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空の妖精  作者: 道豚
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揉んでもらうと大きくなる?


 夏の昼下がり、外は太陽がさんさんと降り注ぎ、セミの鳴き声で話も出来ないほどだ。しかし小さな窓しかない図書館の中は快適な温度に保たれ、静寂が支配していた。

「(……左辺を右辺で割って……えっと、定数はどうするんだっけ?)」

 博美は隣でノートを開いている加藤を横目で伺う。

「(……ううん、だめだめ。 もう少し自分で考えなきゃ……)」

 日本選手権が終わり、日常が帰ってきて3週間。高専は期末試験に入っていて、二人は中間試験の時と同じ様に並んで勉強をしているのだ。

「(……風がこう吹いてたら……ラダーを切って……エレベーターをえいっ!って……)って痛ーい」

 シャープペンを横に持って動かしていた博美は、頭頂部に加わった突然の衝撃に悲鳴を上げた。

「ばか、何やってんだ。 今日のドイツ語、失敗したんだろ。 明日も失敗する気か?」

 加藤が手を博美の頭から下ろしながら叱る。

「ちゃんと勉強してるじゃない」

 涙目で博美が睨んだ。

「ラジコンの事は忘れろよ。 どうせ宙返りのやり方でも考えてたんだろ?」

「そ、そ、そんな事無いよ。 ちゃんと数学をしてるんだからー」

 博美がノートを加藤に見せた。

「ホントかー 今、左の親指が動いてたぜ。 それにさっきから問題が進んでないじゃないか?」

「だ、だってー 分かんないんだもん」

 博美の頬が「ぷっ」っと膨らむ。

「だったら聞けよ。 その為に一緒に居るんだろうが。 遠慮するな」

 まったく、と加藤が溜息を吐いた。





 図書館からの帰り道、二人は急ぎ足で歩いていた。

「康煕君、早いよ」

 博美が横を歩く加藤の袖を掴む。

「仕方が無いだろ。 晩御飯が食べられなくなるぜ」

 少しでも長く二人で勉強しようとしていた所為で、寮の夕飯時間ぎりぎりになったのだ。

「午後7時までなんて、早すぎるよね。 図書館も7時まで開いてるんだから、せめてあと30分在ればいいのに」

 掴んだ袖に引かれながら博美が愚痴る。

「試験期間中だけでもそうなればいいな。 まあ、試験が終われば試験休み、続けて夏休みだ。 博美は夏休みには如何するんだ? ラジコン三昧か? おまえの頭の中は飛行機のことばかりだもんな」

 さっきもな、と加藤が口角を上げた。

「ひどーい。 僕だって飛行機とは違うことも考えてるよー このっ!」

 博美が加藤の脇腹を狙って指を突き出す。

「おっとー そういつもいつもやられないぜ」

 加藤が体を捻ってかわした。

「避けるなー」

「勝手なこと言うなよ。 痛いんだぜ、それ」

 加藤が鼻から息を吐く。

「んで、夏休みはどうするんだって?」

 改めて加藤が聞いた。

「バイトしたいなって思ってるんだけど」

 どうかな、と博美が首を傾げる。

「バイトする暇ってあるんか? お盆が過ぎたらテニス部の合宿だぜ。 ところでお盆って言えば博美の田舎ってどこだ?」

「大栃って所。 分かる? 凄い山の中だよ。 お爺ちゃんとお婆ちゃんが住んでる。 優しいんだー」

 ふにゃ、と博美が笑った。

「大栃かー 分かるぜ。 物部川の上流だろ。 それは秋本家か?」

 通用門を抜けた所で、県道を横切るために加藤が左右を見る。

「ううん、お母さんの実家だよ。 竹平たけひらって言うんだ」

 同じように博美が左右を確かめた。

「OK、渡ろうぜ。 んで、行くんか?」

 右から来た軽自動車が空港のほうに曲がるのを見て加藤が横断歩道を渡り始める。

「うん。 休みになったらすぐに行くよ。 よさこい祭りは見に行けないんだ。 毎年そうなんだよ」

 加藤に続いて博美も渡り始めた。渡り終えるともう寮の通用門だ。

「えーっと、何時かな?」

 博美が携帯電話を取り出す。

「6時50分だよ。 間に合ったねー」

 加藤を見上げて博美がニッコリした。




「合宿はお盆が終わって一週間後だったわよ」

 何故か博美と加藤が夕御飯を食べているテーブルに樫内が居た。

「ああ、合宿中は崇さんに会えないんだわー 私耐えられるかしら……」

 胸の前で指を組み、樫内が目を閉じる。

「ねえねえ、夏休みが始まっても会うつもりなの?」

 樫内の言い方は、まるで毎日会うように聞こえる。

「勿論よ。 ま・い・に・ち・会いに行くわ。 もうお家に泊まりこんでもいいわ」 

 目を閉じたまま、樫内が「毎日」を強調する。

「ちょ、ちょっとそれはやり過ぎなんじゃ……」

 博美が樫内から距離をとった。

「やだー 秋本さんったら、やりすぎなんてー まだ胸に触ってもらっただけよ。 最後までやってないからー」

 まだ清い体よ、と樫内が胸をはる。

「か、樫内さん。 そんなこと大声で言っちゃ駄目だよ」

 慌てる博美の目線が樫内の胸で止まった。

「……って、樫内さん? 胸大きくなってない? ひょっとしてまたパッド?」

「んふふふー 分かっちゃった? 大きくなったのよー Bよ。 パッドは入れてないわよ」

 追いついたわよ、と樫内が口角を上げる。

「えっ? 大きくなったの? ねえねえ、どうやったの。 何をしたら大きくなるの?」

 博美が距離を詰めた。

「騒がない、騒がない。 うふふ。 見つけたのよー いい方法を」

 聞きたい? と樫内が加藤を横目で見て怪しく微笑む。

「い、いや。 俺は別に……」

 空気となっていた加藤が慌てた。

「聞きたーい。 ねえねえ教えてよ」

 博美が箸を握り締める。

「それはねー ずばり、胸を揉んでもらうのよ。 彼氏にね。 気持ちいいわよー」

 樫内がうっとりと目を細めた。

「ちょっ! おい」

 加藤が慌てて中腰になる。が、袖を引かれて固まった。

「………………」

 加藤が見下ろす。

「………………」

 そこには頬をピンクに染め目をキラキラさせて加藤を見上げている博美がいた。




「テニスの大会は合宿が終わった後に合宿してた所であるわよ」

 食後のお茶を飲みながら樫内が加藤に答えた。そろそろ大会があるんじゃないか、と加藤が尋ねたのだ。

「それって新人戦か? 俺達一年生は始めてだよな。 って、博美。 いい加減離れたらどうだ?」

 加藤は腕にしがみ付く博美を剥がそうと苦労している。

「それは新人戦じゃ無いわ。 新人戦は10月にあるの。 秋本さん、もう夕御飯の時間は終わるわよ。 あなた残してるじゃない」

 胸を大きくする方法を聞いてから、博美の箸は動いていなかった。

「ううん。 もう要らない。 んねえ~、康煕く~~ん」

 加藤の腕に胸を押し付けて博美が甘えた声を出す。

「だ、駄目だぞ。 そんなこと……俺の理性がもたねえ。 樫内さん、何てこと博美に教えるんだよ」

 博美の顔を見ないように加藤は正面を向いている。

「あらー ほんとの事よ。 篠宮さんはしてくれるもの」

 ニッコリと樫内が笑う。

「凄いな。 はがねの理性だな、篠宮さんは……」

「そうかしら。 あそこ大きくなるわよ。 だからいつも手でして上げてるの。 あれって暖かいわよね」

 加藤は項垂れてしまった。




 自習時間に博美は自室の机に向かって明日の試験の為に勉強をしていた。部屋の反対側では永山も勉強中だ。いつもならお喋りに興じるところだが、さすがに二人黙ってペンを走らせている。と、そこにチャイムの音が聞こえてきた。

「……うーーん。 裕子ちゃん、休憩時間だよ。 点呼に出なきゃ」

 9時からの休憩時間に当直教員の点呼があるので、部屋から出なければならない。

「うん。 分かった」

 二人はドアを開け、廊下に出る。博美たちの部屋の両側にも女生徒が出てきて並んだ。

「205号室。 秋本、永山、異常ありません」

「はいOKですね」

 当直の女性教員に報告をすれば、9時30分までは自由時間だ。二人は部屋に入った。

「ねえ、今日は何飲む?」

 博美が永山に尋ねる。

「そうねー ミルクティーがいいわ。 頭を働かせたいから甘いのがいいよね」

 何時のころからか、二人は休憩時間に暖かい飲み物を飲むようになっていた。

「んっ。 じゃ行ってくるね」

 博美が小さなヤカンを持って補食室に行く。永山はカップと紅茶のパックを出した。




「ねえ、裕子ちゃんの胸って彼氏に揉んでもらったの?」

「ぶっ!……ちょっと、いきなり何てこと言うのよ」

 ティーカップを傾ける永山の胸を見て博美が言った言葉に、永山が紅茶を噴出しそうになった。

「今日ね、揉んでもらうと大きくなるって聞いたの」

 博美が自分で胸を押さえてみせる。ブラを外している所為で、容易に膨らみは形を変えた。

「誰が言ったのよ。 それってガセよ。 証明されてないはずよ。 だって私、彼氏居た事ないもの」

 彼氏が居る人はいいよね、と永山が口を尖らせる。

「そうなの? 樫内さんが言ってたんだけど、彼女大きくなったって」

 博美が首を傾げる。

「それはねー 多分彼氏が出来たからよ。 好きな人によく見てもらいたい気持ちがホルモンバランスを変えて、胸を大きくするのよ。 テレビか本で見たことあるわ」

 私のは違うわよ、と永山が付け足す。

「そうなのかなー それじゃ康煕君に揉んでもらっても駄目なのかな?」

 溜息混じりに博美が言う。

「でも実験してもいいよね」

「ちょっと、博美ちゃん。 そんなこと男にさせたら……最後までいっちゃうかもよ。 いいの?」

 永山が博美の肩を抑える。

「うーーん……分かんない。 ねえ、最後まで行っちゃうと……痛いのかな? 赤ちゃん出来るかな?」

 博美は思案顔だ。

「博美ちゃん。 分からないうちは止めときなさい。 慌てること無いわよ」

 ね、と永山が微笑んだ。




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