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セシャトのWeb小説文庫2018  作者: セシャト
第三章 『礼装の小箱』著・九藤朋
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神様のカナッペ  読者の想像は作者の世界を越える

最近、少しずつ暖かくなってきましたね。もうあと少し暖かくなると公園なんかで読書をするのもいいんじゃないでしょうか? 春といえばお花見ですねぇ^^

お菓子を沢山作って桜の花の下で紅茶や珈琲を神様達と頂きたいものです!

今回は私と神様で一緒に作った柘榴と檸檬のカナッペが登場します!! 実は白ワインなんかにも合います! 一度御賞味あれ^^

「私の作った者と梨花の為に柘榴(ざくろ)の入ったカナッペを作っておった」



 と訳の分からない事を言われた梨花は何も言えず、その神様が持ってきた手作りのお菓子を目の前にしているという状況。



「何これ?」

「カナッペを知らんのか? 私も作って初めて知ったがな!」



 当然食べた事もあるが、この手作りカナッペは面白いくらいに神様が作ったのだなと分かる物とお菓子作りが上手な人が作った物との二種類が並んでいた。

 綺麗に配分された物と、明らかにクリームチーズの量もザクロやレモンの量も過多な物があり、この大量に乗せた物が神様が作った物なんだろう。



「ふふっ、美味くて頬っぺたが落ちるぞー!」



 妙に嬉しそうな神様の頬っぺたを梨花は再び引っ張ってみた。なんとも柔らかく、きめの細かい肌である。



「痛い! はなせっ!」



 ゆっくりと手を放して梨花は恥ずかしそうに神様にこう小さく言った。



「神様、ありがと」



 梨花が買っていたバンホーデンのホットチョコレートを淹れると、神様が持ってきてくれた柘榴のカナッペを一つ手に取る。



「それは私が作ったやつだな!」

「うん、だろうね」



 一口で食べる事を完全に無視した乗せ方をしてあるそのカナッペ、それをつまむ梨花をなんともわくわくした顔で見つめている神様を見て、大きく口を開けるとパクりと梨花は食べて見せた。

 少し長い時間咀嚼する。レモンとザクロをクリームチーズで食べたのは恐らく初めてだった。テリーヌを乗せたカナッペはよく食べた物だったが、これは優しくて、そして想像以上に美味しい。



「神様ってお家がケーキ屋さんか何か?」



 簡単な食材で作られたそれだが、下地の味が一般家庭で作れるような代物ではないと梨花は評価したのである。



「いや、私の家ではないが、古本屋の店長をしておる奴に作らせた。しかし、それを盛りつけたのは私だからな! 神様が作った物を食べれるなんて、梨花は幸せ者なんだからな!」



 正直に生地は自分では作れない事を告白しているところもなんとも愛らしい。



「ねぇ、神様。自分の家の見飽きた庭を今会ったばかりの異性と散歩して何が楽しいのかしらね?」



 華夜理と龍のお見合いのワンシーン。

 神様は自分の作りしWeb小説の布教師、セシャトに作らせた方のカナッペをぱくぱくと食べていたところ聞かれたので、リスみたいに頬を膨らませてホットチョコレートでそれを流し込む。そしてふむと一言呟くと答えた。



「つまらんだろうな。少なくとも華夜理はな。私たちも十月になると島根にいって合コンをするのだが、それはそれはつまらん」

「神無月ってそんな事しているの?」



 一年の一か月だけ日本国においては神々がいなくなる。否、島根のみ神有月となるので一部を除き神々がいなくなる月。



「まぁ、それはどうでもよかろう。王子様の活躍を楽しむ場面だからな、こんな歯の浮くようなセリフ回しが許されるのも作風故だろう」

「神無月の件は、また今度じっくり教えて頂戴。そうね、大正や昭和の作風に今風の表現を加えたモダン様式ね。大人の余裕を見せられているところに、大人未満、子供以上の晶達がどう欺くのか盛り上がってきたわ」

「というと?」

「瑞穂がいい子だなって思えてきた事」 



 神様は、この梨花と『礼装の小箱 著・九藤朋』についてやっと意見交流ができるようになってきた事を喜ばしく思い、二杯目のホットチョコレートを口につける。



「少し甘すぎるな」

「そう?」



 梨花は神様のカップを持つとそれを一口口をつけてみた。それをティスティングするように味わって神様を見つめた。



「普通じゃない」

「そうか? むぅ……」



 この変化に神様も梨花も気づく事はできなかった。それはゆっくりと別れの階段を上がる合図であるという変化であった事。



「この世は全て舞台……上手く言ったものよね?」

「全て役者に過ぎないと? 梨花お前もか?」

「当然、なら神様も舞台装置から出てきた神様かしら?」



 面白い事を吹くなと思う。

 なので、神様は少しばかり梨花に言って見せた。



「あれはシナリオがあるという意味ではないぞ。昔の舞台なんてもんは、屋外で行われる事が多かったんだ。屋台の食べ物でも喰いながら庶民が手を叩いて見るものだった。だから、舞台と世界は殆どつながっているとな。観劇を見る者も含めてすべてが舞台だと、そういう事を言いたかったのではないか?」



 神様独自の見解。



「もし、神様みたいな逆さまの見解で華夜理がパッチワーク展に行くという意味がもしあるとしたら?」



 言わずもがな。



「彼女のツギハギの心情とだぶらせる為と読み解く。だが、これは行き過ぎだ。当然そこまでの事を作者は考えてはおらん。これが小説を読むという事だ。世界を作り上げた創造主ですら届かないところに読者の意識を運ばせる」



 随分話しながらカナッペを食べた。普段の食事以上にカロリーをとったのではないだろうかと梨花は思った。

 そして、自分の感性が神様とほぼ同じところにいる事に嬉しくなる。それは浅はかな考えであると、それが分かった事が嬉しかった。

 何故なら、華夜理のお見合い相手の龍が、そう自分は彼女の寄せ木に到達したのであると誤算している事に自分をだぶらせる事ができたのだ。



「でも、ここは残念なくらいに間抜けなワンシーンね! 迷走の小箱」

「うむ、まぁ冗談は下手なんだろう。許してやれ」

「ううん、それが人間らしくていいわ。ねぇ、神様。もし私が血を流したら舐めてくれる?」

「うんと甘ければな」



 ひとしきりそれで笑うと、少し眠そうな梨花を見て神様は残り少ないカナッペを備え付けの冷蔵庫の中に入れた。



「あと一日くらいは持つとセシャトが言っておったから、お腹がすいたら食べるといい、今日は早めに休め。梨花の誕生日に私と結婚するのだろう?」



 そんな話をしたなと梨花は思う。確かあれは二か月程前だっただろうか? 神様が来てから時間が早い気がするなと思いながら、あと二週間。

 そこで自分は十六になる。



「……あれ本気にしてたのぉ?」



 まさか目の前の幼い少年、あるいは少女に結婚の話をされるとは思いもしなかった。もし十六を迎える事ができたのであれば、それもいいかと梨花は思い眠りの世界へと飛ぶ。

 彼女は小さい頃の思い出を夢見ていた。自分は蝶よ花よと育てられてきた。父も母も自分を愛してくれていたハズだった。

 何故、誰も来ない?

 それはいつからだ?

 梨花はゆっくりと思い出す。自分はこの日本という国を背負っていく家元に生まれてきたハズだった。

 だが、胸を病んだ。

 すぐに治ると言われたのではなかったか? 最後に両親と過ごした日に自分は何か聞いてはいけない事を聞いた気がする。



「……そうか、弟が出来たんだった」



 深夜、鼻提灯を作りながら漫画みたいに寝ている神様を起こさないように梨花はベットを降りると冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。

 普段であればグラスに入れてそれをゆっくりと飲む梨花だったが、ペットボトルから直接水を飲む。



「ふぅ、美味しい……」



 不思議とグラスに移して飲む水より冷たく、また美味しく感じる事ができた。とぼとぼと向かう先は屋上。

 施錠されている事は知っているが、外に行きたい気分だった。ドアノブを回してみるがやはり閉まっている。



「どいてみろ。開けてやる」

「神様、起こしちゃった?」



 目をこすりながら神様がついてきていたのだ。神様がこの閉まっている扉を開けれるとは思えないが、場所を変わると神様は欠伸をして八重歯をのぞかせる。そして、もともと鍵がかかっていなかったかのようにそれを開けてみせた。



「ふむ、よい空だな」



 風はびゅーびゅーと冷たく。中々の歓迎を二人にしてくれる。神様は梨花の上着を持ってきていたのでそれを梨花に渡した。



「ありがと」

「礼には及ばんよ。しかし突然どうした?」

「私のところに誰もお見舞いに来ないよね?」

「あぁ、そうだな」



 まだ寝足りない神様にクスっと笑う梨花。すぅっと息を吸い、酸素をもはや治らない程度には狂いだしている心臓に送ると神様に伝えた。



「私は、親から捨てられた子供だったんだよ」

「ほう」

「私を大事にしていたのは、私を後継ぎにする為だったんだよ。でも、もう弟がいるからだから私の事はもうどうでもいいんだよ。それに、病気の娘がいるなんて事が知られたら、きっとお父さんの迷惑になるから、だから私はここに捨てられたんだ。よく考えればおかしいよ。あんないいお部屋に閉じ込められて……」



 神様は冷たい視線で梨花を見つめる。梨花はなぜそんな目で自分を見るのか、理解できなかった。

 もっと自分を思ってくれると信じていた。だが、神様の反応は真逆の物。



「何々? もしかして晶みたいに私を試してるの?」

作者さんの世界を読者さんの想像が超える瞬間。これは創造主である作者さんにとって最高の瞬間の一つではないでしょうか? 確かにその読者さんに作者さんは一つの世界を与えた事になるんでしょうね^^

作品とのシンクロが起きて初めて生まれる瞬間です。愛読書がある方なんかは経験があるのではないでしょうか? そして、感受性の異常に高い梨花さんは神様とほぼ同じ領域にいます。その意味するところは? 次回もお楽しみに!

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