表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空の妖精  作者: 道豚
16/190

勝負

短いです。


 二人が機体を持って用意が出来たことを確認して、井上がスタートの合図をする。

「10秒前……5秒前……3・2・1・0」

 二人は2秒前の合図と共に助走を始め、タイミングよく0でグライダーを投げ上げた。風上に向かって投げるのがセオリーなので、二人の機体は仲良く並んで上がっていく。しかし、最後の一伸びで加藤の機体が高くなった。博美は滑空に入った「エルフ」をサーマルが在ると感じられる所に持っていく。加藤はそれを見て、自分の機体を同じところに向かわせた。

「ちょっと~ ついてこないでよ!」

「ばーか、同じところを飛ばすのがマッチプレーの常套手段だろうが」

 マッチプレーは相手より僅かでも長く飛んでいれば勝ちなので、在るか無いか分からないサーマルを探すような冒険をする必要はないのだ。「エルフ」は見事にサーマルに入った。そして加藤の機体も同じサーマルに当然のごとく入った。第一セットはどちらも3分以上飛んだので、引き分けになった。




 同じようにして、第二セット、第三セットも引き分けだった。

「もう…… ストーカーみたいに付きまとって~ たまには自分でサーマルを探したら?」

 ついつい不満が口をつく。博美もただ無策で飛ばしていたわけではない。第二セットはフェイントを掛け、第三セットは「エルフ」がやっと上昇するぐらいの小さなサーマルに入れたりした。しかし加藤はきっちり付いてくる。

「(この人…… 口だけじゃない…… 結構やるかも)」

 博美は加藤を認めるようになっていた。

「(こいつ、上手いじゃないか…… さっきのサーマルなんか失速ぎりぎりだったぜ…… しかし何でこいつにはサーマルが見えるんだ?)」

 加藤も博美の事を見直していた。




 第四セット目、博美はスタート前に周りを見渡し、サーマルを探す。不思議なことに博美は空気の流れが見えるのだった。いや正確には見えるわけではない、感じられるといった方が良いだろう。

「(あんな遠くにサーマルが立ち上がってる…… エルフ届くかな?)」

 博美は川下方向にサーマル特有の気流を見つけた。

「(ああ…… もうすぐ地面から離れていってしまう……)」

 地面から離れたサーマルは風に流されて飛んでいってしまい「エルフ」では例え追いついたとしても帰ってこれないかもしれない。

「さあ、四セット目だ、始めるぞ!」

 井上がスタートのカウントを始める。

「10秒前…… ておい!」

 博美は井上がカウントダウンを始めたとたんに助走を始めた。これまでとは違って全力疾走だ。そしてその勢いを殺すことなく体を回し、腕を振りぬいた。

「ピューー」

 「エルフ」が風切音を響かせて浅い角度で上昇していく。

 それに驚いた加藤が慌てて助走を始めたが、グライダーを投げた時には既に博美の「エルフ」は彼方の空を飛んでいた。




「(届くかな……届くかな……)」

 博美は加藤のことなど忘れて「エルフ」の操縦に集中する。

「よっし…… 捕まえた!」

 「エルフ」は地面から離れたサーマルのしっぽに飛び込んでいった。博美は直ちにそこで小さく旋回をする。軽量な「エルフ」はほとんど翼長程度の旋回半径で旋回し、サーマルの本体に向かって上昇を始めた。

「ふ~……良かった……」




 博美がほっと一息ついたころ、加藤のグライダーが追いついてきた。ところが遅くたどり着いたため、既にサーマルはそこには無い。

「しまった!」

 サーマルが行った後には下降気流が残されることを加藤は忘れていた。グライダーがそれに捕まり、まるでそこに空気が無くなったかのように落ち始める。あわてて滑走路に機首を向けるが、グライダーは遠くの草むらに消えていった。

「落ちたーー!」

 ここのクラブの決まりに従い、加藤が叫んだ。




 加藤の声を聞いて、博美は「エルフ」を直ぐに手元に戻し、テーブルの上に片付けた。

「何処…… 何処に落ちた?」

 加藤の後を追って滑走路を走っていく。

「博美ちゃん、危ないから!」

 さらにその後ろから井上が走っていった。




 河川敷にあるこの飛行場は滑走路を外れると、人の背丈ほどもある草が生えていて、うっかりすると迷子になってしまう。そんな中を博美は草を掻き分けながらずんずん進んでいった。やがて草が疎らになり、岩がごろごろした場所に出た。見ると、岩と岩の間にグライダーが落ちている。博美は大喜びで走って行き、拾い上げた。見る限り、どこも壊れてないようだ。

「加藤く~ん、あったよーー!」

 博美は大声で加藤を呼んだ。

「おー、どこだー」

「ここだよー」

 どこかで加藤の声がする。博美はそばにある岩に登ってグライダーを高くかざしてもう一度大声を出した。

「わっ!」

 ところが岩の上で片手を挙げて大声を出したものだから、バランスを崩して岩から落ちてしまった。咄嗟にグライダーは庇ったが、足を捻ったようで博美は動けなくなった。



サーマルは小さな低気圧のような物で、そこに風が吹き込んでいます。

だから草のなびき方を見たり、吹いている風向きの変化を感じたり、時には埃や小さな虫が飛ばされる様子で在る場所を探します。

博美は類稀な視力により、高く上がったサーマルまでも見つけてしまいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ