表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空の妖精  作者: 道豚
149/190

やめちゃやだ

 慣れた様子で歩く樫内に連れられ、博美と加藤は電車通りに出た。向こう側にヤスオカ模型が見える。

 「へー こんな所に出るんだー」

 ヤスオカ模型を道の反対側から見るのは、博美は初めてだ。

「私、あのお店に用事があるの」

 横断歩道の信号が変わるのを待ちながら樫内が言う。

「えっ、樫内さんもラジコン始めるの?」

 驚いて博美が樫内を見た。

「違うわよ。 崇さんと待ち合わせなの」

 さっきの怒りが残っているのか、樫内は何時になく口調がキツイ。

「なんで態々(わざわざ)あそこなんだ?」

 結構歩いたよな、と加藤が博美を見た。

「家の人に崇さんを見せたくないの。 それにあそこなら駐車場があるから」

 樫内はぽつりと答えると、青信号を見て交差点を渡り始めた。

「ねえねえ。 なんで知られたくないの?」

 お似合いなのに、と博美は樫内を追いかける。

「絶対に反対されるからよ。 私は物じゃないっての。 親だからって勝手に行き先を決めないでほしいわ」

 樫内は真っ直ぐ前を見て横断歩道を歩いていく。

「んーー よく分からない」

「ひょっとして……許嫁が居るとか……」

 首を捻る博美の横で加藤が呟いた。

「……そうなの……」

 樫内が頷く。

「えっ! 許嫁って……親が決めた結婚相手の事だよね。 樫内さんってもう結婚が決まってるの?」

「そういう事になるわね。 でも、結婚するかどうかは私の気持ち次第よ。 私は親が決めたレールには乗らない。 私の人生は私が決めるの」

 驚く博美が覗き込んでも、樫内は前を見据えたまま交差点を渡った。




 交差点から少し歩けばヤスオカ模型の入り口だ。三人はドアを押して中に入った。

「あらー お揃いで……なに? みんなおめかしして。 もしかしてデートかしら」

 カウンターには変わらず安代が居る。

「こんにちは、安代さん。 クリスマスですから……」

「みなまで言う必要はないわ。 篠宮君、もう来てるわよ。 樫内さん、上手くおやりよ」

 樫内の言葉を遮ると、安代は優しく微笑んだ。




 奥のラジコンコーナーに行くと、啓司と篠宮がカウンターを挟んで話をしていた。二人の間には小さな翼の様な飛行機の部品が置いてある。

「こんにちは専務さん」

 啓司に挨拶をして樫内がそっと篠宮に寄り添う。

「遅くなってごめんなさい」

「いや。 僕もさっき来たところだから」

 気にしなくていいよ、と篠宮が樫内を抱き寄せた。

「こんにちは、専務さん。 篠宮さん。 それ何ですか?」

 少し遅れて加藤と手を繋いだ博美が来た。

「やあ、博美ちゃん、こんにちは。 みんな一緒だったんだね」

 啓司が手に持っていた部品をカウンターに置く。

「こんにちは、博美ちゃん。 これはカナライザーって言って、スタント機の背中に付けると、何故かナイフエッジがラクになる……僕はまだ経験がないけどね……そういう物だよ。 これから「マルレラep」に付けて実験するんだ……」

 篠宮が説明を始めたが、樫内が袖を引いた。

「ん……わかった。 それじゃ、僕たちは行くから。 また飛行場でね」

 軽く頷き、篠宮は樫内と手を繋いで店を出て行く。

「これからデートかな? 少し遅くない?」

「二人でディナーじゃないかな? だったらこれからが丁度いいんじゃないか?」

 二人を見送り、博美と加藤は顔を見合わせた。




 残った博美と加藤は周りのショーケースやカウンターの中を見て回っていた。

「康煕君、これ……」

 やがて博美がショーケースの前で止まり、中の商品を指差す。

「おお。 いいじゃないか?」

 それはアンノウンを覚える時に使う模型のキットだった。

「これをプレゼントに強請って良い?」

 ヤスオカオリジナルの模型で、少しお金を出せばカラーリングをスタント機に合わせてもらえるらしい。

「良いぜ。 お前のプレゼントには釣り合わないけどな」

 作ってもらうにしても、博美の加藤へのプレゼントであるサングラスよりずっと安い。

「値段じゃないの。 僕が欲しい物をプレゼントして欲しいの」

 ね、と博美が微笑みかける。

「OK。 これにしよう。 きっと新土居さんが作るんだろうな」

 頷くと、ショーケースを開けてもらう為に啓司を呼んだ。




 二人ともゴムを用意するなど下心はあるのだが、さすがに恥ずかしくて口には出せず、そのまま加藤の家に帰ってきた。加藤がドアを開ける。

「ただいま」

「ただいま。 おじゃまします」

 玄関に入り博美は挨拶をするが返事がない。

「ん? 変だな。 出かけてるんか?」

「麻由美ちゃんも居ないのかな?」

 かまちを上がる加藤に続いて博美も上がり、ブーツを横に寄せて置いた。ついでに加藤の脱いだ靴も揃えておく。

「やれやれ。 二人とも買い物に行ったみたいだぜ」

 一足先に居間に入った加藤が持って来たチラシには、

{麻由美と買い物に行きます。 6時頃に帰ります。 晩御飯は博美ちゃんと食べるから、帰さないように}

 裏にサインペンで書置きがあった。

「(……えっとー 今って3時半ぐらいだよね……ひょっとして……康煕君と二人っきり……も、もしかしたら、あれが出来るかも……)」

 博美が加藤を見つめる。

「(……6時までまだ2時間半あるぜ……博美と二人きりだ……こ、こいつはあれに興味あるんか?……俺、理性が持つんか?……)」

 加藤も博美を見つめ返していた。





 加藤の部屋に二人は居た。エアコンの入った部屋は暖かく、博美はコートを脱いでベッドに腰掛けている。小さなテーブルには加藤の淹れた紅茶が載っていた。

「樫内さんたち、どこにいったのかなぁ」

 足を組み替えながら博美が零した。

「さあな? 篠宮さんは車があるから何処でも行けるよな。 森のオーベルジュなんて行ってたりして」

 紅茶のカップを持って加藤が答える。

「いいなー 羨ましいなー オーベルジュって泊まれるんだよね。 二人きりかー ロマンティックだろうなー」

 博美がうっとりと目を細めた。

「おいおい。 行ったかどうか分からないだろうが。  しかし樫内さんって……親の決めた許嫁が嫌いなんだな」

 そんな博美を見て加藤が苦笑する。

「それも有るかもしれないけど……自分の意思とは関係ないところで決められたのが嫌なんじゃない?」

 一つ息を吐いて、博美はカップを取り上げた。

「そうかもな。 だから余計に篠宮さんにべったりなんだろうな。 親への反発があるんだろう」

 空になったカップを加藤がソーサーに戻す。

「そういう所は旧家に生まれた所為だろうなー 僕は平民で良かった」

 一口飲んで博美もカップを置き、上目使いで加藤を見た。

「自由に恋ができるもんね。 康煕君、こっちに座って」

博美は自分の隣を「ぽんぽん」と叩く。

 「あ、ああ……」

加藤は立ち上がり、博美の横に座った。




「でぇへへへー」

 加藤に凭れかかった博美は表情筋が崩壊したようで、美人が台無しになっている。

「暖ったかーい。 気持ちいいー」

「(……相変わらず、俺は暖房代わりか?……)」

 初めてキスをした日、雨で濡れた博美が抱き付いて言った事を加藤は思い出した。

「…………」

 そっと加藤は博美の顎に指を当てる。

「……っつ!……」

 博美は「ぴくっ」とすると、上目使いで加藤の顔を見上げた。ピンクの唇が薄く開いている。それに向かって加藤の唇が下りた。







「ケーキ、安くなってて良かったね」

 両手で大きな箱を抱えた麻由美が車から降りてくる。

「そうね。 やっぱり今売らないとお店も困るものね。 チキンもスパークリングワインも買えたし、イブじゃ無いけどクリスマスパーティーよ。 博美ちゃんも居るし、楽しいでしょうね」

 麻紀がリヤゲートを開けて買い物袋を取り出した。

「ちょっと遠かったけど、やっぱり街は美味しそうな物があるねー」

 二人は、博美と一緒にクリスマスパーティーをしようと、街まで買い物に行っていたのだ。

「お兄ちゃん、帰ってるかなー」

 麻由美はケーキの箱を片手で持つと、ドアの取っ手を引っ張った。

「(あれっ? 鍵が掛かってる。 まだ帰ってないのかな?)」

 首を傾げながら麻由美はポケットから鍵を取り出す。

「(ん? 秋本さんのブーツがある……居るのかな?)」

 麻紀が入るのにドアを押さえながら麻由美は博美のブーツがあるのを見た。

「(部屋かなー)」

 ケーキを台所に置くと、麻由美は階段を上った。




 ダダダダ、という階段を駆け下りる音に加藤が頭を起こしてドアを見た。しっかり閉めていたはずが、少し開いている。

「……おかあさーん……」

 階下で叫ぶ麻由美の声が聞こえてきて、加藤はふっと我に返った。素っ裸でベッドに寝ている自分の横に何も着ていない博美が倒れている。ベッドの周りには二人の服や下着が散乱していた。

「……って、帰ってきた! や、やばい……見られた。 おい、博美。 起きろ!」

 加藤が慌てて博美の肩を揺する。

「……ん、んん~ ……な、な~に? 康煕君。 僕、疲れちゃった……」

 うつ伏せのまま枕に顔をうずめて博美が答えた。

「起きろって。 お袋たちが帰ってきたぜ。 今、麻由美に見られた」

「っえ! ええー ど、どうしよう……」

 跳ねるように博美が起き上がった。女の子座りになった所為で大きめのヒップが強調され、Bカップの胸が揺れる。

「(……か、可愛い……って、やばい……)」

 さっきまで自分の下で喘いでいた裸体をまともに見て、加藤は下半身が熱を持つのを感じた。

「(……くっ! 我慢我慢……理性よ頑張れ……)」

 とりあえず散かった服を片付けようと加藤が考えたとき、

「入るわよ」

 ノックの音と共に麻紀がドアを開けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ