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空の妖精  作者: 道豚
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博美の腕前

グライダーでも曲技飛行が出来るんです。


「博美ちゃん、座ってばかりじゃ退屈だろ?」

 お昼を食べ終わったころ、加藤が尋ねた。

「俺がグライダーを投げてやるから、操縦しないか?」

「ほんと? ……ほんとに良いの?」

「ああ、いいぞ」

「それじゃね~、加藤君のグライダーを操縦したいな♪」

 純粋に加藤のグライダーに興味が有るだけでなく、博美は大事なグライダーを他人が投げるのが怖かった。

「いいよ、準備するからちょっと待ってて」

 加藤はそんな博美の心の中までは読むことが出来ず、何の警戒心も無く貸してあげることに同意した。




 加藤がグライダーと送信機を持って博美の所に来た。

「加藤君の送信機、僕のと同じなんだ! これなら安心して操縦出来るね」

 偶然にも、博美の送信機と加藤の送信機は同じメーカーの同じモデルだった。送信機が変わると操縦感覚が変わるし、スイッチの割付も違う、それは緊急時には致命的なミスを引き起こす可能性がある。

「おお、丁度良かったな」

「ただ、俺のは機体がフルファンクションだ。 その部分を説明するぜ」

 博美の「エルフ」と違って加藤のグライダーは主翼に舵が付いている。その事により飛び方の自由度が大きい。その分操縦するのも複雑だ。




 加藤と博美が送信機を真ん中に置き、顔を近づけて操縦方法を確かめ合っている。離れて見ていると、まるで恋人たちが愛を語り合っているようだ。

「いよー、お二人さん。あついね~」

「おいおい、ここは飛行場だぜ……」

「結婚式には呼べよー」

 例によってクラブ員たちからヤジが飛んできた。

「だーからー、そんなんじゃないって!」

 加藤がそれに気が付き、声を上げた。博美は横で真っ赤になっていた。




 加藤が滑走路脇に椅子を置いて、博美の所に来た。

「あそこなら座ったままで操縦できるだろ」

「うん、あそこなら大丈夫だね」

「それじゃ、始めようか」

 加藤が博美をまた抱っこしようとしてしゃがんだ。

「やだ、ちょっとー、それ恥ずかしいよ」

 流石に博美はさっきの事を思い出して嫌がった。

「それじゃ、どうやってあそこに行く?」

「おんぶして!」

 後ろ側なら恥ずかしくないだろうと、博美が言った。 それを聞いて加藤が後ろを向いてしゃがんだ。

「よいしょっと」

 博美が背中につかまったのを確認して、加藤が立ち上がった。

「(……なんか、背中に丸いものが二つ当たってる……)」

 背中に当たる物の正体に気が付いたとたん、健全な男子の反応として加藤は動けなくなった。実は、博美は二次性徴が始まったばかりで、胸はほとんど膨らんでいない。そのためブラの中にパットを入れているので、加藤の感じているのは本物の乳房ではない。博美としてもパットが潰されているだけなので、痛くも痒くもない。

「どうしたの?」

 突然動かなくなった加藤に、不思議そうに博美が尋ねた。

「ごめん、一旦降りてくれ」

 加藤は博美を下ろすため、その場にしゃがんだ。

「わるい、おんぶは駄目だ。 肩を貸すから、それで行こう」

「……いいけど…… なんで?」

「俺が恥ずかしくなるんだ!」

「変なの……」

「(こいつの天然はどうにかならないのか……)」

 加藤はため息をつくばかりだった。




 博美は滑走路脇の椅子に座って、加藤がグライダーを投げるのを待っている。

「それじゃー行くぞ」

 加藤が助走を始めた。自分が操縦しなくていいので、全力を出してグライダーを投げる。「ヒューーー……」長い風切音を引いて、50メートルを軽々超え、60メートルに届きそうな高さでグライダーは滑空に入った。

「(すご……なんてパワーなんだろう。 絶対敵わないな!)」

 後ろで操縦しながら、博美は加藤のパワーに舌を巻いた。

「さて、サーマル、サーマルっと」

 サーマルを探して、博美はグライダーを操縦する。

「よし、見っけ♪」

 すぐにサーマルを見つけると、グライダーを旋回に入れる。

「えっ…… もう見つけたのか?」

 投げた後、博美の後ろに来ていた加藤が驚いた。

「(なんでこいつは簡単にサーマルに入れられるんだ?)」

 グライダーは強力なサーマルによって、100メートルを越えるほどの高さまで上がっていた。

「ちょっと遊ぶね」

 加藤に一言いうと、博美はグライダーを急降下させた。「ヒューー」スピードが上がるに従い、グライダーから風切音がしはじめる。高度20メートルほどに降りてきた所で、一旦水平飛行をしたグライダーは突然機首を真上に向け、垂直上昇を始めた。やがてスピードが落ちてきたところで、横方向に「クルリ」と向きを変え、垂直下向きに降りていく。「ハンマーヘッド」という技だ。

「上手い…… 上昇、下降のラインがぴったり揃ってる」

 いつの間にか近くに来ていた井上が呟いた。

「そんなこと無いですよ」

 博美はそう言いながら、再び水平飛行に入れたグライダーを宙返りさせ、その宙返りの頂点でグライダーをロールさせた。「インメルマンターン」という技になる。

「博美ちゃん、謙遜しすぎは嫌味になるぜ。 いまの演技なんかエキスパートクラスだ」

「ごめんなさい……」

 博美の声が寂しそうになった。

「井上さん、博美ちゃんはそんな気持ちなんか無いはずですよ!」

 加藤が井上に向かって言った。

「加藤君、ありがと♪」

 博美の声が再び明るくなった……




 その後、博美はグライダーを再びサーマルに入れて高度を取ると、同じように幾つかアクロバット飛行をして着陸させた。

「あ~ 面白かった。 加藤君ありがと」

「どういたしまして、楽しんでくれてよかったぜ。 しかし博美ちゃんアクロバットも上手いね!」

 井上の解説が無くても、博美のフライトが素晴らしいのは誰の目にも明らかだった。

「流石は「妖精の娘」だな。 綺麗なもんだ……」

 井上が早速二つ名を付けてしまったようだ……

「井上さん……それ広めたりしないですよね?」

 博美が「ドス」を効かせたつもりの声で言うが

「さあーてね♪ もうすぐ予選が始まるし……今年は出たいな」

 井上には効かないようだ。




 楽しい時間は直ぐに過ぎるもので、もう博美は帰る時間になった。

「加藤君、今日はありがと。 また一緒に飛ばそうね」

「おお、またな……今度はきっちり勝たせてもらうから」

「え~ まだやるの……僕の勝ちでいいじゃない」

「ばかやろ、途中棄権したんだから、博美ちゃんの負けだろ?」

「でも、4セット目は僕が勝ったんだから……」

 またまた二人がにらみ合いを始めてしまった。

「おいおい、痴話げんかもいい加減にしておけ」

 あきれて井上が二人を止める。

「痴話げんかじゃないでしょうが!」

 加藤が井上に食って掛かる側で、博美が顔を赤くしていた。



博美は胸は無いけれど、腰は十分くびれています。

主翼に舵があると揚力の大きさを直接増減出来るので、スピードが出しやすいです。

初めて飛ばすグライダーを自由に操縦できるのは博美が上手いからです。凡人ではそうは行きません。

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