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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
3章 貧乏兄妹は強さを求め龍狩りへ
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54.兄妹はとある女性と出会う

「ついたー、盛岡」


「おぉー、空気が綺麗だな、北海道でも思ったけど」


「ここにもダンジョンがあるんだね」


「あぁ、そしてまた夜なんだが」


 現在、時間は夜中で空は真っ暗。北海道から岩手は意外と距離が長く、昼のうちに着くのは無理だった。しかし今日はちゃんとホテルを予約してある。新幹線の中から予約したため、問題は無いはずだ。


「にしても時間を考えてなかったとはいえ北海道、岩手と2回連続で夜に到着するってのは不幸だよな」


「長時間の新幹線の疲れを癒せるしいいんじゃないの? あと何個の県を回るかも分からないしね」


「まあ北海道はスタンピードが楽しかったから良いんだが。盛岡はどうか」


 実際は遊びに来たのではなく親を探しに来たのだからつまらなくても仕方が無いのだが。

 それでもこの2人の行動の本質は娯楽である。楽しければそれでよし。他の人への迷惑は考えるが、自分たちが楽しめるとなれば容赦なくやる。そうじゃなきゃわざわざ海外まで行こうなんて考えない。

 薄情だって? それが人間だろう。俺たちは会社の社員でも学校の生徒でもないのだから変に周りに合わせる必要もない。

 ホテルに行く途中の道にあった店でラーメンを食べたのだが、とてもおいしかった。北海道に行ってから時間なくて碌なものを食べてなかったから尚更胃に染み渡る。一番ゆっくりと食べたものはカルパスかもしれない。カルパスはお菓子だが。ついでにコンビニにより、明日の朝食を買ってからホテルへと向かった。



「ホテルだ。ふつうだぁ」


「そりゃあ無駄にお金は掛けられないからな。日本横断しようとしてるんだからちっぽけな差かもしれないけどな」


「んー、ベッドはツインだね。シングルにしてたらおにいを部屋から追い出してた」


「必要な金は使うよ。とりあえず新幹線の中で情報は調べ尽くしたし寝るか」


「うん。眠くはないけどね。新幹線で寝たし」


 ホテルもビジネスホテルでサービスはないから部屋のシャワーを浴びてから眠りにつく。

 ハルは眠くないとか言いながらベッドに寝転がり、シャワーを浴びる前に寝てしまった。おそらく明日の朝、浴びることになるのだろう。

 さあ、寝るか。盛岡のダンジョンも移動販売の車はいくつも来ているらしい。その中に親がいる可能性は十分にあるのだ。まあ、それも見てみなければ分からない。すべては明日と、だったら寝るしかすることは無い。では。


「お休み、ハル」


「ムニュ、グガッ」


 俺のお休みに対する返事は寝言といびきだった。



「おはよ、おにい起きて」


「おう、おはよ。一見先に自分が起きたみたいに装ってるけど俺がハルを起こしたよな?」


「おにい、朝ごはん」


「おい、無視するな」


 ハルの言動に突っ込みを入れながら昨日買っておいた菓子パンを投げ渡す。

 ハルはそれを受け取ると袋を破り口に入れる。ハルの好きなのはリンゴの入ったパン。俺が好きなのは焼きそばパンだった。それをむしゃむしゃと食べてすぐにホテルをチェックアウト。


「じゃあ、行くか」


「うん、ここからならダンジョンは近いしね」


 俺たちが泊まったホテルは比較的ダンジョンの近く。30分もしない程度で着くことが出来るだろう。


 ダンジョンに着くとそこは既に人で賑わっていた。武器以外の装備を纏った人が何人もいて、周囲には移動販売の車や、小さな店が並んでいる。北海道でも思ったが小さな祭りでもやっているかのようだ。

 まずは周囲を歩いて父がいるかを探すか。


「おにい、行くよ」


「あぁ、とりあえずは聞き込みだな」


 店の人や受付など。長時間ここにいることが多い人を中心に写真を見せ、特徴を話し、見かけていないかを聞く。途中見かけたかもといった情報もあったが、冒険者としてダンジョンにいたという話だから勘違いだろう。

 なんといっても父は足を悪くしているのだから過度な運動はできない。ダンジョンなんてもってのほかだ。


「やっぱり、いないね」


「いないな。もっと西の方なのか?」


 周囲の店の店員などに聞いて周り2時間ほどが経った頃。すべての人への質問が終了した。念の為にダンジョンとは関係ない近場にある店まで回ったのだから妥当な時間だと言えるだろう。

 今は最後の店であった和菓子屋の店主であるおばあちゃんに聞き込みを終えたところだ。好意でお茶を頂いたのでそれを飲みながら、これからの相談をすることにする。


「後の時間をどうするか。今日は盛岡に滞在したいけどダンジョンに潜る気は無いしな」


「どうせ1層からだからね。飽きちゃうもん」


「あーあ、そもそも何で探さなきゃいけないのか。親がいないなら自分だけでパスポート作れても良いと思うんだが」


「まあ、書類上だと私たち、親と一緒に暮らしてることになってるし。下手に捨てられたとか思われたら。実際その通りなんだけど、そうしたらどっか施設に入れられるか、面倒な書類書かなくちゃいけないことになりそうだしね」


 目の前にかっこよくもない父の写真をかざし、一言愚痴を言ってお茶を飲む。


「まあ、とりあえず観光ってだけでも岩手を見て回るか」


「そうだね。自転車のレンタルとかどっかでやってないかな?」


 残りのお茶を飲み干し、立ち上がる。目の前にかざしていた写真をポケットに戻して。


「あの、すいません。その人って木崎さんでしょうか?」


 店の奥から声を掛けられたのはそんな時だった。

 その声に、その言葉に、その気配に驚き、後ろを見る。そこにはとても美人な、おそらく自分より少し年上であろう女性が、店の奥から顔を覗かせていたのだった。


「おや、かれん。何かあったかい?」


 店主のおばあちゃんは後ろを向き、にこっと笑いながら問いかける。


「あ、ごめんおばあちゃん。その人が持ってる写真の人に見覚えがあったから」


 女性はそう言うとこちらに顔を向ける。


「初めまして。私は五十木花蓮。あなたたちは、木崎さんの、子供かな?」


 そして、その人は。俺たちの父を知っているらしい。


「はい。俺は木崎冬佳といいます。この写真の父の子供です。こいつは春香で俺の妹です」


「はじめまして」


 俺が挨拶と自己紹介をするとハルもそれに合わせて首をぺこりと下げる。


「今俺たちは父を探しています。少しでもいいんで、何か情報はありますか?」


 聞きたいことは親の居場所だ。できればここに長居したくないため、すぐに本題に入る。


「ごめん、それは知らないんだけど、高校で1人暮らしをしてた時に何度か話したことがあって。大阪でね」


「大阪ですか? 失礼ですがそれは何年前になりますか?」


「6年前かな。私がナンパされちゃってた時に酔っ払った木崎さんともう1人の男の人に助けられちゃって。少し話したの」


 俺の年齢から考えると6年前だから。


「小学生から中学生ってところか」


「ほとんど覚えてないけど、仕事の出張で何度か大阪行くって言ってなかったっけ?」


「あー、あったような気がする。大阪だか京都だかは忘れたが」


「たぶん大阪だったよ。ぎりぎり覚えてる」


 俺たちがそれぐらいの年だったころに何度か出張で1週間ほど家を空けていたことを思い出した。というか。


「父に助けられたんですか? ナンパから?」


 かなり疑わしい。なんといっても超適当人間のあの父なのだから。人がナンパされても茶化していきそうだ。


「うん、かっこよかったよ。お、ナンパか。女の子とじゃなくておっちゃんと遊ぼうぜ。って言って、ナンパしてきた男の人たちを私から離してくれてね」


 その女性は懐かしそうに語る。


「男の人が怒って殴ってきちゃったんだけどね。すっと躱して何か一言言ったら男の人が逃げちゃって。木崎さんって、何か武道やってたの?」


 武道をやっていたかと聞かれると微妙だ。そういえば聞いてみたことが無い、が。


「俺のやっていた合気道に何度かアドバイスをしてくれていたんで、合気道はやってたかもしれません」


「じゃあ、そうなのかな。私はよく分からないけどすごくきれいに躱してたんだよ」


「はぁ、そうですか」


 女性の話を聞きながら頭の中で整理しようと思うが、分かったことと言えば、この人は父の昔の知り合いで、今は場所が分からない。それにいつまでも親の武勇伝を聞いているのも面倒だ。


「すみません。そろそろ行こうと思うんで。情報ありがとうございました」


 良さそうなタイミングで話を打ち切る。


「あ、そっか。これから観光って言ってたもんね。是非岩手を楽しんでいって。と言っても私も数日だけ仕事が休みだから帰ってきただけなんだけど」


「はい、楽しんできます。ありがとうございました」


 最後に店主のおばあちゃんに頭を下げてお礼を言うとハルもぺこりと頭を下げた。そのまま店を出ようとしたときに。


「あ、ちょっと待って」


 制止の声を掛けられ足を止める。

 女性はそそくさと店の奥に入ると30秒ほどで1枚の紙を持って出てきた。


「これ。さっき話した木崎さんと仲良かった人の情報。よく行ってるって言ってた居酒屋とか。もしかしたら手掛かりがあるかも」


 渡された紙には丸っこい字で名前と居酒屋の名前、場所が書かれている。


「ありがとうございます」


 その気遣いに再び頭を下げ今度こそ店を出る。と、最後に。


「本当に父の情報、ありがとうございました。ダンジョン探索頑張ってください」


「うん、ありがとう。頑張るね。頑張るね?」


 女性がその言葉に疑問を持ったときには既に俺たちは店を出て歩き出していたのだった。

 次向かうは大阪か。


「おにい、次は大阪行こ。たこ焼き食べたいな」


 ハルが言う。


「中学の修学旅行では京都行ったのに大阪には行けなかったからな。楽しみだ」


 兄妹の次向かう場所は大阪。一人の男性を訪ねることに決めたのだった。


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