2.給仕の少女。
そこそこ頑張って更新します(*‘ω‘ *)
「ここが、ボクの部屋かぁ……」
与えられた部屋を見回して、ボクは思わずそう感嘆の声を漏らす。
連日のように下宿させてもらっていたギアさんの家とは、申し訳ないけれど桁が違った。この一部屋だけで彼の家くらいあるのでは、と思わされる。
だから、妙に落ち着かず……。
「うぅ、どうしてこんな隅っこに……?」
自分でも馬鹿だと感じるほど、荷物を部屋の端に集めて体育座りをしてしまっていた。両親が蒸発してしまって以降、このような場所にくる機会はなかったのだ。
いや、仮に家の借金がなくても、同じかもしれない。
とかくこの部屋は、ボクにとって分不相応に広いように思われたのだった。
そうして、ドアから向かって右手に陣取ってくつろいでいると。何やら、それをノックする音が聞こえてきた。
「はい? どうぞ」
「失礼します、イソン様。アタシはこの屋敷のメイドで――って、あれ?」
「どうしました?」
「いえ、何故そのように縮こまって……?」
「落ち着くので」
「…………」
返事をすると、中に入ってきたのは獣人の少女。
栗色の髪に赤の瞳をした彼女は、自分の部屋の中でパーソナルスペースを作り出したボクを不思議そうに見ていた。メイド服のロングスカートの裾を持って挨拶しようとしていたらしいが、完全に面食らってしまっている。
しかしながら、このくらいの感覚が落ち着くのも本音だった。
なので、キョトンとする少女に咳払いを一つ訊ねる。
「キミの名前は?」
「……え、あ! そうでした!」
明らかに珍獣を見るようだった彼女は、ようやくハッとして一礼した。
そして、こう名乗る。
「アタシはイソン様にお仕えする専属給仕、ニャーラと申します」――と。
◆
「それで、こちらを右に曲がると浴室ですね。基本的に男性用をお使いになるのは、旦那様とイソン様だけと思います」
「ふ、ふむ……?」
「それでは、次ですが――」
そんなわけで、ボクはニャーラに屋敷の案内を受けていた。
しかしすでに最初に聞いた部屋のことを忘れてしまっているので、彼女と別れた後に迷子になるのは確定だろう。
そんな簡単な未来予測に辟易しながら、ボクは獣人少女に訊ねた。
「ところで、ニャーラはここの住み込みなの?」
「はい、そうですよ?」
それは、ほんの世間話。
ボクは自分より明らかに年下な彼女を見て、感心した。
「なるほど。その年齢で、もう親元を離れているのか」
「えぇ、そうですね。アタシの家は、それほど裕福ではないので」
ボクの言葉に、ニャーラは微笑み答える。
裕福ではない家庭だという話を聞くと、どうも自分と重ねてしまった。しかしながら、ここでそれを掘り下げるのも変な気もしたので頷くに留める。
そうしていると、先に口を開いたのはニャーラの方だった。
「パパもママも、行方不明なので。アタシが頑張らないと……!」
「え……?」
そして、本人はたいして気にしていないであろう言葉に足が止まる。
行方不明というのは、どうも穏やかではなかった。
「ニャーラ、その……」
「あ! 今のなしで!! 気にしないでくださいね!?」
こちらが困惑しているのが伝わったか、彼女は笑いながら言う。
「アタシ、いま幸せですから! 旦那様に拾っていいただいて、実家に残してきた弟たちに仕送りもできていますし!!」
「そ、そうなのか」
「はい!!」
そう言われてはもう、これ以上は聞けなかった。
それにニャーラの笑顔に屈託はない。本心からの言葉であったと思う。
ボクは一つ息をついてから、思わず彼女の頭を撫でた。この年齢で、自分よりもよほど多くの責任を負っているのだから。
少しでも労いになればと、そう考えた。
「なんです……?」
「あぁ、ごめんね」
でも、少女はピンときていないらしい。
こちらの手を振り払うでもなく、ただただ首を傾げていた。
「それじゃ、次の案内を頼もうかな」
「あ、分かりました!!」
ボクはあえて話題を戻し、前を向く。
するとニャーラも仕事を思い出したらしく、活き活きと説明に戻ったのだった。
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。
創作の励みとなります!
応援よろしくお願いします!!




