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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
3章 貧乏兄妹は強さを求め龍狩りへ
62/132

62.兄妹は中級ポーションを完成させる

今回は短めです

「おい、お前見たかよ。木の上の黒いの」


「あぁ、なんだよあれ。下に降りてきたかと思ったらいつの間にかトレントが死んでるしよ。そもそもどうやってトレントを見分けてんだよ」


 とある日の森林では男のパーティーが上を見上げ、顔を青くしながら呆然と立ち尽くしている。その数は4人。ただこの4人から見える位置ではなくとも同じような動作をとっている人は何人もいるだろう。

 あんな化け物を見て、平常心を保てる者がいたらそれは普通じゃない。

 男のおびえたような声に別の男が震えた声を返す。


「それだけじゃねえぞ。よく見てないと見逃しそうなぐらい気配が薄かったしよ。まじでなんなんだよ」


「悪魔だ。悪魔なんだよ。ダンジョンの悪魔だ。俺はもう帰るぞ。目を付けられたら殺される」


「おい、先に行くなよ。俺たちも帰るぞ」


「しばらくは森林に来ない方が良い。中級ポーションなんてものの素材取りに来たのがそもそもの間違いだったんだよ」




 東京ダンジョンの16階層。日本が誇る上級探索者しかいないこの森林で、たった二つの黒い影が恐れられているとき。その影は階段を上っていた。


「なぁ、ハル。1枚で良かったのか?」


「うん。レアモンスターって言うから入手し辛いかと思ったら結構いっぱいいたんだもん。私も1枚採ってきたし」


「ハル、いつの間に採ったんだよ」


「走りながらー」


 階段を上る森林の悪魔。木崎兄妹はさっそうと森林から15層へと走る。階段を数段ずつ飛ばして壁を蹴りながらすさまじい速さで登るその行為はマネできる人など殆どいないだろう。


「いや、勇者ならできるのか?」


「ん、何が?」


 俺の独り言に前を走っているハルが首を傾げながらこちらを向く。ただペースは落とさずに軽やかに階段をのぼりながら、だが。


「いや、俺たちの階段の上り方ってよく考えるとかなり人外じみてるだろ」


「そうだね。気配探って地面と壁の位置が分かるからできることだもんね」


「それだが俺たちの今のレベルって75だろ?」


「うん、そうだね。一昨日上がったし」


「俺たちは後衛の技能だろ。前衛の技能って後衛の2倍強度が伸びるだろ」


「そうだね。私たちは強度低いし」


「そうなると俺たちの強度って、勇者に負けてんじゃね?」


「あ、そっか。そうだねぇ」


 普通の人間だったらここで悔しいとかの感情が湧いてくるのだろうか。ただ、この兄妹は、いや。この兄は違った。


「俺たちってそんな人外にはなってないんだな。いやー、何かほっとする」


「負けてるのはちょっともやもやするんだけど」


 ハルが不平を述べる声が聞こえるが知らない。下手に対応してダンジョンにこもってのレベルアップトレーニングなんてすることになったら嫌だし。


 こんな二人ではあるが、この兄妹はダンジョンに入ってから意識していないものが1つある。それは見えないステータス。確かに強度というのは上がれば上がるだけ丈夫になり、力が上がる。ただそれは強さではない。

 人には経験や技量、道具などと様々なものがある。

 それにおいて兄妹の武器は勇者の持つ、聖騎士の霊剣と比べれば弱い。ダンジョンで手に入る武器はとてつもなく貴重だがそれだけの強さを持つのだ。ただ、それは固有の名前を持つ武器に限るのだが。

 勇者に比べると強度が低く武器も弱い兄妹だが、2人には十分な経験があった。

 毎日ダンジョンを探索することの時間的経験や、それによる疲労への耐性。強度が低いのに魔法を使わずモンスターを殺していたことの経験。

 安全マージンを異常なまでにしっかりと取り、強力なスキルを持ち、回復役までいて。さらに時間を決めて定時で帰って行く勇者に比べれば兄妹のダンジョン探索や戦闘に関する経験は比べようもないほどの差がある。

 だからと言って勇者御一行や、その他の5強のパーティーが怠惰だというわけでもなくて、テレビに出るなどとダンジョン外でも活動をする彼ら彼女らは尊敬することがあるのも事実だ。


 さて、ここらまでならなんとなく自分自身でも分かっている兄妹。おそらく近接戦闘をしても勇者に後れを取ることは無いだろうと思っている。

 ただ、この2人には考えていないことがある。それはバフ。ステータス外の自分のステータスへと働く強化。

 ダンジョン産のアイテムをふんだんに錬金した装備は2人のステータスを確実に底上げしており、それに加えて2人には双討の証というものがあった。

 そんなこんなでこの2人。強度さえも勇者と同等程のステータスを持っており、冬佳に至っては勇者を上回る。

 誰1人知ることが無い事実。思う以上にこの2人の力はチートじみているのだった。



「よし、転移、15層入り口。行くぞ『パワー』」


「どうもー、さよならー」


 ドンッ


 俺たちは階段を登り切り、すぐに15層の入り口へと移動するとそのままボス部屋の扉を開け放つ。それと同時に俺の強化を受けたハルが前に飛び出し、人化牛の顔を吹き飛ばす。

 人化牛は武器を振り上げる間もなく命を刈り取られ、霧となる。ドロップアイテムを拾った俺は、アイテムポーチから必要なものを取り出していく。それは前から集めていたごみスキルが入った板。

 出したものは発熱と送風だ。それに魔力を流し起動するとそこに霊樹の葉を置く。そうすれば数分ほどで葉は乾燥して。そこからは893産の言う通り。


「「完成‼」」


 時間にして30分。兄妹は遂に中級ポーションを手に入れたのであった。


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