康煕君のエッチ
博美と加藤は二人並んで波打ち際にいた。冷たい波が火照った体を冷ましてくれるようだ。ぐるりと堤防で囲まれているお陰で、高い波は打ち寄せてこない。
「あー 暑かったねー あの二人の周りは熱帯だよね」
手を波の中に入れて博美が加藤を振り仰いだ。
「ああ。 周りがピンクに見えてるぜ……」
加藤は水に入るための準備運動として体を捻りながら後ろを見た。そこには博美たちのシートの上でべったりと寄り添って「いちゃいちゃ」している樫内と篠宮が居る。
「ああいうのを「リア充」っていうんだよね?」
自分たちの事を棚に上げて博美が言う。
「多分な。 見てるこっちが恥ずかしくなる……」
加藤にも自分たちが他人からどう見えるか分からないらしい。
「まあ、あの二人は置いといて、それじゃ泳ごうか? 泳げるよな?」
加藤が波の中にゆっくり歩を進めた。
「泳げるって言ったじゃない。 心配しなくて大丈夫」
博美も直ぐに後を追う。高い波が入ってこない所為か遠浅の砂浜は10mほど行ってもまだ胸程度の深さだった。博美は砂底を蹴りゆっくりとしたクロールで加藤の横を追い抜いていった。
「おっ! 上手いじゃないか……」
加藤も泳ぎ始める。
「(康煕君って、どんな泳ぎ方なんだろ?)」
後ろから迫ってくる水音を聞いてクロールを止め、博美は立ち泳ぎをしながら後ろを見た。既に背は立たなくなっている。
「(うわっ! すごい迫力…… 効率悪そう)」
長い腕をいっぱいに伸ばしたクロールは水しぶきを盛大に上げ迫力がある。
「康煕君、効率悪そうだね。 そんなんじゃすぐに疲れるよ」
すぐ側で立ち泳ぎを始めた加藤に博美が言った。
「大丈夫だ。 俺はこれで何キロも泳げるからな」
加藤は「にやり」と笑う。
「おまえこそその体格じゃ、たいして泳げないだろ?」
「むー! そんな事無い。 僕だって何キロも泳げるよ」
体の事を言われて博美の闘争心に火が点いた。
「それじゃ競争するか? 向こうの堤防とこっちの堤防の間を何往復出来るかでどうだ」
「よし、受けて立つよ。 負けたらお昼ご飯奢りね」
言うが早いか、博美は堤防に向けてクロールを始める。
「あっ! ずるいぞ」
一瞬遅れて加藤も博美を追った。
綺麗なフォームで泳ぐ博美の後を水しぶきを上げて加藤が追いかける。すでに1往復していて、2往復目なのだが、加藤は博美に追いつけないでいた。
「(くそう…… 以外と早いんだな…… 疲れてきたぜ)」
追いつこうと力んで泳いでいる所為で、加藤は腕が重くなってきていた。
「(体力はあるよなー あんな泳ぎ方でまだ付いてくるんだから…… っん? 離れていく?)」
先ほどまですぐ後ろから聞こえていた水しぶきの音が、なんだか小さくなったようだ。不審に思って博美は立ち泳ぎをして後ろを見た。
「康煕くーん。 やめるの? 僕の勝ちだね!」
加藤は砂浜の方に向かっていた。
「ああ! おまえの勝ちだよ! ちくしょう……」
足の立つ所に来て、加藤が大声で負けを認めた。
「やっほー やったー 遂に勝てた! バンザーイ! っつ… いっ… (痛い! 足が…)」
立ち泳ぎをしたまま両手を上げて大喜びをする博美が、急に沈んでいった。しっかり準備運動をしなかった所為か、足を攣ったのだ。
「おーい、ひろみー どうした? (ちょ… ヤバくないか?)」
それを見て加藤が海に飛び込む。
「(おいおい。 シャレにならないぜ…… ちくしょう、腕が重い! くそっ)」
疲れた腕をがむしゃらに回し、加藤は博美の沈んだ場所に急いだ。
「(どこだ? どこに居る…… い、居た!)」
博美は海面すれすれの深さに片足を抱いて沈んでいた。苦しそうに顔をしかめている。加藤は一度潜り、博美を下から支えて浮かび上がった。
「おい! 大丈夫か?」
博美の脇の下に肩を入れ、腰を支えて加藤が立ち泳ぎをする。
「ふはっ、はっ、ふう…… あり・がとう康・煕くん。 足・を攣っ・ちゃった……」
沈んでいる間息を止めていた博美は新鮮な空気を求めて喘いだ。
「なんにしても、すぐ見つかってよかった……」
加藤はゆっくり海岸を目指して泳ぎだした。
「(くそっ…… 足まで疲れてきやがった…… 気張れよ俺! ちくしょう)」
さっきまでの競争で、さすがに加藤の体力も消耗している。だんだん加藤の体が沈みだした。
「康煕くん。 大丈夫なの? 沈んできたよ ……って、イヤーー!」
博美が加藤の様子に気がついて声をかけた途端、加藤が完全に海の中に沈んでしまった。
「康煕くん! 離して。 僕を支えてたら康煕くんが溺れちゃうよー ダメだって!」
加藤の腕から抜け出そうと、博美は体を捩った。
「離してってば! っえ? ええー?」
いきなり博美の体が水面の上に持ち上がる。加藤が重量挙げのように博美を差し上げたのだ。博美の重量により加藤は完全に沈み、海底を歩き出した。
「そんな…… 海の中を歩くなんて……」
浅くなるにつれ、腕が見え、頭が見え、目が海面から現れ、そして口が出てきた。
「すー、はー、ふう…… よっし、たどり着いたぜ……」
焦った様子もなく、加藤が深呼吸をする。差し上げていた博美を肩の高さまで下ろすと、加藤は膝の裏と背中を支えた。例によってお姫様抱っこだ。
「康煕くん…… よかった、溺れたんじゃなかったんだ。 よかった…… 死んじゃうかと思った……」
博美が加藤の首にしがみ付く。お姫様抱っこの完成形になった。
「俺が簡単に死ぬかよ。 それよりお前は大丈夫か? 水を飲んでないよな」
波打ち際まで上がり、加藤が優しく博美を砂浜に下ろした。
「僕は大丈夫。 ごめんなさい、僕が溺れなかったら康煕くんが危ない目に合わなかったのに…… ごめんなさい。 うっ…ううっ…わーーーん……ご…ごめん…な…さい……」
降ろされても博美は加藤の首を離さず、加藤の胸に顔を埋めて泣き出した。
「気にするな。 おまえになんかあったら、俺は俺を許せない。 おまえのためなら俺はなんだってしてやる」
疲れた加藤は砂浜に横になった。自然と博美が加藤の上に乗る。
「いやだ、いやだ。 康煕…くんが…いなくなっちゃい…やだ。 いやだ…いやだ……」
「俺は何処にも行かないぜ。 博美を一人にはしないから安心しな」
加藤はやさしく博美の背中を撫ぜた。
二人重なったままどれぐらい経っただろう、博美は落ち着いて周りが見えるようになった。
「(え! えっとー どうなってるの?)」
落ち着いてみると、加藤の上に覆いかぶさるという、かなり恥ずかしい格好をしている。
「こ、康煕くん。 離して…」
博美は加藤の返事も聞かず、体を起こした。博美のブラがふわりと落ちる。背中を撫ぜていた加藤の指が水着の紐に絡んでいたのだ。ついこの間Bになった博美の膨らみがぷるぷると揺れた。まだ質量が無いので「ぶるん」ではなく、ましてや「たゆん」とは揺れない。
「…………」
馬乗りになった博美は無言で加藤を見下ろす。
「…………」
加藤は黙って横を向いた。その頬は日に焼けた以上に真っ赤になっている。
「…………」
落ち着いて博美はブラの紐を首の後ろで結んだ。
「……ふう……(あーー! びっくりしたー でも康煕君ってやっぱり紳士だね。 ガン見しないもの)」
加藤の胸に手を置いて博美は安堵の溜息をついた。
「(んっ? なにこれ)」
博美のお尻に固い棒のような物が当たってる。後ろに手を回して博美はそれを確かめた。
「(……これ、ひょっとして……)」
初めて触るので確信は持てないが、それの有る場所に覚えがある。
「わ、わぁーーーーーーー! 康煕君のエッチー」
「パーン」と海水浴場に炸裂音が響き渡った。
「暑いね」
「ああ、暑いな」
頬に紅葉を作った加藤に肩を貸りて博美がレジャーシートに戻ってみると、樫内と篠宮はまだ「いちゃいちゃ」していた。二人の仲はさらに進んだようで、博美は映画のベッドシーンを見ている気持ちだった。攣った足に違和感があるので、ラブシーンを繰り広げている二人の側に座っているが、二人から放射される熱線は真夏の太陽を遥かに凌駕していて博美は汗びっしょりになっていた。
「そら、冷たいぜ」
横目で樫内達を見ていた博美に加藤が麦茶の入ったコップを差し出した。
「あ! ありがと。 えーっと、ごめんね?」
コップを受け取りながら博美が加藤の頬にある真っ赤な紅葉を見た。
「なんで疑問形? いや、別にいいぜ。 俺も悪かったからな」
頬を気にしながら苦笑を返し、加藤は博美の横に座った。
「ほんと、ごめんね。 男の人って仕方がないんだよね」
「い、いやまあ…… なんか詳しいな……」
「え、えっとー ……まあいいじゃない……」
中学校まで男子の中で過ごしていたため、周りからそういう話を聞いていたのだ。その頃は博美も何時かは自分もそうなるものだと思っていた。
「(まさか自分が女だったなんてね…… おかげで変に男の知識があるんだよな…… 普通の女の子はこんなこと知らないのかな?)」
「ま、知ってることは悪いことじゃないぜ。 でも次からはいきなりの攻撃はやめてくれよ」
考え込んでしまった博美を見て、加藤がすまなそうに言った。
「うん。 さっきはびっくりしたから手が出たんだ。 次からは大丈夫だよ」
たぶんだけど、と博美が自信なげな返事を返した。
「(…この位だったかな…)」
博美が親指と人差し指で輪を作る。
「(…もっと大きかったかも…)」
親指と人差し指の間を空ける。
「(…これって、手首より大きいんじゃない?)」
右手の親指と人差し指を左の手首に巻きつける。
「なにやってるの?」
樫内が横から覗き込んできた。二人は今、波打ち際に来ていた。
「んっ? さっき触ったのがこんな大きさだったかなー って」
博美が今作った輪を樫内に見せる。
「これ何の大きさ?」
樫内が博美の真似をして輪を作った。
「これはね、康煕く……(まてまてまてまて。 あそこの大きさだなんて言ったら不味いよね…)」
すんでのところで博美は気がついた。
「加藤くんの?」
樫内が首を傾げた。
「えっと…… な、なんでもない。 なんとなく、なんとなくね……」
しどろもどろに博美が誤魔化そうとする。
「ふうん。 加藤くんのって、こんな大きさなんだ。 大きいね」
そんな博美に樫内は平然としている。
「ど、ど、ど、どうして……(いや、これはきっと誘導尋問だ。 騙されないぞ)」
「だって、男の人でこのぐらいの大きさの物なんて言ったらー あそこしかないじゃない?」
あたふたする博美に樫内は不思議そうな顔をする。
「やだやだー 自分から触ったんじゃないよ。 当たっちゃっただけなんだから」
完全にばれたのを知って博美は顔を隠した。
「でも興味あるんでしょ? ちなみに篠宮さんのはこのぐらい…」
樫内が自分の指で輪を作って見せた。
「…………」
指の隙間から博美はそれを見ていた。




