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空の妖精  作者: 道豚
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休日

飛行機を飛ばせばストレスも吹き飛びます。


 入学式からやっと1週間が過ぎ、金曜日がやってきた。機械工学科は、あの新入生歓迎会の大騒ぎの翌日から普通の授業が始まり、博美たち1年生も通常の授業を受けていた。一般科目は慣れていても、専門科目は皆初めての分、機械製図や機械工作の実習は最初は戸惑っていたが、しかし、さすがは好きな学生が集まっているだけあって、すぐに楽しそうに授業を受けていた。

「ブレザーも可愛いが、実習服を着ててもやっぱり女の子は違うよな」

 博美が実習服に着替えて階段を下りてくる。

「そうそう、なんか可愛いんだよな」

「なんと言うか、そう、実習服の「ダボダボ」具合が萌えるよな!」

 機械工作実習では制服を実習服に着替えるので、博美のために機械工学科は女子のロッカールームを実習工場の中二階に作っていた。




 授業が終わって、寮生たちは寮に帰る。明日からは高専に入学して初めての休みだ。博美が部屋に入ると、やっぱり裕子がベッドでコミックを読んでいる。

「裕子ちゃんは休みは如何するの? 家に帰る?」

「あたしは寮にいる。 家は遠いもの。 博美ちゃんは?」

「僕は帰ってくるね。 休みの日はやりたいことがあるから」

「それじゃ、外泊届けを出さなくちゃ」

「あ、そうだった。 ありがと、忘れてた」

 博美は慌てて管理人室に外泊届けを提出に行った。




 翌土曜日、博美はジーンズとセーターというラフな姿で朝ごはんに食堂に来ていた。食堂は土曜日の朝食までと、日曜日の夕食から食事が出来る。今日は行列は出来ておらず、すぐにテーブルにつく事ができた。

「秋本さん、おはよう。 今日も可愛いね」

 知らない男子が声を掛けてきた。制服で無いので分からないが、おそらく学生だろう。

「おはようございます」

 上級生かもしれないと思い、丁寧に挨拶を返す。

「一緒に食べて良い …… あーーー!」

 突然現れた二人の学生に両脇を抱えられ、その男子は連れ去られて行った。

「?????」

 突然のことに、博美が首を傾げていると

「あの男は、電気工学科3年の奴です。 ご安心ください、処分いたしました」

 これまた知らない男が傅いて博美に告げると、走り去った。

「?????」

 何が起きたのかさっぱり分からない博美だった。




 博美の家までは直通のバスが無いため、県庁所在地にあるバスセンターで乗り換える必要がある。その所為でまっすぐ車で走るなら20分程度なのに、待ち合わせを入れると1時間近く掛かってしまう。

「ただいま~。 あーあ疲れた」

 博美の帰ったときの第一声がこうなるのも仕方が無いことだ。

「おねえちゃん、おかえりー」

 光がすぐに迎えに出てきた。

「ねえねえ、高専の勉強って難しい?」

「まだ中学校の復習みたいな事や、教科書のごく最初の部分しか習ってないから、難しいって事は無いかなー」

 脱いだ靴を揃えながら博美は返事をする。

「でも、教科書の少し先を読んだりするけど、難しくなりそうだよ」

「付いていけそう?」

「行くしかないよ。 ところで光は、中学校はどうなの?」

 光は今年から美郷中学校に進学している。

「全然大丈夫。 そうそう、おねえちゃんって、有名だよー」

 二人が話しながらリビングに入ると、明美が昼食の用意を中断して台所からやって来た。

「あら、博美が有名って、お母さんは聞いたこと無いわね」

「ただいま、お母さん。 ねー、有名って何だろうね」

「有名だよー。 あの秋本さんの妹かって、よく先生や先輩に聞かれるもの」

「どういう風に有名なの?」

 明美がお茶を入れながら尋ねる。

「すっごい美人だったって。 比べてお前は普通だなって風に言われるのよ! おねえちゃんがあんまり美人だから、妹の私が迷惑してるわ」

「ひょっとして、僕が男だったって事は消えてるの?」

「そうみたい。 聞いたこと無いよ」

「まあ、男だったんじゃなくて、間違えて男として過ごしてただけだから、それで良いんじゃない」

 明美としては、変な風に博美のことが噂されていない事に安心していた。




「ねえ、飛行機を飛ばしてきていい?」

 お昼ごはんを食べた後、博美が明美に聞いた。

「いいわよ。 今日は好きなようにしなさい。 でも明日はお母さんに付き合ってね」

「うん、それじゃ行ってくる」

 博美は光輝の部屋に行って「アラジン」のバッテリーに充電を始めた。急速充電なので30分程で充電が出来る。

「いってきまーす」

 あっという間に準備をした博美は、自転車に「アラジン」を器用に縛り付けると、以前から行っている近くの飛行場に出かけた。




 今日も飛行場には沢山のクラブ員が居て、飛行機を飛ばしたり談笑したりしている。

「こんにちはー」

 博美が自転車でやって来た。何人かがそちらを見る。

「えーと、お嬢さん。 当クラブは初めてでしょうか? クラブ員で無い方はビジター料金をお願いしているのですが」

 会長さんが申し訳なさそうに言ってきた。

「いえ、クラブ員ですけど……」

「失礼ながら、お名前を?」

「会長さん! さっきから何? 分からないの?」

「ごめんなさい。 最近物忘れが激しくてね」

「もう……博美です。 秋本博美。 忘れるなんてー 酷いですよ」

「「「ええーーーー」」」

 近くでやり取りを聞いていた数人のクラブ員が一斉に驚きの声を上げた。

「えっ、ほんとに博美ちゃん? 確かに良く見ると似てる気もするけど……」

「そうです。 やっと高専が休みになったんですよ」

「でもね、博美ちゃんは男の子だよ。 お嬢ちゃんはどう見ても女の子」

「説明しにくいことなんですが、間違いで男の子として育てられたらしいんです」

「そんなことが有るのかねー」

「ごめん、お母さんに確かめさせてもらうね」

 会長さんが携帯で博美の家に電話をする。光揮がクラブ員だったので、電話番号を知っているのだった。

『あー、どうも、ラジコンクラブの会長で御座いますが…………いえいえ、こちらこそお世話になっております。 いや、実はですね、博美ちゃんだと言う女の子が飛行場に見えられまして…………はいはい、そうです…………はい、分かりました。 間違いないと…………はいはい…………どうも、はい、それでは失礼します』

「どうでした。 間違いないでしょ」

「ごめん、ごめん。 博美ちゃんで間違いない。 いやー、でも驚いたなー」

 やっと分かってもらえたようで、博美は「ほっと」していた。




 博美が「アラジン」の準備をしている。

「可愛いカラーリングだねー。 自分で作ったの?」

 周りに集まったクラブ員が尋ねた。

「残念ながら違います。 父が作ってあったんです」

「初めて飛ばすのかい?」

「いえ、知人と高専の近くで飛ばしました」

「ああ、あの飛行場ね。 あそこにはスタントの上手な人が居るね」

 井上のことは皆知っているようだ。別に詳しく言う事も無いかと、博美はそれ以上は説明しないことにした。




「博美ちゃん、滑走路開いたよ」

 クラブ員が教えてくれる。

「はーい。 それじゃ飛ばします」

 博美は井上がやっていた事を思い出しながら、エンジンを掛けた。会長さんがホルダーをしてくれている。

「いい調子だね」

 エンジンの音を聞いて会長さんが言った。




 会長さんは「アラジン」を滑走路の風下に置いて、博美の横に来た。

「離陸します!」

 博美の操縦で「アラジン」は綺麗に離陸して行った。

「上手いねー、流石は博美ちゃんだ」

 会長さんはそう言うと、安心したように博美から離れていった。つまり単独飛行OKということだ。博美は勉強のストレスを解消するかのように「アラジン」を自由気ままに飛ばして楽しんだ。



歓迎会のときに決まったように、近づく男は排除されます。

たまに料金を徴収するクラブがあります。

会長さんは博美の「うで」を確かめてOKを出しました。

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