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空の妖精  作者: 道豚
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テニス部合宿3


 北添に宥められ、樫内に支えられて博美は大浴場に来た。そして今、北添から貰った飴玉を舐めながら、樫内と並んで湯船の中から洗い場に居る上級生達を見ていた。

「(……みんな大きい……)」

 流石は年上だ。皆C以上はあるだろう。特に北添などはE程度はあるかもしれない。

「…………」

 ふと博美は隣の樫内を見た。

「…………」

 樫内も博美を見ている。

「な、なに? 樫内さん」

「秋本さんこそ……」

 二人の視線が下を向く。

「はあ……あんなになるかな?」

「ふう……あそこまで育つかしら?」

 二人とも胸はお湯に浮かず、しっかりと形を保っていた。




「なに、なに? 二人とも暗いわねー」

 北添が湯船に入ってきた。

「それにしても、秋本さんって白いわねー お腹なんて透き通ってるみたい」

 ついこの間聞いたようなことを北添が言う。

「そうそう。 なんでそんなに白いのよ。 私だって日焼け止め塗ってるのに」

 浜口も入ってきた。

「ウエストも細っそいじゃない」

 清水が掛け湯をしながらお湯の中を覗く。

「しっかしねー 北添さんの胸って……それどうなってるんですか? 風船? 去年より大きいですよね?」

 北添の胸はぷかりと浮き上がっていた。

「んっ? どうもこうもお風呂に入ったらいつもこうなるんだけど。 あなた達もそうでしょ?」

 首を傾げて北添は清水を見た。清水と浜口の胸も、北添ほどではないが水面から顔を覗かせている。

「…………」

 無言になった博美と樫内の周りにぷかりぷかりと丸い物が浮いていた。




「わー やっぱり秋本さんが入ってたー」

「ほんとHIROMIだー」

 博美と樫内がそろそろ出ようと相談していると、扉が開き裸の少女が5~6人入ってきた。それとなく体を隠したもいれば、あけっぴろげに何処も隠していないもいる。

「み、皆さんも夕飯の前にお風呂?」

 いきなり名前を呼ばれて博美が見ると、さっきまで一緒に練習していた追手前の生徒だった。

「そうそう。 汗かいたから。 そのまま御飯じゃ気持ち悪いもの」

「HIROMIだってそうでしょ」

 生徒達が各々シャワーの下に座った。

「そのHIROMIっていうのは止めてほしいんだけど」

 言いながら博美は生徒達を見た。

「(……大きい……)」

 皆が示し合わせたように髪を洗っている。大きく頭を下げる姿勢ゆえ、重力に引かれて彼女達の胸は大きく見えているのだった。

「…………」

 無言で博美は樫内を見た。

「(……んっ……)」

 樫内も無言で頷き、湯船から出る。博美もそれに続いた。




 脱衣所で博美は自分の胸を拭いている。

「(……だ、大丈夫。 まだまだ大きくなるから。 悲しくなんかないんだから……)」

 ふと博美は横を見た。そこでは樫内が何かを堪えるように唇を噛んでいる。

「樫内さん、大丈夫だから。 きっと大きくなるから…… ねっ」

 心配になった博美がその横顔に声をかけた。

「あ、秋本さん……」

 樫内が博美の方を向くと同時に博美に抱きついた。そのまま博美の肩に頬を押し付ける。

「……大丈夫だって。 ぼ、私も同じくらいだからね。 一緒に育てよう…………って、樫内さん。 なにお尻触ってるの!」

「……んっ? なにって、そりゃそこにお尻があるからよ。 こーんな丸いお尻だもの、でなくちゃ」

 樫内の手が博美のお尻を「むにゅむにゅ」変形させる。

「ちょっと。 止めて! 樫内さん、胸のことで悩んでたんじゃないの?」

「ぜーんぜん。 だって私には篠宮さんがいるもの。 女は胸の大きさじゃないわ」

「それじゃ、さっき我慢してたのは?」

「もちろん秋本さんに触るのを我慢してたのよ。 でも声をかけられて我慢できなくなっちゃた」

 樫内が博美のお尻を持ち上げ、撫で下ろし、横に開く。

「……ちょ……いや……そこ、触らないで……うん……んんん……やだ……」

 裸の二人の少女が抱き合い、一人が熱い吐息を漏らす。

「あらー 二人で何してるの? ここは公共の場だから、止めた方がいいわよ」

 浴室との間の扉が開き、北添が上がってきた。

「はーい。 それじゃ部屋でします」

 樫内があっさりと博美から離れる。

「……部屋でするのも嫌」

 力の抜けた博美が床に座り込んだ。




 一旦部屋に戻り、身だしなみを整えると博美達はレストランに向かった。

「あっ! 康煕くん、お待たせー 早かったんだね」

 レストランの前には男子達が所在無げに立っている。風呂上がりのいい匂いを漂わせ、博美が加藤に駆け寄った。

「い、いや、ついさっき来たとこだ」

 加藤は壁に寄りかかり、腕を組んでいる。

「いいわねー 恋人同士、待ち合わせのテンプレね」

 北添がその後ろから近寄ってきた。

「北添さん。 テンプレはいいから、早く入ろうぜ」

 キャプテンがレストランの自動ドアの前に立った。




「いただきまーーす」

 博美の目の前にボリューム満点の料理が並んでいる。昼食のときと違って、セルフサービスでテーブルに運んできたのだ。今日のメニューは、メンチカツ、サラダ、さしみ、魚の煮物、御飯と味噌汁だった。

「ねえねえ、康煕くん。 美味しそうだねー」

 お椀の蓋を外しながら博美は隣に座っている加藤に言った。

「でも、僕にはちょっと多すぎるかな?」

「食べられない分は俺が食べてやるよ。 どうせそのつもりなんだろ」

 御飯をつぎながら加藤が答える。

「うん♪ もっちろん。 お願いね」

 ずずっ、と博美が味噌汁を啜った。




 食事が終わって、高専テニス部はそのままレストランを借りて簡単なミーティングをした。

「それじゃ、ロックするわね」

 最後に部屋に帰ってきた北添がドアに鍵を掛け、部屋を見渡した。10畳の部屋に5人なので、割と余裕を持って布団が敷いてある。

「北添さん。 お先に布団を決めちゃいましたけど、良かったでしょうか」

 浜口が尋ねる。

「んっ、別にいいわよ。 えっと、向こうの端は秋本さんかしら。」

 樫内、清水、浜口はそれぞれ布団の上に座っているが、入り口から一番遠い布団で少女が一人タオルケットを着て寝ている。

「そうでーっす。 彼女、部屋に戻るなり「疲れたー」って布団に寝転んだんです。 私達が歯磨きしたりしてる間に寝ちゃってました」

 可愛いですよね、と清水が話す。

「そう。 でもそれじゃ秋本さんは歯磨きしてないんじゃないの? 虫歯になるわよ」

 起こしてあげましょ、と北添が博美の所まで行き、

「秋本さん、起きて。 起きて……」

 博美の肩を揺する。

「……ん、うん……えっ!」

 暫く揺すっていると、博美が体を起こした。眩しいのか、目を「ぱちぱち」させている。

「秋本さん、目が覚めた? 寝るのはいいけど、歯磨きして寝なさい」

「はーい。 おかあさん」

 言われるままに立ち上がり、博美は洗面所に歩き出した。

「……おかあさん?……」

 北添が博美の布団の傍に座ったまま「ぽかん」とする。

「……う、ぷ……ぷぷ……あーははは。 おかあさんだって……ぷ、北添さんがおかあさん……」

「……やだー……あれって寝ぼけてるの?」

「……き、き、き・たぞえ、さん……お・かあさ・ん……」

 それを見ていた三人が笑い出した。

「な、なによ。 みんな笑ってー」

 北添の頬はみるみる赤く染まり、

「私がそんなに老けて見えるっていうの?」

 ぷー、と膨らんだ。




 小鳥の鳴き声を聞きながら、博美はまどろんでいた。

「(……知らない天井だ。 なんちゃて、これこの間やったよな……)」

 ぼんやりと見上げる天井は見慣れない壁紙が張ってある。

「(……合宿に来てるんだよな。 変だな? 夕べおかあさんが居た様なんだけど……って、誰か触ってる!)」

 下腹部に動きを感じて慌てて横を見ると、樫内がぴったりとくっついて寝ていた。

「ちょ、ちょっと樫内さん。 変なとこ触らないで。 離れて!」

 博美が樫内の手を押さえ、もう一方の手で押しのけようとする。

「……うふふふ。 篠宮さん、いつものように、ね……」

 長くテニスをしているだけあって樫内の腕力は博美のそれを軽く上回り、妨害にも負けず博美の股間に手が届いた。

「いやー! 止めてー!」

 その手がゆっくりと上下に動き始めるが、

「……無い……」

 ぴたりと止まり樫内の目が開く。

「篠宮さんが女の子になっちゃったー!」

 樫内の大声のお陰で、テニス部女子は全員集合時間に間に合うこととなった。




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