76.兄妹は急ぎ帰る
どうもお久しぶりです。
遅くなりましたがあけましておめでとうございます。
今年も錆匙をよろしくお願いします。
リムドブムルの体内で大爆発を起こした魔玉は、轟音と粉塵を残しリムドブムルを内側から破壊し尽くし、周囲の木々諸共、大量のドロップアイテムを残して消え去った。
「耳が痛い」
「これは離れてなかったら即死だったな。お、ドロップアイテムは消えてないぞ」
多少、散らばっているが、リムドブムルのいた場所にはクレーターができており、その中にはドロップアイテムが転がっている。
大量の鱗、爪、牙、皮膜、骨。そして肉。何もかもが使うことを遠慮するほどの高級品だ。
俺達は部位破壊を何度もして、ある程度の数をそろえているわけだが。それでも今までに入手したことの無いドロップアイテムがちらほらと見える。
「おぉー、これでリムドブムルの肉食べ放題‼」
「今日の夕飯は豪華になるな」
ハルは真っ直ぐとクレーターの中に入り、散らばる肉を拾い集める。帰ってたらすぐに洗って、外側の汚い部分を切り落としてと。やらなきゃいけないことが多くなりそうだ。
「っと、俺も回収するか」
ハルが肉を回収してくれている間にまずは鱗を回収していく。これだけで、いくつもの装備が作れそうだ。非常にありがたい。
「おにい、スキルカードは4枚だったよ。金2つ」
「お、俺の方も逆鱗見つけた。弱体化を使ってなかったから入手できたとかだと世界で俺たちしか持ってないってことになるな」
「まあ、使い捨てだけどね」
「『錬金』で武器にできるかもしれないぞ」
「あのスキルが武器についても使えないと思うけど」
ハルの言う通り逆鱗に付与されているスキルは『災龍化』。
ハルの持つ『暴走』を強化したようなそのスキルが武器に付与されていても、使うたびに武器が壊れてしまうのだから、使いどころが無い。
「よし、これで全部だな」
最後の鱗を拾い終え顔を上げてみれば、クレーターの上で険しい顔で周囲を眺めるハルがいる。
「どうした?」
ハルは少し首を傾けながらこちらを向く。
「モンスターがいなさすぎない? さっき遠くにいたモンスターも真っ直ぐいなくなっちゃった」
試しに『把握』を使ってみるが周囲には1匹とてモンスターがいない。
「リムドブムルの影響じゃないのか?」
先程の戦闘の余波でモンスターがいなくなっているという可能性も十分にある。それにしては少し変だが。
「だとしてもそろそろモンスターが戻ってこないとおかしくない? おにいも分かってるでしょ」
「まあ、おかしいとは思うが。ん? どうした、ハル」
ハルがはっとしたように一つの方向を向く。
「今、モンスターが『察知』の範囲の端っこを走ってた。あっちに」
そう言いながら、指さされた方向は。
「あっちは森林の入り口だよな」
「うん。そういえば最初に『察知』できたモンスターもそっちに向かってた気がする」
モンスターが本当に森林の入り口に向かったとすればそれはダンジョンを登っていることに他ならない。
モンスターが階層を移動するのは、スタンピードが起きたときのみ。スタンピードが起きるのは、探索者が一定のモンスターを狩り過ぎた場合、大量のモンスターを引き連れたまま逃げた場合、モンスターを引き連れるタイプのユニークモンスターが出現した場合。それだけであった。
今までは。
「ハル、すぐに家に戻るぞ。モンスターが同じ方向に向かっているからスタンピードの可能性が高い」
急いでクレーターから出ながらそう伝える。
「ユニークモンスターが原因のスタンピードは他の階層からモンスターを集めることができない。ってことは」
ダンジョン内では普通のモンスターや、魔法、スキルは他の階層への干渉ができない。ただ、モンスターが階層を上がるには例外がある。
ユニークモンスターに従っていること。他のモンスターが階層を移動していることを認識することで普通のモンスターは初めて階層を移動できるようになるのだ。つまりは。
「イレギュラーだ。普通のモンスターが個々に階層を移動している可能性が高い」
ユニークモンスターの影響なしにモンスターが階層を移動する。それが意味することは。
先程より焦った顔を浮かべるハルが俺の言葉をつなぐ。
「ダンジョン全体で同じことが起きてるかもしれない」
「行くぞ‼」
腰に下げている刀を抜いて真っ直ぐと森林の入り口へ向けて走る。ダンジョンの入り口へと近づけば段々とモンスターは増えていき。
「これはまずいな」
森林の入り口となる洞窟には大量のモンスターが犇めき合っていた。
「おにい、ついてきて」
洞窟の手前で立ち止まった俺を追い抜いたハルはそのままモンスターの頭上へと跳ぶと、モンスターの頭を足場に、洞窟の奥へと向かっていく。
すぐに俺もハルを追い、洞窟の中へと向かった。足止めぐらいにはなるかとモンスターを殺さない程度に斬り付けてみれば、そのモンスターは他のモンスターに押しつぶされるように、モンスターの足の下へと消えていった。
これだとすぐに踏まれて圧死してしまうだろう。
「てーりゃっ」
帰還の魔法陣のところまで戻ったハルが、トンファーを振りぬいて近くのモンスターを殺す。
俺も『強斬』を使い、モンスター数体の首を飛ばすことで空いた場所に着地する。
「「転移の間」」
手をつないだ俺たちが魔法陣に触れ、そう唱えれば景色はモンスターの犇めき合う洞窟から、モンスターの犇めき合う転移の間へと変わる。スタンピードはしっかりと一階層でも発生してしまっているようだ。それでも。
「あっちよりは可愛げがあるな」
思わずそう呟いてしまう。
森林にいた油断すれば押しつぶされそうなほどの巨大なモンスターに比べ、そこにいたのは膝下程度までしか無い大きさのスライムと子供サイズのゴブリン。自分の腰当たりより上にはモンスターの影は無く、足を振りぬいてしまえばそれだけでモンスターが消えていく。
「帰るか」
「そーだね」
今更思い出す一階層のモンスターの弱さに安心し、蹴飛ばすだけで道を切り開きながら入り口へと歩く。
「うわぁ、多少やばいかな?」
「やばいのは、状況じゃなくて見た目だけどな」
木崎家のダンジョンは他のダンジョンと違い、高さ2メートルの竪穴になっている。実際のダンジョンの入り口は地下室から2メートル降りて横に進んだ先にあるので、俺たちは元々地下室の下に空洞があってそこにダンジョンができたのではと推測している。
で、その高さ2メートルの段差だが、小さなゴブリンやスライムは登ることができない。それでもモンスターは他のモンスターを踏みつけ、足場にしてでも登ろうとする。
ただ、ダンジョンの入り口は柵で蓋がしてあり、一階層のモンスターが壊せるほど、柵は脆くない。
柵が壊せないため、ダンジョンから出ることもできず、後ろからは他のモンスターが押し寄せてきて前に進むことしかできない。
ゴブリンとスライムは入り口で一塊の団子になっていたのだった。モンスターがここまで集まってしまえば圧死する個体も出てくる。のだが、ここにいるモンスターが悪かった。
軽いゴブリンと柔らかいスライム。スライムが緩衝材となることでゴブリンもつぶれて死ぬことは無く、不定形のスライムはゴブリンたちの隙間を埋めるようになっていくわけで。
「しばらくハンバーグは食べたくないかな」
「リムドブムルの肉のハンバーグは美味しそうだけどな」
見るのも嫌なほどのおぞましい生きた壁になってしまっているのだった。
はぁー
大きなため息一つ。
「ハル、俺があれ片付けるから、後ろのやつよろしく」
俺たちの魔力はもうほとんど無い。俺は後ろをハルに任せ、ちまちまとモンスターの壁を崩していくのだった。




