触ってもいいよ
「さーて、もう直ぐ来るはずだがな…… って、なんでおまえまで居るんだ?」
加藤は家の前に立っていて、横には麻由美が居る。
「だって、HIROMIが見られるんだよ。 こんなチャンス逃せないわ」
麻由美はつま先だって道の向こうを見ている。
「あのな。 博美はモデルじゃないぜ」
加藤は呆れ顔だ。
「いいの、いいの。 友達に自慢出来るんだから。 っあ! あれじゃない?」
麻由美の指差す先に小さくスクーターが見える。遠目でよくは見えないが、乗っているのは女性のようだ。どうやら肩を出しているように見える。
「俺も博美のスクーターを見たことは無いんだが、どうやらそうみたいだな」
やがてはっきりと見えてきたスクーターに加藤は手を振ってみた。すると直ぐに手を振り帰してくる。
「当たりだね」
それを見て麻由美が拍手をした。
やがてスクーターは加藤の目の前で止まった。タンクトップとショートパンツの女性がヘルメットを取る。
「加藤君、おっはよー 待ってたの?」
手櫛で乱れた髪を直しながら博美が元気に言った。
「秋本さん、おはようございます。 わー すごい、すごい。 今日も綺麗ですねー それに綺麗な脚ー!」
久しぶりに見るHIROMIに、麻由美は大興奮。
「ねえ、ねえ。 写真撮ってもいいですか? いいですよね!」
博美の返事も聞かずにスマホを出すと写真を撮り始めた。
「ばかっ! 勝手に撮るんじゃない」
加藤の拳が麻由美の頭を打つ。
「痛ったーー お兄ちゃん、なにするのよ!」
頭をおさえながら、麻由美は加藤を下から睨みつけた。
「まあまあ、二人とも喧嘩しないで…… それに写真ぐらいいいから。 でもあまり人に見せないでよ」
目の前で始まった兄弟喧嘩に博美は慌てた。
「まあ博美がいいって言うんならいいけど…… しかしおまえ、肩とか脚とか随分出てるな。 恥ずかしくないのか?」
まだスクーターに跨ったままの博美を見て加藤はため息をついた。見下ろしている加藤からは剥き出しの肩や太股が見える。
「あ、暑いんだからいいじゃない。 そんなにじろじろ見られたら恥ずかしくなってくるけど……」
加藤の視線を受けた太股が暑くなってくるようだ。
「もう! そんなに見ないでよ。 すけべなんだから」
ほんのり赤くなった太股を博美が手で隠した。
「あっ、悪い。 って、痛ってー」
謝る加藤が悲鳴を上げた。
「お兄ちゃん。 えっち!」
横から麻由美がわき腹を抓ったのだった。
加藤の自転車の後ろを博美のスクーターが付いていく。ここは高専の横を流れる川を渡る橋の上だ。
「ねえ康煕君。 そんなに漕いで大丈夫?」
スクーターの速度計は時速20kmを指していた。
「んっ、大丈夫だ。 これぐらいなら何とかなる」
若干息を弾ませて加藤は答える。
「なら良いけど…… まだ7キロぐらいあるよ。 大丈夫?」
ここまで既に6km走ってきた。シャツが汗で背中に張り付いているのが後ろからは見える。
「(背中の筋肉が凄い…… 贅肉が無いのは触って知ってるけど……)」
知らず知らずに博美は加藤の背中に見とれていた。
「博美! さすがに暑いぜ。 悪い、水をくれないか?」
「っつ…… う、うん。 ちょっと待って (び、びっくりしたー)」
ワンタッチで口の開く水筒をスクーターの前かごから取り出し、博美は加速して加藤に並んだ。
「はい。 持ってきたけど、走りながら飲めるの?」
口を開けた水筒を博美は加藤に手渡す。
「サンキュー 大丈夫、大丈夫」
右手で水筒を受け取ると、加藤はミネラルウォーターを口に流し込んだ。
「ふー 生き返る。 ありがとな。 さあて、もう一っ走りだ。 行くぜー」
にっこり笑って水筒を博美に返すと加藤はペダルに力を込めた。
「(うふふ…… えへへ……)」
博美は加藤の手助けをすることに幸せを感じていた。
加藤の家を出て50分、二人は海水浴場に着いた。梅雨真っ只中とは思えない青空の下、白い砂が輝いている。博美は堤防の上に立ち、海に向かって突き出した2本の堤防に囲まれた海岸を見下ろした。
「ひろーい! 人が少ないねー こんなにいい天気なのに」
500m程ある砂浜にはポツリポツリと人が居るだけで、場所取りに気を使う事もなさそうだ。
「それじゃ行くか?」
バッグを肩から提げ、加藤が階段を下りていった。
「あん。 待ってよ」
博美は慌てて追いかける。
「えへへ…… いいでしょ?」
そして砂浜に降り立った加藤に追いつくと手を握った。
「っう! あ、ああ」
加藤は前を向いたまま手を握り返した。
二人は波打ち際から20m程度離れた場所にレジャーシートを敷いた。風で飛ばないように四隅に荷物を置く。
「日陰が作れないから暑いね」
博美がシートに座って「ふー」と息を吐いた。海開き前で店が開いてなく、パラソルが借りられなかったのだ。
「確かに暑いな。 なあ、おまえ日焼け止めは塗っているか?」
加藤も隣に座った。
「うん。 家で塗ってきたよ。 もしかしてー 康煕君、僕に塗りたいの? やっぱりすけべだね」
博美が加藤の顔を覗き込んだ。
「ばか。 おまえの体なんて……」
加藤の視線が博美に注がれる。
「(っん…… 細いよな…… でもヒップはドーン、ってなかんじで……)」
「ねえ…… 何処見てるの?」
加藤の視線を博美は避けようとはしない。
「いいよ… 康煕君なら、触ってもいいよ」
博美はゆっくりとタンクトップを捲り上げ、頭から抜いた。レインボーカラーのビキニトップが露になる。
「お、おまえ… 本当にいいのか? 俺は男だぜ…」
始めて見る博美の胸に、加藤は息を呑んだ。その前で博美はショートパンツも脚から抜き去る。
「康煕君だから…… 僕をだいじにしてくれるって言ってくれたから……」
頬を染めた博美がシートにうつ伏せになった。
「おねがい、塗って……」
博美は手を後ろに回してブラを外した。普段日に当たらない背中は雪のように白かった。
「(んっ…… なんて綺麗なんだ…… 誰にも触らせてないんだよな……)」
気押されたように加藤は手が出せない。
「ねえ、恥ずかしいんだから…… 早くして…(って、なんか恥ずかしいこと言ったんじゃない?)」
自分の言葉に恥ずかしくなった博美は、更に赤くなった顔を手で隠した。
駐車場に軽のスポーツカーが入ってくる。車は何かを探すようにあちこちと回って、堤防の近くに止まった。男女二人が下りてくる。
「やっぱり居たー これ秋本さんのスクーターだわ」
樫内が後ろを振り向いた。
「ああ。 そうだね。 直海ちゃんの勘が当たったって事だね」
トランクから荷物を出しながら篠宮が答えた。
「さあて。 何処に居るかな? きっとあの二人「いちゃいちゃ」してるわよ」
砂浜に下りる階段の上に立ち、樫内が海水浴場を見渡す。
「以外に広いわねー ……っと… あれかな? 男の人が誰かの背中を擦ってる… ひょっとして!」
突然樫内は階段を駆け下り、砂浜を走り出した。
加藤の手が博美の背中をゆっくりと上下に往復する。博美はその優しい刺激にうっとりとしていた。
「っん… ふっん… …… んっ? 康煕君?……」
不意に加藤の手が離れた。博美は不審に思い目を開ける。
「えっ! 康煕君…」
見ると加藤が青い顔をして仰け反っていた。よく見ると首に細い腕が巻きつき、Tシャツの襟を引き絞っている。
「樫内さん! 何時来たの?」
博美は飛び起きると加藤に隠れて見えない人間に声を掛けた。襟を使って首を絞める技が得意な人間を博美は一人しか知らない。
「秋本さん、おはよう。 たった今来たところよ。 そしたらこいつが不埒な事してるじゃない。 これは許せないと思ってね」
加藤の後ろから顔をのぞかせ、樫内がにっこり笑った。
「って、秋本さん。 ブラは?」
博美が下を見る。
「わぁーーーー!」
そこにはピンクの「ぽっち」を天辺に乗せた二つの膨らみが太陽に照らされ輝いていた。大慌てで博美はうつ伏せになる。
「ねえ、だれも見てないよね?」
そのまま手を後ろに回し、博美はブラを付けた。
「大丈夫よ。 一番危険な加藤はこの通りだから… で、秋本さんー 綺麗な背中ねー ねえ、私も塗りたいんだけど…… 駄目?」
加藤をその辺に転がし、樫内が「こくっ」と首を傾げた。
「うん? いいよ。 ぼ、私は終わってるから退くね」
博美が立ち上がり、シートから出る。
「う… そうじゃなくて… 秋本さ」
「篠宮さん、おはようございます。 ねえ、樫内さんが日焼け止めを塗って欲しいんだそうですよ」
樫内の言葉を遮って、博美が近づいてきた篠宮に言った。
「え・え・え? 私はそんなつもりじゃ……」
シートに膝をついた姿勢で樫内が篠宮を見上げる。
「…… いいですか?……」
見る見るうちに樫内の顔が紅に染まる。
「いいよ。 日焼けするといけないからね」
冷静に答えるが、篠宮の頬も赤くなっていた。




