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空の妖精  作者: 道豚
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弟子にして!

スタントの練習時、燃料代はバカになりません。


 井上が自分の飛行機、スタント機の「ビーナス」に燃料を入れ始めた。大量の燃料を消費するフルサイズのスタント機は電動ポンプでないと大変だ。電動ポンプでも1~2分は掛かってしまう。

「(2分弱で入ったな、OKだ)」

 井上は給油の終わった機体をエンジン始動時のホルダーに乗せて、周りに送信機やバッテリー、スターターをセットした。

「う~ん」

 一旦立ち上がると、空を見ながら背伸びをする。これが井上の「くせ」なのだ。井上のその様子を見た小松がやって来て、機体後部を支えた。

「僕がホルダーしたい!」

 博美が言った。しかし井上は手でそれを断った。




 井上がプラグに通電して、スターターを回す。

「ぽろぽろぽろ……」

 大排気量エンジンにしては軽やかな排気音でエンジンが始動した。プラグの電源を外し、井上が機体の横にしゃがんだ。

「ゴーー」

「ぽろぽろぽろ……」

 エンジン全開で混合気の具合をチェックし、再びスローに戻す。

「OK?」

「OK!」

 暗号のようなやり取りをして、小松が機体を持ち上げた。




 小松が「ビーナス」を滑走路にセットする。操縦ポイントに立った井上は、チラッと周りを確認するとスロットルスティックを6割ほど上げた。パワーがあり過ぎるため、全開では危険なのだ。それでも数十メートルの滑走で簡単に離陸して行った。それを見届け、小松が井上の後ろに立った。




「すごい…… きれい…… 」

 ホルダーを断られて、若干「へこんだ」博美だったが、惚れ惚れと井上のフライトを見ていた。スポーツ機のフライトも十分上手だったが、それは結局は、ストレス解消のための飛行だった。それが今は持てる能力をフルに出して飛ばしている。違いは歴然としていた。

「…………」

 博美は声も無く見ているだけだった。

「(僕もあんな風に飛ばしたい)」

 井上が憧れの人になった……




 井上がフライトを終え、ピットに帰ってきた。機体は小松が持ってきて、メンテナンススタンドに置いた。

「井上さん…… 素敵でした」

 博美がキラキラした目をして、胸の前で指を組んで、上目遣いで井上を向かえた。

「井上さん…… 僕を弟子にしてください」

「へえっつ!……」

「うわーーーー」

 井上の息は止まり、小松は叫びながら走り出した……




 あまりの破壊力にクラブ員が全員そこらじゅうで悶えている。

「?????」

 博美は何が起こったか、まったく分かっていなかった。

「お……おま……おまえな……いきなり何を言い出すんだ!」

 井上が生き返ったようだ。

「大好きです……僕を弟子にしてください」

「い……いや……そんな……俺は34歳だし、ちょっと年の差がありすぎないか?」

「年の差なんて、問題じゃないでしょ」

「悪い、好きな人がいるんだ」

「そんなの関係ないでしょ」

「大有りだよ!」

「弟子になるのにそんなのは関係ないでしょ」

「ああ……弟子の話か……びっくりしたなー」

「何だと思ったんですか?」

「いや……べつに……その……」

「変なの……ところで好きな人って誰?」

「へ……なんでそんなこと聞くんだ」

「いや、いま言ったから」

「黙秘します!」

「桜井さんですか?」

「ノーコメント」

「弟子の件は?」

「まあ……後でね……」

 井上のガードはなかなか固いようだ。




 離れたところから排気音が聞こえてきた。見ると、いつの間にか小松がエンジンを掛けている。それを見て井上が歩いていった。

「あ~ん、まって」

 博美が逃がしてたまるものかと追いかけた。




 小松の飛行機は意外と綺麗で、まともなスタント機だった。今度は井上が「ホルダー」をしている。

「OK?」

 さっきと同じようなやりとりの後、井上が機体を滑走路に置くと、エンジンの音を響かせて離陸した。




「意外……小松さん上手なんだ」

 井上の横に来た博美が小さな声で呟いた。小松はフライトに集中しているので聞こえていないが、井上には聞こえた。

「こいつは練習では上手いんだ」

 これは流石に小松に聞こえた。

「井上さん! そりゃないですよ。 本番では下手みたいじゃないですか」

「そのとおりだろ?」

 とたんにフライトが乱れてしまい、何の演技をしているのか分からなくなってしまった。

「ばかやろ!」

「いてっ!」

 井上が後ろから頭を小突いた。




 小松はもう一度初めから演技を始めた。

「そら、こっちに倒れてるぞ」

「もっとラダーを打て」

「ほらほら、下がってきてる」

「逆だ、馬鹿!」

 井上が次々と指示を出し、小松はそれに答えるのに必死だ。博美は井上の言葉と小松の演技を黙って見ていた。




 燃料が切れたため、小松の飛行機が演技の途中で降りてきた。井上が回収しようとしたが、小松は送信機を井上に預けて、自分で取りに行った。

「井上さん、小松さんってどれ位の「うで」なんですか?」

 博美が送信機を片付けている井上に聞いた。

「あいつはエキスパート挑戦中だ。 まあ相撲で行ったら十両に上がる辺りだな。 スタントフライヤーと呼んでもらえだしたくらい? だろう」

「どれ位やってみえるんですか?」

「大学に入った年に始めたから、3年かな」

「えーー …… 小松さんって大学生だったんですか!」

「そ~だよ~。 四月から4年生」

 機体を回収してきた小松が言った。

「何だと思ってた?」

「プータローなんだと……」

「は? 聞こえない……」

「聞かなくていいです!」

 博美は俯いてしまった……



さて、井上は何と勘違いしたのやら……

途中からやり直したため、小松の飛行機は燃料が足りなくなりました。

小松は意外にも大学生でした。

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