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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
3章 貧乏兄妹は強さを求め龍狩りへ
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53.北海道戦争終結 兄妹はカルパスを食べる

 あれからだんだんとモンスターの数が増えてきた。いや、それにしても増え過ぎではないだろうか。


「全員少しずつ下がりながら戦線維持‼ けがはするなよ‼」


 現在ダンジョンの階段に窮屈なほど押し込められたモンスターたちを盾技能の人が無理やり押し込めている状態。モンスターは次々と増えてきていて、この状態も長くは持たないだろう。


「魔法撃てー‼」


 その声と共に無数の光が宙を舞い、モンスターたちを消し飛ばす。それが作るのは束の間のモンスターと人間たちの隙間。


「押し戻せ‼」


「「「シールドバッシュ‼」」」


 同時に発動される盾技能のスキル。盾技能の攻撃スキルはその盾の質量を使って押しつぶすものが多く、これもその1つ。

 いくつもの盾がモンスターの群れに突撃し、盾と後ろのモンスターに挟まれた前方のモンスターが死んでいく。

 この戦法を何度も繰り返してなんとか戦線を維持している状態だけれども、この戦法って盾以外の前衛が何もできない。常に盾とモンスターが密着して詰まっている状態だから武器を振り回す場所が無いのだ。というわけで。


「暇だな」


「暇だね」


 俺たちはぼーっと後ろで眺めているわけだ。勿論俺たちだけが見ているわけではなく他の前衛技能や支援技能の人も盾の人たちを応援しているだけだ。そういえばさっきから指示を出している人もここで一番実力のある刃技能の人。


「そろそろ戦線が崩れそうだしもう1層下に行かない?」


「まあ、いいけど。じゃあモンスターが溢れた瞬間に隠密を使って突っ込むか」


 勿論モンスターが溢れ出すというのは盾技能の人々が押し負けるということで、その時は刻一刻と迫っている。


「ユニークが来たぞ‼ 種類は牛系。他のモンスターを押しつぶしながら接近中、盾が割れるぞ‼」


 盾の代表として動く人物の声と共に盾の人たちがモンスターに押され始める。


「このままだと押しつぶされる‼ 道を空けるぞ‼」


「分かった俺の合図で行く後衛は避難。各パーティーごとに遊撃しろ。盾部隊、道を開け‼」


 押しつぶされそうになっていた盾が左右に広がることでその圧力から抜け出す、そして壁が無くなるということは。

 ダムが決壊したようにモンスターが溢れてくる。その数は無数に。まあ、さっきまでの実力を見るにこれぐらいなら無事殲滅できるだろう。一番数の多い前衛が活動できるのだから。


「ハル、こっそり行くぞ」


「分かった」


 俺たちも行動を開始しなければ。

 できるだけ体を低くして、モンスターたちの足の隙間に滑り込む。本来であればモンスターたちに圧縮され、死は免れられないだろう方法だが、しかし兄妹は少し強すぎた。

 その動きは誰にも見られず、その刀は周囲のモンスターを切り裂き、トンファーはモンスターを吹き飛ばす。


「いなくなるんだし土産ぐらい残してやるか」


 そう呟いた俺が見上げるのは先程確認された牛系のユニークモンスター。刀に強斬のスキルを乗せて、走る体勢から無理やり体を回転させ、上に振るう。


「おにい、ナイス」


 その刃は容易く牛の首を切り離し、黒い霧へと変える。

 その刀はそのまま次々とモンスターを斬り倒し、一人分の隙間をモンスターの間に一瞬だけ作る。そこをすさまじい速さで駆け抜けるのは黒い影。


「案外簡単に抜けられたな。誰も気づいてなかったし」


「まあ、モンスターの山の中を抜けてきたからね」


 モンスターの間をある程度抜けた後、二人は地面を蹴り上へと跳ぶ。その足は壁を捉え、そのまま進む。いわゆる壁走り。

 壁を蹴れば当然、壁と反対側に推進力が働くから、地面に触れないように壁を蹴って跳んでいくというのが一番正しいか。


「おにい、ここらへんで平気そう。『亀裂』」


「うぉっと、いきなりかよ」


 ハルの振り上げたトンファーは異様な量の魔力を放ち、そして空間を割る。

 空間にできた罅はモンスターがひしめき合う通路へと広がっていき、そして。


「いや、俺のやること無くね?」


 その後の通路に、モンスターの影は一匹たりとも残っていなかった。


「いや、どうせ軽く当たれば殺せるんだから魔力操作で無理やり範囲広げてみたんだけど。思ったより使い勝手がいいね」


「あぁそうだな。まだまだ敵はいるが」


 見えるところにいたすべてのモンスターを殺したのにその道はすぐにモンスターで埋まっていく。


「これはあれが使えるのか?」


 先程ハルが倒したモンスターがドロップしたものをかき集め、金属系だけを選別する。のは時間が無いからいいか。


「支配」


 一言呟くと共に周囲の魔力が動きを止める。


「『バインド』錬金」


 支配の能力を使いバインドを細く硬く、網状に展開する。そのまま支配のスキルで強制的にドロップアイテムをバインドへと錬金する。そうすれば何ができるか。


「ここらのモンスターでは絶対に破壊できない柵の完成だな」


 バインドをその形のまま維持しながら支配を消す。モンスターの軍団は柵など気にすることなく、突き進んでくる。そしてそれが何を意味するか。


「うわ、えぐくない? おにい」


 最初のモンスター達が柵に突撃し、その次のモンスターたちが前のモンスターにぶつかる。さらにその後もと、次々とこれが続き。


「うるさいな」


 聞こえるのは前の柵と後ろのモンスターに圧迫され悲鳴を上げるモンスターの声。それはだんだんと断末魔の悲鳴に変わり、消え失せる。

 それはトラップ。大量のモンスターがいることと自分が強力であることを利用した罠。絶えなく向かってくるモンスターは前のモンスターを圧死させる。さらに言うのなら。


「ドロップがいいな。安物ばっかりだけど」


「そうだね。柵になってるから勝手に出て来てくれるし」


 前で圧迫され、死んだモンスターがドロップしたアイテムは後ろのモンスターに押され、勝手に柵のこちら側へと転がってきてくれるのだ。

 たまに遠距離攻撃や魔法を使うモンスターもいるが、そういうモンスターは強度が低いため、柵の前に辿り着く前に他のモンスターに圧迫され、死んでしまうため警戒のする必要がないのだ。

 モンスターは絶えることなく、次々と向かって来ては死んでいく。質より量とはよく言ったものだ。たまに来るユニークモンスターでさえも他のモンスターに圧迫されて死んでいくのに、たった1人が作り上げた柵は微塵も壊れる気配が無い。


「おにい、暇じゃない?」


「ああ、俺のやることはバインドを維持するだけだからな」


「私はそれどころか何もすることないんだけど」


「仕方がないな。こんなにモンスターがいるくせに人の気配は無いから撤退する必要もないし」


 こんなことを言っている兄妹は知らないが、ここは上の階層に上がるには必ず通らなければいけない道。だからこそたくさんのモンスターが集まってくるし、後ろからの攻撃も無い。

 さらに言うのならもっと下で動いている遊撃部隊及び、中級上位探索者の皆さんはモンスターの対処が間に合わずてんやわんやの状態でこちらに来ることもできない。一番楽なのは俺達より上にいる人たちだろう。

 全てのモンスターを漏れなく殺しているため、上の人はさっきまでに上がってしまっていたモンスターを殲滅するだけでいいのだ。




 あれからどれくらいが経っただろうか。兄妹はたまにゲームセンターで回収してきているカルパスをつまみながらおしゃべりしていたのだが。その時間はモンスターが圧死しないほどまでに少なくなり、人の気配を感じるまでの長い時間。


「あ、おにい。人の気配」


「まじで? 早く出るか。かなりのモンスターをせき止めてたのにここにいるのは拙いしな」


 カルパスをアイテムポーチに仕舞い、柵を見るとそこには高く積みあがったアイテムの山。兄妹からしてしまえばそれらはほとんど金にならないほどの価値なのだが、置いていくわけにもいかず。


「回収するぞ。ハルもよろしくアイテムポーチの口の部分を山にくっつければ自動的に仕舞ってくれると思うから」


 今カルパスをしまったアイテムポーチをアイテムの山に当てて、なるべく早く全てを回収し、すぐにその場から撤収する。


 地上に戻ると既にいくつものパーティーが帰ってきていたようで、とても賑やかになっていた。


「おい、そこの兄妹?か。お前らダンジョンにいたよな。死んだかと思って心配したぞ」


 唐突にそう話しかけてきたのはおそらく4層へ降りる階段の前にいた人たちだろう。


「すみません。モンスターが抜けてきたときに足手まといになってしまいそうなので上に逃げてました。それにしてもすごいですね。ほとんどモンスターが上に来てませんでしたし」


「おう、そうか。命が一番大事だしな。後残念ながらモンスターを通さなかったのは俺たちじゃなくてもっと下の連中だよ。あの後は俺たちのところにもほとんどモンスターは来てねえからな。まあ気をつけて帰れや」


「はい、ありがとうございます」


 話しかけてきたおじさんは思った以上に優しかった。てっきり逃げたことを糾弾でもされると思っていたのだが。こちらが子供だからか?

 まあいいか。本当に俺たちの下の階層にいた人たちはまだ帰ってきていないようだし、余計なことを悟られる前に逃げた方が良いだろう。


「じゃあ、ハル。次のダンジョンに行くか」


「うん。疲れたし電車で寝よ」


 大して苦労も無かったダンジョンの記憶はそこまで残っていない。結局はカルパスを食べてぼーっとしていただけだし。だとすれば俺たちに残るのは暇と眠気。

 電車いつだろうなーと、そんなことを考えながら駅へと歩き始める。

 後ろから勇者帰還の報が聞こえてきたのはそんな時だったのだが。


「腹減ったー、眠いー」


「おなかすいたー、ねたいぃ」


 この兄妹だけはマイペースであったのだ。


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