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2.給仕の少女。

そこそこ頑張って更新します(*‘ω‘ *)








「ここが、ボクの部屋かぁ……」



 与えられた部屋を見回して、ボクは思わずそう感嘆の声を漏らす。

 連日のように下宿させてもらっていたギアさんの家とは、申し訳ないけれど桁が違った。この一部屋だけで彼の家くらいあるのでは、と思わされる。

 だから、妙に落ち着かず……。



「うぅ、どうしてこんな隅っこに……?」



 自分でも馬鹿だと感じるほど、荷物を部屋の端に集めて体育座りをしてしまっていた。両親が蒸発してしまって以降、このような場所にくる機会はなかったのだ。

 いや、仮に家の借金がなくても、同じかもしれない。

 とかくこの部屋は、ボクにとって分不相応に広いように思われたのだった。

 そうして、ドアから向かって右手に陣取ってくつろいでいると。何やら、それをノックする音が聞こえてきた。



「はい? どうぞ」

「失礼します、イソン様。アタシはこの屋敷のメイドで――って、あれ?」

「どうしました?」

「いえ、何故そのように縮こまって……?」

「落ち着くので」

「…………」



 返事をすると、中に入ってきたのは獣人の少女。

 栗色の髪に赤の瞳をした彼女は、自分の部屋の中でパーソナルスペースを作り出したボクを不思議そうに見ていた。メイド服のロングスカートの裾を持って挨拶しようとしていたらしいが、完全に面食らってしまっている。

 しかしながら、このくらいの感覚が落ち着くのも本音だった。

 なので、キョトンとする少女に咳払いを一つ訊ねる。




「キミの名前は?」

「……え、あ! そうでした!」




 明らかに珍獣を見るようだった彼女は、ようやくハッとして一礼した。

 そして、こう名乗る。




「アタシはイソン様にお仕えする専属給仕、ニャーラと申します」――と。









「それで、こちらを右に曲がると浴室ですね。基本的に男性用をお使いになるのは、旦那様とイソン様だけと思います」

「ふ、ふむ……?」

「それでは、次ですが――」




 そんなわけで、ボクはニャーラに屋敷の案内を受けていた。

 しかしすでに最初に聞いた部屋のことを忘れてしまっているので、彼女と別れた後に迷子になるのは確定だろう。

 そんな簡単な未来予測に辟易しながら、ボクは獣人少女に訊ねた。



「ところで、ニャーラはここの住み込みなの?」

「はい、そうですよ?」



 それは、ほんの世間話。

 ボクは自分より明らかに年下な彼女を見て、感心した。



「なるほど。その年齢で、もう親元を離れているのか」

「えぇ、そうですね。アタシの家は、それほど裕福ではないので」



 ボクの言葉に、ニャーラは微笑み答える。

 裕福ではない家庭だという話を聞くと、どうも自分と重ねてしまった。しかしながら、ここでそれを掘り下げるのも変な気もしたので頷くに留める。

 そうしていると、先に口を開いたのはニャーラの方だった。



「パパもママも、行方不明なので。アタシが頑張らないと……!」

「え……?」



 そして、本人はたいして気にしていないであろう言葉に足が止まる。

 行方不明というのは、どうも穏やかではなかった。



「ニャーラ、その……」

「あ! 今のなしで!! 気にしないでくださいね!?」



 こちらが困惑しているのが伝わったか、彼女は笑いながら言う。



「アタシ、いま幸せですから! 旦那様に拾っていいただいて、実家に残してきた弟たちに仕送りもできていますし!!」

「そ、そうなのか」

「はい!!」



 そう言われてはもう、これ以上は聞けなかった。

 それにニャーラの笑顔に屈託はない。本心からの言葉であったと思う。

 ボクは一つ息をついてから、思わず彼女の頭を撫でた。この年齢で、自分よりもよほど多くの責任を負っているのだから。

 少しでも労いになればと、そう考えた。




「なんです……?」

「あぁ、ごめんね」




 でも、少女はピンときていないらしい。

 こちらの手を振り払うでもなく、ただただ首を傾げていた。




「それじゃ、次の案内を頼もうかな」

「あ、分かりました!!」




 ボクはあえて話題を戻し、前を向く。

 するとニャーラも仕事を思い出したらしく、活き活きと説明に戻ったのだった。



 



面白かった

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