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空の妖精  作者: 道豚
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井上の腕前

ラジコンには怪我が付き物です。


「すまんな。 俺がしっかり見てなかったから」

 戻ってきた井上がレジャーシートの上に座った博美に頭を下げた。

「そんな、僕が勝手に怪我しただけですから」

 年上の人に頭を下げられ、慌てて顔の前で手を振りながら博美が答える。

「そうは言っても、女の子を預かってきた身になると、申し訳なくてな……」

 井上の顔は優れない。

「どれ、見せてみなさい」

 突然、お爺さんが声を掛けてきた。

「おや、服部さん、今日は来ていたんですか」

「あの……どなたです?」

 いきなりの事で驚いて、博美が井上に聞いた。

「この方は、外科のお医者さんだよ。 もっとも引退してるけどな」

「という事だよ、ソックスを脱いでごらん」

 博美が納得してソックスを脱ぎ、服部に足を見せる。服部は足首や足の裏を押したりして言った。

「うん、少し腫れてるね。 でもすぐに良くなると思うよ。 テーピングをしてあげるね」

 服部は持ってきたカバンからテーピング用包帯を出して、博美の足首を固定した。

「あの~、服部さんって、いつも治療道具を持っているんですか?」

「そうだよ、ここのクラブ員は元気がよくてな、怪我をしょちゅうするんだよ」

 病院から引退して後、ラジコンを始めた服部だが、今ではクラブに無くてはならない人材だった。




 レジャーシートの上で博美が井上の飛ばしている飛行機を見ている。練習出来ないからと今日はスポーツ機を飛ばしているのだが、流石は全国大会に出場したことがある腕前だ。他のクラブ員とはレベルが全然違う。

「(う~ん…… いい飛びだなー…… 直線とカーブのメリハリが付いているし、横転ロールの速度が何時も同じだ)」

 軽くアクロバットをしていた飛行機が急に滑走路の上まで下りてきた。そして滑走路の真ん中、2メートルぐらいの高さで機首を真上に向ける。エンジンの出力を調整して空中に止まった飛行機がゆっくりと回転を始めた。ヨーロッパの選手が日本に紹介した「トルクロール」という技だ。

「井上ー まだまだ高いぞー!」

 見ているクラブ員からヤジが飛ぶ。それが聞こえたのか、飛行機はゆっくりと下り始めた。そして終に垂直尾翼が滑走路に触ってしまう。「ピューピュー」「いいぞいいぞ」クラブ員たちは大騒ぎだ。周りの反応に気を良くした井上がエンジンをフルパワーにする。砂埃を上げて飛行機はロケットのように上昇していった。




「井上さん、凄かったですね」

 飛ばし終えた飛行機を持って帰ってきた井上を博美が迎えた。

「いつも行っているクラブじゃあんな飛行は見たこと無かったです」

 博美が羨望の眼差しで井上を見ながら話しかけた。

「いや……まあな……邪道だけどな。 普段の仕事のストレス解消なんだ」

 若い娘に褒められて、柄にも無く井上が照れている。

「やっぱり人を運ぶヘリコプターは大変ですか?」

「ああ、好きだけど……ストレスは溜まるな~」

「そうなんですかー」

 ストレスと聞いて、ふと博美が気が付いた。

「そうだ、井上さん、お昼にしません?」

 ゆっくり飛行場に来て、しかもグライダーで勝負したりしていたため、もう既に12時を回っていた。

「今日はお母さんが作ってくれたんです。 井上さんの分も在りますよ」

「お、ありがたい」

「加藤く~ん。 一緒にお昼食べようー!」

 少し離れた所でクラブ員と何か話していた加藤を博美が呼んだ……が、加藤は気が付かない。

「おい、彼女が呼んでるぞ」

 側にいたクラブ員が気が付いて加藤に教えてくれた。

「彼女なんかじゃないですって…… でなんだい?」

「お昼にしませんか? 一緒に食べよ♪」

 博美が「にこにこ」しながら言った。

「いや、別にいいよ……」

「なんでー、みんなで食べたほうが楽しいじゃない?」

「おまえなー、みんながどんな噂流すか分かったもんじゃないぞ!」

「おまえ……じゃなくて博美だよ?」

「(だめだ……こいつやっぱり天然だ……)」

「分かったよ、一緒に食べればいいんだろ」

「なによー、せっかくだから楽しく食べようよ」

「(なんだなんだ、この二人は……もう痴話げんかするくらい仲良くなったのか?)」

 横で聞いていた井上はあきれ返っていた。




 お昼を食べながら、博美が加藤と話をしている。

「ねえ、加藤君はどこの高校に行くの?」

「知ってるかなー、高専って言うんだけど」

「えー、加藤君、高専に行くの……何科?」

「知ってるのか……俺は機械科だ」

「ほんと~? 奇遇だね。僕も高専の機械科に行くんだよ」

「ええっ……高専って、特に機械科は男ばかりだぜ」

「知ってるよ……でも機械科でなくちゃ駄目なんだ」

 博美は一旦言葉を切り、意を決したように続けた。

「おとうさんの仕事を継ぎたいから……って言っても会社勤めだけどね」

「博美ちゃんのお父さんって、何をしているんだ?」

「プラントの設計だった」

「ん……なんで過去形?」

「んっとね、死んじゃったから」

「……ごめん……変なこと聞いちゃったな……」

「別にいいよ、全然気にしてないから……海外出張中に死んじゃったから、実感がわかないんだ。 まだ海外で仕事してるみたいな気がして……」

「ひょっとしてさ、お父さんって光輝さん?」

「うん、そうだよ。 加藤君も知ってるんだ」

「このクラブの人なら誰でも知ってるよ。 そこの井上さんが「妖精の秋本」って言いふらしていたから」

「うっつ……ゲフォゲフォ」

 いきなり話を振られて、井上が食べていたおにぎりをのどに詰まらせた。

「大丈夫ですか井上さん、はいお茶をどうぞ」

 博美がポットからお茶を入れて差し出した。

「「妖精の秋本」って井上さんが言い始めたんですか?」

 博美が井上を胡散臭げに見た。

「ま、まあな……それが一番しっくりくるだろ?」

「(そうかもしれない……どうしたらあんなに飛ばせるんだろう?)」

 博美は空を見上げて、父のフライトを思い出していた。



お医者さんって、引退しても医療行為が出来るんですかね?

滑走路上でトルクロールなんてされたら、埃が舞って迷惑です。

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