お姫様抱っこ
二人の距離が少しずつ……
「(……どこら辺に落ちたんだろう……)」
グライダーが消えた場所を目指して真っ直ぐ歩いてきた筈なのに、加藤は見つけられずに焦っていた。背の高い加藤でも埋もれてしまうほど丈の高い葦かなんかの茂った場所なので、発見できずに無くなってしまう飛行機が年に何機かあるのだ。まだ学生の加藤は次のグライダーを買うにはアルバイトを何ヶ月か続ける必要がある。なのに春から寮生活で、アルバイトなど出来ないだろう。
「(絶対に見つけてやる。 例え何日掛かっても!)」
加藤が悲痛な覚悟を固めたとき、
「加藤く~ん、あったよーー!」
どこかで博美の声がした。
「(え…… あいつ探しに来たのか?」
「おー、どこだー」
「ここだよー」
声のする方を見ると、グライダーの尾翼が揺れているのが見える。
「(お…… あそこか)」
加藤がそこに向かって行こうとしたとき
「わっ!」
あまり可愛くない博美の悲鳴が聞こえたとたん、グライダーの尾翼が見えなくなった。加藤は焦って草を掻き分け、足場が悪いのも気にせずに、声のした場所に急いだ。突然草が生えてない場所に出ると、そこにある岩の下に博美が仰向けに倒れていた。
「おい、どうしたんだ!」
「えへへ、落ちちゃった」
博美は寝たまま照れ笑いした。
「でも、加藤君のグライダーは守ったよ」
確かにグライダーは博美の胸の上にあり、どこも壊れてないようだ。
「グライダーは良いけどさ、お前は大丈夫なのか?」
「うん、駄目みたい……」
「どこ怪我した?」
「右足…… 捻ったみたい」
「歩けないか…… しょうがない」
加藤は博美の側にしゃがむと、右手を膝の下に入れ、左手で背中を支え、立ち上がった。所謂お姫様抱っこだ。
「ち・ちょっと…… なにすんの?」
突然の事に博美が焦って尋ねる。
「歩けないなら仕方が無いだろ」
「そんな…… 恥ずかしいよ……」
博美の顔が見る見る真っ赤になっていく。そんな博美のことを気にしていないのか、加藤は博美が歩いてきた跡を辿って飛行場に戻りはじめた。
「ごめんなさい」
「ん…… なんで謝るんだ?」
「だって…… 重いでしょ……」
「気にするな、全然軽いよ。 それにいい匂いがするもんな」
「やだ、変なこと言わないで!」
今や博美は体中が暑くなって、顔からは湯気が上がるかと思うほどだった。
「ねえ、加藤君て、背が高いね」
何か喋ってないと間が持たなくて、博美が加藤に話しかけた。
「う~ん、そうかな~、俺ぐらいの奴、いっぱい要るぜ」
「そんなことないよ、僕の周りには居ないもの。 ねえ何センチなの?」
「185センチだ…… ところでおまえ、自分のこと「僕」っていうんだな」
「えへ…… 癖なんだ…… 変かな?」
「いや、変わってるけど…… 変じゃない。 でもクラブ員にそんなのが好きな奴が居るから気をつけな」
「あー、いたいた。あの人何なの?」
「何かな~、そんなアニメが好きな人…… おっと!」
つい話しに夢中になって足元がお留守になった加藤が、地面に開いた穴に足を取られてよろめいた。
「わっ!」
びっくりして博美が加藤にしがみ付いた。それでもグライダーを放さないのは流石だが、しがみ付かれた加藤の顔が真っ赤になった。
「やだ、加藤君、落とさないでよ……」
返事がない……
「ねえ、聞いてる?」
加藤は上を向いて何かを我慢しているところだった。
「おまえな~、ちょっとは相手が男だって事を気にしろよ!」
「???……」
博美は何のことか分からない。
「(だめだこりゃ…… こいつ天然だ……)」
「そうそう、加藤君。 僕のこといつまで「おまえ」って呼ぶの? いい加減、名前で呼んで欲しいんだけど」
「いや、そら、おまえって秋本だろ。 この当りで秋本っていったら神様のことだぜ。 気軽に呼べないって」
「なにそれ~。 それじゃ下の名前でいいから」
「ほんとにいいのか?」
「うん♪」
やっと二人が飛行場に帰ってきて、草むらから滑走路に出てきた。
「おー、見つかったか?…… っておまえら草むらでなにやってたんだ!」
「帰ってくるのが遅いと思ったら……」
「おい、加藤!……羨ましいぞ!」
お姫様抱っこされた博美を見てクラブ員たちが皆で冷やかす。どうもこのクラブは運動部系のノリの部員が多いようだ。
「そんなんじゃないですよ!……博美ちゃんが怪我をしたから……」
「おいおい、もう下の名でよんでるよ…… やっぱりな~」
「あの…… 僕が呼んで良いって言ったから……」
博美が助け舟を出すが、火に油を注ぐ結果になったのは、当然だろう。
加藤は185センチで博美は157センチ。




