同窓会
博美は修学旅行では男湯に入った?
「はあ~、 どうしようかなー」
扉を開けたクローゼットの前で博美が悩んでいる。卒業式が終わり、公立高校の試験も終わって、クラスメートたちが全員暇になった今、誰言うとなく「皆で集まって同窓会をしよう」という話が持ち上がっていた。博美としても皆に会うことは良いのだけれど、実は卒業してからこっち、男の服を着ていなかった。そればかりか、男の服の殆どを捨てていたのだった。残っているのはジャージやトレーナーなどの部屋着ばかりだ。
「もう…… こんな事なら少しは残しておくんだった……」
いくら悩んでいても、無いものは無い。博美は明美にアドバイスをもらう事にした。
「ねえ、お母さん。 どんな格好で行ったらいいと思う?」
「そうねー、博美は女の子の格好を見せたくないの? それとも見せてもいいの?」
確かにそれが最初の問題だ。
「分からない…… 」
しかし博美はそれが分からないのだった。
「それじゃーねー、 順を追って考えてみましょ」
顔の前に人差し指を立てて明美は続けた。
「博美はこれからずっと女の子?」
「うん、そうだよ」
「これからも中学校のクラスメートと会うことがある?」
「う~ん…… たまにはあるかも…… 年に一回とか……」
「その度に男の子の格好をする?」
「だんだん出来なくなるかな? 多分今より胸とか大きくなるから、っていうかなって欲しい」
「うふふ…… やっぱり女の子ね。 それじゃ何時かは皆に見せるときが来るわね」
「そうか! だったら今皆に見せても良いんだ」
「そういうこと。 先延ばししたって良いこと何も無いわよ」
「分かった、女の子の格好で行く!」
明美はなかなか理論家なようだ。
「(これって…… 誘導尋問じゃないよな……)」
100パーセントは信用してない博美だが、決めてしまえば迷わない性格なので、それ以上は考えないことにした。
「それで~、何着て行ったら良いの?」
着ていく物が決められない博美だった。
此処は中央からは遠く離れた西日本にある田舎県の県庁所在地。田舎とは言っても、県庁所在地だけのことはあって、それなりに繁華街はある。そんな中のアーケード街にある炉辺焼きの店が、今日は昼まっから賑わっていた。2階の座敷に若者が30人近く集まっているものだから、その騒がしい話し声は1階のテーブル席やカウンター席まで侵食しているのも当然だった。
「え~と…… 此処でいいのかな?」
暖簾を分けて、ワンピースを着た可愛い女の子が顔を覗かせた。
「へい、いらっしゃい!」
それを見た店員さんが、逃がすものかと声を掛ける。
「あのー、美郷中学校の集まりはここでしょうか?」
女の子は可愛い声で尋ねた。
2階に集まっている美郷中学校3年1組卒業生たちは、お互いに近況を報告したり話し込んでいた。
「なあ、秋本は遅いな!」
一人が入り口の引き戸を見て言った。
「委員長に連絡があったってさ、すこし遅れるって」
テーブルを挟んで座っている男がそれに答えた。テーブルには食べ物と飲み物が並べられている。さすがに未成年なのでアルコールは置かれてない。もっともこの田舎では飲んだことの無い男は居ないだろうが……
「ガラッ」
引き戸が開けられた。誰が来たのだろうと皆がそこを見ると、可愛い女の子が立っていた。
「遅くなってごめ~ん」
その子は可愛い声で一言謝ると、中に入ってきた。
「(だれ?)」
「(知ってる?)」
「(?)」
皆の顔に疑問符が並ぶ。
「あのー、部屋を間違えてません?」
入り口近くに陣取っていた「元委員長」が恐る恐る声を掛けた。
「ここ、美郷中の同窓会でしょ? だったら此処でいいの」
「気を悪くしたらすみませんが、何方でしたっけ?」
どうしても「元委員長」には、誰だか分からない。
「なんで~、分からないの?…… 秋本博美だよ!」
一瞬の静寂の後、部屋の中はまるで爆弾が破裂したような騒ぎになった。
あまりの騒ぎに、耳を押さえて博美が開いた席に座る。当然開いているのは男のテーブルだ。
「わー、なんか皆変わらないね……」
変わらないのも当たり前、卒業式から一週間しか経っていない。こんなところでも「天然」を発揮する博美だ。
「お前は変わりすぎだってーの!」
周りの男たちから突込みが入った。
「でもさー、可愛いじゃないか」
「ああ、やっぱり女だったんだ」
「近くに行くと良い匂いがするぜ!」
周りに居る男たちの様子がおかしくなってきた……
「ちょっと、ちょっと…… 博美ちゃん、こっちにおいでよ」
女子がそんな雰囲気を察して博美を救い出しに来た。
「なんでー、博美は男だろ!」
男連中からクレームが入る。
「何言ってんの、博美ちゃんは女の子でしょ。 なによ鼻の下を伸ばして!」
博美は女の子たちのテーブルに連れて行かれた。
「ねえねえ、こんなに髪長かったっけ?」
女子たちが博美を質問攻めにしている。
「これねー、ウィッグなんだ。 まだ十分伸びていないから」
「髪伸ばすの?」
「うん♪ 伸ばそうと思ってるよ」
「ひょっとして、お化粧してる?」
「少ししてる。 まだ練習中なんだ」
「博美ちゃんてさ、ほんとは女の子だったの?」
「そうだったみたい。 この前、出血で病院行ったでしょ。 その時分かったんだ」
「じゃー、あれは生理だったってこと?」
「そうだよ。 初潮!」
「「「えーー! そうだったんだ!」」」
女子テーブルは大騒ぎだった。
「くそー、博美は女だったのか」
「そうと知ってたら、付き合ってたのにな~」
女子テーブルの話を聞いて、男たちは悔しがっていた。
「あんな可愛い子、めったに居ないぜ」
「美郷中の至宝だな」
「修学旅行で一緒に風呂に入ったよな~」
「今思い出しても鼻血ものだぜ!」
「俺も高専に行くんだった。 そうしたら後5年間一緒に居られたんだ……」
「むりむり、お前の学力じゃ通らないさ」
「あーあ。 逃した魚は大きいな~」
なんとなく、男どものテーブルが暗くなってきていた……
流石に中学生たち、5時にはお開きになった。
「それでは、みんな元気で高校生活をたのしもう」
「元委員長」が閉めて、みんなで階段を下りると、1階に見知らぬ男の子たちが居た。
「2階の連中、煩いよな~」
「まったくだ、美郷の連中だろ。 あいつら田舎もんだから……」
なんか、雰囲気が悪い。
「華長中だ……」
美郷中と華長中はなぜか中が悪い。どちらかと言うと、華長中が難癖をつけてくる事が多いのだ。
「あれー、加藤君じゃない♪」
博美が嬉しそうに華長中グループの一人に声を掛けた。
「えーー! 博美ちゃん…… なんでこんな所に?」
なんと加藤がそこに居た。
「なんか、今日は雰囲気違うね」
「えへへ、ウイッグ付けて、お化粧もしたんだ。 似合う?」
「うん…… 似合ってる…… 可愛いよ」
加藤が顔を赤くして言った。
「か・か・可愛い……」
博美も顔を赤くして下を向いてしまった……
「博美ちゃん、この人だれ?」
クラスメートの女の子が尋ねる。
「加藤君っていうの。 ラジコンするんだよ。 僕のほうが上手だけど」
「彼氏?」
「まさか……違う・違う…… 先々週合ったばかりだよ」
「きゃー…… あやし~」
女の子たちが囃し立てる・・・
「この間の勝負は引き分けだろ。 勝手に自分が上手いなんて言うな!」
加藤はまだ勝負にこだわっている様だ。
「男子三日会わざれば刮目して見よ」と言われますが、博美は変わり過ぎっ!
もっとも博美は女子ですけど……




