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空の妖精  作者: 道豚
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入寮

四月になりました。


 入学式を明日に控えた日曜日、博美は明美とともに高専の寮に来ていた。二年生までは全寮制なので、否応無しに寮に入らなければならない。今日は新入学生の入寮日という事もあり、博美のほかにも何人もの学生が親とともに荷物を運び込んでいた。

「えーと、僕の部屋は何処だろ?」

 玄関に部屋割りが張り出されている。

「205号室みたいよ、ルームメートは永山さんというみたいね」

 明美が部屋を見つけたようだ。

「高木さんは何処だろ? 近いといいな」

 博美は端から順番に名前を見ていた。

「高木さんって、美郷中の子?」

「そう、僕のこと知っているから、力になってくれるって言ってた」

「秋本君、久しぶり!」

 階段を下りてきた女の子が声を掛けてきた。

「あっ…… 高木さん。 ひさしぶり~」

「秋本君、随分変わったねー。 もう男の子の面影無いじゃない!」

 周りの喧騒に負けないように高木が大きな声で話をする。

「ちょっと、声が大きいよ」

 それが聞こえたのか、周りに居る人が怪訝そうな顔をしている。

「あっ…… ごめん。 そうよね、人前で言う事じゃないよね」

 そこで博美の横の明美に気が付いた。

「秋本君のお母さんですか。 はじめまして高木恵子といいます」

「はじめまして、明美といいます。 高木さん、博美のこと知っているのね」

「はい、あの事件の後、秋本君から直接聞きました」

「そう…… そしたら心強いわ。 よろしくお願いね」

 明美がゆっくり頭を下げた。

「ねえねえ、高木さん何号室?」

「301号室。 秋本君…… 君は変ね。 秋本さんは205号室なんだー 私の部屋とは少し離れてるね」

「そうなんだ……」




 博美たちは高木と別れて階段で2階に上がり部屋まで廊下を少し歩く。部屋は片側だけにあるようで、205号室はすぐに見つかった。ドアの横に名前のプレートが掛けてある。

「思ったより狭いわね」

 中を見渡して明美が言った。左右の壁際にベッドと勉強机があり、その部分だけがプライベートスペースらしい。部屋の真ん中は開いているが、ここは共有スペースだろう。壁にあるドアを開けてみると、そこはクローゼットになっていた。

「どっちを使えば良いのかな?」

 博美の荷物とルームメートの荷物はすでに届いていて、部屋の真ん中に積み上げられている。ルームメートの永山はまだ来ていないようだった。




「ここだ、ここだ。 あったよ」

 廊下の方で声がしたと思ったら、めがねにお下げの女の子がドアから顔を覗かせた。博美たちを見てびっくりしたような顔をしている。

「裕子、ちょっと待ちなさい」

 後ろから年配の女性がやって来た。

「ひょっとして、永山さん?」

 明美が尋ねると

「はい。 秋本さんですか?」

 その女性も尋ねてきた。

「娘が同室になるようで、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。 まあ、可愛いお嬢さんで……」

「とんでもないですー。 ほんと世間知らずで、ご迷惑を掛けるかもしれませんが……」

 まあ、よくあるおばさんの挨拶が始まった……




「ねえねえ、永山さん。 どっちのベッド使う?」

 親はそっちのけで博美が聞いた。

「私はどっちでもいいわ。 秋本さんはどうなの?」

「僕もどっちでも良いけど…… 家と同じ方向なら向かって左かな」

「じゃー、私は右側ね…… って、今「僕」って言った?」

「え…… えへへへ…… 変かな?」

「うわー、「僕っこ」ってほんとに居るんだ!」

「よく言われるけど…… なんかあるの?」

「知らないの? アニメなんかで可愛い女の子が言うのが「萌える」のよ」

「ごめん、アニメ見ないんだ」

「へー。 珍しい…… でも、秋本さん可愛いから「僕っこ」が似合ってるよ」

「へ? そうなの?」

「うん。 そうだ……ねえ……なんか同じ部屋で暮らすのに苗字で呼び合うのは変じゃない? 名前で呼ぼうか?」

「いいの?」

「もちろん! 私は裕子ゆうこ

「それじゃ、裕子ちゃん。 僕は博美ひろみ

「よろしくね、博美ちゃん」




 荷物の片づけが終わると、明美たちは帰っていった。博美と裕子は二人部屋に残されて、なんとなく「ボー」としている。無理も無い、昨日までの生活がガラッと変わってしまったのだから。

「ピンポーン♪」

「新入寮生は一階のホールに集まってください」

「繰り返します。 新入寮生は一階のホールに集まってください」

 館内放送が聞こえてきた。

「なんだろう? 裕子ちゃん行こうか」





 博美と裕子は一階のホールにやって来た。前には上級生が何人か並び、手前の椅子にはすでに数人の学生が座っている。博美たちも開いている椅子に並んで座った。やがて席が埋まる。

「始めまして、私は寮長の植野です。 皆さん入学おめでとうございます」

 前に立っている先輩の一人が話し始めた。

「つきましては、寮の決まりごと等、プリントを配ります。 部屋に持って帰り、よく読んでおいて下さい」

「明日は入学式です。 寝坊して遅刻しないように、早めの就寝を心がけてください」

「今日は、特別に新入寮生の方たち専用の入浴時間を設定します。 7時から9時の間に入ってください。 なお夕食は5時から7時までです。 食堂は男子と同じ場所ですから、各自服装には注意をお願いします」

「以上です。 それではプリントをもらって行ってください」




「なんか、凄い人だね」

「うん、必要なことをビシッと言う、キャリアって感じ」

 博美たち新入寮生は、それぞれ部屋に戻っていった。




「ねえ、どうだった」

「決まってたわよ。 出来る女って感じ」

「ところでさあ、可愛い子いたよね~」

「うん、いたいた。 ショートヘアーの子。 あの子可愛いわねー」

「何科?」

「えーとね。 へえー、 機械科だって」

「機械科なの! めずらしー」

「これは当分の間、男子たちが煩いわよ」

「彼女、部活は何に入るかしら。 争奪戦が起こるかも……」

 上級生たちのお喋りは何時までも続いた……


博美の「僕っこ」はまだ直っていません。

相部屋とはいえ、親元を離れての生活です。なかなか調子は出ないでしょうね。

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