途端に周りからきつい視線が飛んできた。
「そ・そう…… 43キロね……」
「裕子ちゃんは?」
「私はいいのよ……」
「えーー、ずるいよ」
「博美ちゃんのほうが「ズルイ」 なんでそんなに軽いのよ」
「何でって言われても…… あ、ほら、僕胸が小さいから」
確かに、未だ博美の胸は成長せず小さいままだった。
「(ふむ、そう言えば、博美ちゃんは小さいどころか「ぺたんこ」だったわ)」
風呂の脱衣所で見た博美の胸を思い出し、少しだけ溜飲を下げる裕子だった。
室内での測定を終えて、女子たちが外に出てきた。入れ替わりに機械科の男子たちが体育館にやって来る。
「秋本さーん」
博美を見つけたクラスメートが呼びかけた。博美は手を振ってグランドに歩いていく。
「体操服も可愛いねー」
「それよりさあ、秋本さんが寝たベッドで心電図測るんだぜ。俺、興奮して脈が乱れるかも」
「それで再検査になったりして」
「秋本さんの握った握力計とか、座った長座体前屈とか」
「うーー、楽しみだな~」
流石は青少年、妄想も大したものだ。
「(ほんとこいつらバカだ)」
加藤は相変わらず冷めている。
グランドで行う50m走、立ち幅跳び、ハンドボール投げを終え、博美は教室に戻ってきた。男子たちはまだ帰ってきていない。
「(あー、 疲れた。 皆が帰ってくるまでちょっと寝てようかな)」
博美は机に突っ伏して目を瞑った。
「……か・可愛い……」
「……綺麗なくちびるだなー。 触りたくなる……」
「……ほんと綺麗な肌。 透き通るみたいだぜ……」
「……髪も綺麗だよな。 なんでショートカットなんだろ、伸ばすと良いのにな……」
「……首、細いよなー。 折れそうだ……」
「……ちょっと髪ぐらい触っていいかな?……」
「……おい、やめとけ。 セクハラになるぜ……」
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「んーー なにー なんか騒がし……」
なんとなく周りが騒がしいのに気が付いた博美が目を開けた。
「へっ!」
びっくりして飛び起きる。なんと博美の周りをクラスの男子たちが取り囲んでいた。
「…………」
博美は声も出せず胸を抑えて壁に張り付く。
「なになに、みんなどうしたの?」
なんとか呼吸を整え、やっと声を絞り出した。
「いやー、秋本さんよく寝てたねー」
「あんまり可愛いから、皆で鑑賞してた」
「けっして触ったりはしてないから」
最前列の男子が言うのに
「「「うん、うん」」」
全員が首を縦に振る。
「ほんっとに、何にもしてない?」
「「「もっちろん」」」
再び全員が首を縦に振る。
「加藤君、ほんと?」
博美は少し離れたところに加藤を見つけて尋ねた。
「おお、だれも触ったりはしてないぜ」
加藤の答えに安堵の表情をする博美を見て
「なんで加藤は信用するんだーー」
当然のようにクラスメートたちが抗議する。
「だって、加藤君、紳士だもん!」
博美の言葉に全員がずっこけた!
157センチで43キロというのは軽いんですかね?
博美の胸は大きくなるのかな?
(実はまだ考えてなかったりします)




