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空の妖精  作者: 道豚
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初めての離陸

離陸をしないと飛行機は飛びません。


 博美が「アラジン」を飛ばしていたころ、加藤はクラスメートたちと集まっていた。この前博美たちが集まったように、同窓会を開いていたのだ。

「ん!」

 加藤のスマホにメールが入った。そっと見てみると博美からだ。

{やほー! エンジン機を飛ばしてるよ。 加藤君より早く上手くなるからね♪}

 やけにハイテンションな文章と一緒に「アラジン」を持ってポーズを取る博美の写メだった。

「(あいつめ、抜け駆けしやがった……)」

 博美の写真を見ながら悔しがっていると、隣のクラスメートが覗き込んできた。

「おお! 可愛いじゃん…… 誰だ? 加藤、おまえ……もしかして彼女か?」

 その声にクラスメート全員(女子を含む)が振り向く。

「ち……違う、 一緒にラジコンをやってる子だ!」

 加藤は否定するが

「お、今ちょっと躊躇したな!」

「やっぱり加藤は嘘がつけないよな」

 誰も信用しない。それどころか

「見せて見せて!」

 女の子たちまで来て、スマホを取り上げてしまった。

「キャー、 可愛い~い。 ねえ、誰誰……  華長中の子じゃないよね?」

「私にも見せて…… ほんと、可愛い…… 加藤君隅に置けないわねー」

「おい、俺にも見せろよ…… あれっ、 この子ってこの前この店で見たぜ。 美郷中の子じゃないか?」

「そうだ、そうだ。 見た見た。 二人いい雰囲気だったよな!」

「見詰め合って、お互い顔を赤くしてさ……」

「キャーーーー」




 博美は3回目の「アラジン」のフライトを準備している。今日はこれまで「アラジン」「エルフ」「アラジン」「エルフ」と交互に飛ばしていたのだった。

「博美ちゃん、そろそろ離着陸の練習を始めるか」

 井上が声を掛けてきた。上空飛行を見て、問題ないと考えたのだろう。

「はい、 頑張ります!」

 博美はやる気満々だ。

「じゃ、 飛ばす前に勉強だ」

「え~、 べんきょ~」

「これは重要だからよく覚えとけよ。 グライダーは何時でも風に向かって離着陸出来るよな。 なんたって滑走しなくていいんだから。 しかし飛行機は滑走しなくちゃいけないんだ。 だから滑走路の向いている方向でしか離着陸出来ない。 これは分かるよな」

 博美が頷くのを確認して井上は続ける。

「風は何時でも滑走路に平行に吹いているとは限らない。 むしろ斜めから吹いてくるのが当たり前。 時には真横からなんて事もある。 それでも飛行機は滑走路の向いている方向に離着陸する。 だから飛行機にはグライダーとは違う操縦方法がある」

 博美は真剣に聞いている。

「まず滑走だ。 風が斜めから吹いていると、垂直尾翼の風見効果で風上を向こうとするから、ラダーを風下側に切ってやる。 今日の風だと右だな」

「そしてスピードが上がるに従って、様子を見ながらニュートラルに戻す」

「理想的には、機体が地面を離れるときにはラダーはニュートラルがいい。 しかし風が強いときはそうは言っていられない。 離陸後にニュートラルにするときもある」

「離陸後だ、機体が地面から離れたら風に流されるようになる。 だから機首を少し風上に向ける必要がある。 これはさっきまで邪魔だった垂直尾翼の風見効果で自動的に向くので、邪魔をしなければ良い」

「これで離陸は終わりだ」

 身振り手振りで井上が離陸時の操縦方法を説明した。

「はあ…… それをあの数十メートルの間にするんですか…… とても出来ない……」

「なに、 すぐ出来るようになる。 それに風が強いときは代わってやるから」

「はい、 おねがいします」




 井上がエンジンの掛かった「アラジン」を滑走路の中央に置いて、送信機を持った博美の隣に帰ってきた。

「さあ、スロットルを開けて。 いきなりじゃなくて最初はゆっくりと」

「んっ……」

 頷くと博美はスティックを少し上げた。「アラジン」がゆっくり走り出す。 が、左に曲がってしまった。

「ほらほら、ラダーを右に切るって言ったろ」

「……ごめんなさい……」

 井上が「アラジン」を元の場所に運んで、戻ってきた。

「さあ、もう一度」

 「アラジン」が走り出す。 今度は右に曲がってしまい、焦った博美がラダーを左に切ったせいで、ひっくり返ってしまった。 エンジンの止まった機体を井上が回収してくる。

「ご……ごめ……ん・なさ……い……」

 博美は泣き出してしまった……

「みんな、最初はこんなもんだ。 気にするな」

 井上が優しく頭を撫ぜながら言う。

「最初は加減が分からないんだよな。 嫌じゃなければ俺が後ろからサポートするが、どうする?」

「おねがいします」




 再びエンジンの掛かった「アラジン」を滑走路に置くと、井上は博美の後ろに立った。

「ちょっとごめんな」

 井上が後ろから手を回して、送信機を持っている博美の手の上から手を添えた。知らない人が見たら後ろから抱きしめているようだ。しかし操縦に夢中の博美はその事に気が付かない。いつもなら「ヤジ」を飛ばすであろうクラブ員たちも、身に覚えがあることなので何も言わなかった。

「いいか、この程度の風なら、ラダーはこのぐらいだな」

 井上がスティックを動かしてみせる。そしてスロットルスティックをゆっくり上げていった。

「走り出したら、スピードが付くに従って、段々ニュートラルに戻す」

 井上は実際に動かして見せた。

「分かったかい?」

「はい……どうにか」

 博美は自信無げだ。

「出来る、出来る。 も一度やってみるな」

 井上は「アラジン」を走らせてスタート位置に持ってくると、もう一度やってみせた。

「今度は博美ちゃんがやって見てごらん」

 博美が自分で操作するのを、井上が調節しながら走らせた。

「ようし、上手くなった。 さあ、実際に離陸させよう」




 井上が博美の横に移動した。

「さあ、初めてごらん。 大丈夫、出来るさ」

「んっ……」

 博美は頷くと、スティックをゆっくり上げていく。段々スピードを上げた「アラジン」は、少し蛇行はしたが、やがて十分な速度になった。

「よーし、少しエレベーターを引いて」

 博美が昇降舵を上げ舵にすると、「アラジン」は機首を上げ、地面を離れていった。

「OK、OK…… 後は出来るよな。 機首を上げすぎないように。 傾かないように」

 博美の操縦で「アラジン」は無事離陸し、高度を上げていった。




 無事にスマホを取り返した加藤の元に博美からまたメールが来た。

{ばんざーい! 離陸できたよ。 ほめてほめて!}

「(なんだ、なんだ。 あいつは……)」

 何故いちいち自分に報告をするのか、博美の気持ちが分からない加藤だった。



「アラジン」は3車輪なので、まだ簡単な方です。

風が強いとベテランでも離着陸には苦労します。

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