表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それゆけ、孫策クン! 改  作者: 青雲あゆむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/17

3.孫堅の葬儀 (地図あり)

初平4年(193年)2月 よう州 郡 曲阿きょくあ


 周瑜とじっくり話し合ってから、家族を連れて曲阿へ旅立った。

 曲阿は呉郡の北端に位置する都市で、今いるじょからは長江をまたぎ、100キロ以上も先にある。

 この時代ではけっこうな距離だが、陸路と水路をつないで、2週間ほどでたどり着いた。


「おお、孫策。よく来たな」

「久しぶりです、叔父おじさん、ほん兄さん。いろいろとありがとうございました」

「いやいや、これしきのこと、孫堅そんけんどのに受けた恩に比べれば、いかほどのこともない」

「ああ、そのとおりだ。それにしても叔父貴は、惜しいことをした。まさにこれからだったというのにな」


 出迎えてくれたのは呉景ごけい孫賁そんほんといって、俺の叔父と従兄弟いとこに当たる。

 呉景は母の弟であり、孫賁は孫堅の兄の息子という関係で、孫堅軍団を支える幹部だった。

 彼らは孫堅に従い、劉表りゅうひょう配下の黄祖こうそと戦っていたのだが、親父が独走の果てに戦死してしまう。


 軍団の旗頭はたがしらを失った呉景らは、やむなく残存兵力をまとめて撤収。

 その後、知人の仲介で孫堅の遺体を取り返し、この曲阿まで運んでくれたのだ。


「叔父さんたちは、これからどうするんですか?」

「うむ、とりあえずは袁術さまのもとへ、戻ろうと思う。今までの縁があるからな」

「そうですか……まあ、軍勢を保つには、そうするしかないですよね」

「……うむ。ところで孫策は、これからどうするつもりだ?」

「……まだ分かりません。父上の喪に服しながら、じっくり考えてみようと思っています」

「そうか……何か力になれそうなことがあれば、遠慮なく言ってくれ」

「はい、ありがとうございます」


 その後、周囲の助けもあって、無事に葬儀を終えることができた。

 そして今後の身の振り方について家族と話したのだが、ここでひと悶着もんちゃくあった。


「兄上! なにゆえに烏程侯うていこうを譲るのですか?!」

「そうですよ、さく。その地位はお父さまが実力で勝ち取った、名誉なものだというのに」


 孫堅が持っていた烏程侯の爵位を弟に譲ると言ったら、次男の孫権そんけんと母にとがめられた。

 烏程侯とは親父が荊州南部の反乱を鎮圧した際、朝廷からたまわった爵位しゃくいである。

 これはこの呉郡にある烏程うていという領地の主になるが、実際に土地を支配するわけではない。

 土地の管理自体は役人がやって、租税の一部をもらうという、年金付きの名誉職みたいなものだ。


 当然、長男の俺が引き継ぐものと思われていたが、それを辞退して弟に継がせたいと言えば、揉めるのも仕方ない。

 しかし俺にも考えがあるし、史実でもやってることなので、根気よく説得を続けた。


「まあまあ、落ち着いて聞いてくれよ。なにも俺は、家名を捨てるってんじゃないんだ。ただし俺はこれから、しばらく旅に出る。世の中を見て回って、いろんな人と知り合うためにだ。だけどその際、爵位はむしろ邪魔になるんじゃないかと思うんだ」


 すると母は不満そうな顔で、猛然と抗議してきた。


「ただでさえ不穏な時勢に、ふらふらと放浪するなぞ、とんでもありません! 私は許しませんよ!」

「しかし母上。このまま家の中に引っこんでいては、何もできませんよ。俺の成長を助けると思って、こころよく送り出してはもらえませんか?」


 俺は彼女の目を正面から見つめながら、その手を握った。

 すると彼女は美しい顔をゆがめて、なおも抗議する。


「べ、別に外へ出なくとも、この地で活動すればよいではありませんか」

「いいえ、母上。ひとつところに留まっていては見えないこともあるし、人脈は広がりません。俺は外へ出る必要があるのです」

「し、しかしその後はどうするのです? あなたが見聞を広めたとして、それをどうかすおつもりですか?」

「……俺はいずれ、袁術さまの元へ赴いて、父上の軍勢を取り戻すつもりです」

「……なんという事を……あなたも戦いにいくと言うのですか?」

「あに、うえ?」


 俺の告白に、母と孫権はしばし言葉を失う。

 しかし母はすぐに立ち直り、さらなる反意を示す。


「ダメですっ! そんなことは許しませんよ! もしあなたまで失ったら、私は、私はどうすれば……」


 まるで俺の戦死が決まったかのように、悲痛な顔で訴えてくる。

 そんな母に、俺も強く訴えた。


「母上! せっかく父上が一代で築き上げた孫家の武名を、このまま消し去ってもよいのですか? 今ならまだ、父上が鍛えた兵も残っています。それを取り戻せば、さらに武功を積むことができるでしょう」

「そんな武名が一体、なんだと言うのですか?! そのためにあの方は、命を落としてしまったのですよ」

「男とはそういう生き物なのです。ひとたび、男児として生まれたからには、武功を挙げて栄達することに、憧憬どうけいを禁じ得ません。父上もそんな生き方に、後悔はしていないはずです」

「……なぜなのです? あの方が亡くなったばかりだというのに、なぜそこまで生き急ぐのですか?」


 涙を流しながら問う母に、俺は断言する。


「それは時代が今、大きく動いているからです。強大だった王朝の統制が乱れ、中原は大きく混乱しています。それを避けようと、多くの人々がこの江東へ来ています。この状況でただ座していれば、混乱の波に飲み込まれる可能性が高い」

「そんなこと、やってみなければ分からないではありませんか……ウウッ」

「……もう待つのは、やめたんですよ。家長となったからには、自分の道は自分で切り開きます」

「この、親不孝者!……」


 その後も抵抗はあったが、俺は自分の意見を押しとおした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


初平4年(193年)5月 じょ州 広陵こうりょう郡 江都こうと


 ハロー、エブリバディ。

 孫策クンだよ。


 なんとか家族の説得に成功した俺は、1ヶ月ほど喪に服してから、曲阿を出た。

 本当は3年くらい喪に服すのが理想らしいが、この乱世にそんなことをしている余裕はない。

 俺は曲阿から北上して長江を渡り、まずは徐州広陵郡の江都に落ち着いた。


 ここで情報を集めながら、人脈を築くつもりだったのだが、あいにくと状況はそれを許してくれない。


「いたぞ、あそこだ~!」

「捕まえて、袋叩きにしろ!」

「逃げんな、クソガキ!」


 俺は今、大勢の男たちに追い回されていた。

 顔を売るために、ちょっと派手に立ち回ったのがいけなかったらしい。

 なんと徐州刺史しし陶謙とうけんが、俺を捕まえようと手勢を送りこんできた。


 別に俺が何か悪さをしたわけじゃないんだが、袁術えんじゅつの配下だと思われたのがまずかった。

 袁術は元々、けい州の南陽なんよう郡を拠点にしていたのだが、最近、曹操に負けて逃げだした。

 その逃げた先が揚州の寿春じゅしゅんで、徐州とは目と鼻の先だ。


 陶謙が警戒を強めるのも当然で、そこへ袁術の配下と見られる俺が、江都へ現れた。

 すわ、袁術が徐州へ侵攻か、と警戒されるのも仕方ないだろう。

 かくして俺は逃げ回ることになったのだが、陶謙のしつこさときたらもう。

 俺が回りそうな場所を厳しく監視して、怪しい奴は次々にしょっぴいてるらしい。


 史実でも孫策は、陶謙に迫害されたという。

 あまりにひどいんで、一緒に連れてきた家族を送り返したほどだったとか。

 それを知ってたんで、家族は残したままだし、江都でも目立たないようにしていた。


 しかしとある酒場で意気投合したおっさんに、孫堅の息子だと漏らしたのがいけなかった。

 またたく間にその噂は広まり、陶謙に察知されてしまう。

 それから1週間もしないうちに、奴の手勢が現れ、俺は町中を逃げ回るはめに陥った。


 しまったなぁ。

 どうやら孫堅おやじの知名度を、見誤っていたらしい。

 全くの無名から、破虜はりょ将軍まで成り上がった男の武名は、想像以上のようだ。


 しかしこれはある意味、孫堅おやじのような英雄への期待感の裏返しじゃなかろうか。

 強大だった後漢王朝も、今は昔。

 弱りきったその統治システムは、あちこちでほころびを見せている。


 そんな状況で民衆は、手ごろな英雄像を求めているのだ。

 ま、都合のいい英雄なんて、そういないけどな。


 それはさておき、中原が混乱してるもんだから、それを避けようと大勢が江南へ逃げてきている。

 この江都もその受け皿のひとつで、難民の中には、張紘ちょうこうなどの優れた人材も含まれていた。

 張紘といえば知性に優れ、後の孫呉そんご政権を支えた逸材である。


 当然ながら俺は、真っ先に彼を探しだして、コンタクトを取った。

 幸いにも、彼にはいたく気に入られ、いろいろと議論を交わすことができている。

 そしてもし俺が旗揚げした暁には、なんらかの形で協力してくれるよう、約束も取りつけた。


 これで最低限の目的を達した俺は、しばし江都を離れることにする。

 史実より早いが、ある人物にツバをつけておくためだ。

 はたして彼は、俺の誘いに乗ってくれるだろうか?

今回は呉郡の曲阿で葬儀をしました。

挿絵(By みてみん)


そして江都は曲阿から北上し、河を渡ってちょい西の辺りです。


地図データの提供元は”もっと知りたい! 三国志”さま。

 https://three-kingdoms.net/

ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劉備ファンの方は、こちらもどうぞ。

逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~

白帝城で果てた劉備が蘇り、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ