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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
3章 貧乏兄妹は強さを求め龍狩りへ
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45.兄妹は再び人化牛討伐に向かう

「よいしょっ」


「ゥオオォーーガフッ」


 大きく口を上げて遠吠えを上げた狼の、人などぺろりと食べてしまうであろう大きさのその口へ向かってハルは軽く跳ぶ。

 そのまま愛用しているトンファーを振りかぶり、開幕の遠吠えを上げている最中の狼の口を叩き、砕いた。

 その狼は10階層ボス、その名も黒狼。こいつを討伐するだけで中級探索者と呼ばれるようになるほどのモンスターだ。

 ちなみに一般では探索を始めてすぐの人を初心者。5階層ボスのホブゴブリンを倒すことで初級探索者と呼ばれ、15層ボスを倒した探索者を上級探索者と呼んでいる。


 そんな中級探索者の証にもなる黒狼は、開いた口を下から殴られ。その衝撃は脳にまで響く。

 次の瞬間には黒い霧となり消えていくこととなった。

 黒狼の部屋に兄妹が入ってからここまでたったの5秒。中級探索者の証である黒狼ですら、上級探索者を遥かにしのぐ実力を持つ兄妹とまともに戦えるわけが無かった。


「よし、次行こう」


「ここからは階段探しか。黒狼のドロップは、なんだこれ。でか」


 俺は何度も倒したはずの黒狼の見慣れないドロップ品を見る。


「ん? いつもの毛皮、じゃないね。毛皮なんだけど」


 ドロップした毛皮はいつもの毛皮に比べて、大きい。普段ドロップする毛皮は大きさに誤差があるとはいえ、1メートル四方ほどだった。ただ、ここに落ちているのは。


「なんか金持ちが家に飾る虎の毛皮みたいだな」


 まさにそんな感じ。色はいつも通り光沢のある黒一色なのだが、それは丸々狼から剥ぎ取りましたとでも言うような、狼の形をしたままの毛皮。

 とはいえ、黒狼そのままのサイズの毛皮ではなく、毛皮を開いて置いたら4メートル四方ほど。

 元の黒狼の大きさに比べたら遥かに小さいが、これでも普通の虎なんかよりはでかいだろう。

 普段はどのモンスターがどんなものをドロップするかなんて記録に残しているとはいえ記憶していないのだが、さすがにボスのドロップするものぐらいは覚えている。こんなものは見たことが無い。市場には出ていたのかもしれないが、普通のドロップアイテムの方はあまり調べていなかった。


「地上に戻ってから調べてみよ。もしかしたらとてつもないレアドロップかもよ」


「そうだな。戻ったら見てみるか」


 重く、でかい毛皮を軽々と持ち上げ、アイテムポーチに突っ込む。

 そのまま何事も無かったかのようにさっさと歩きだしたハルについていく。

 俺たちからしてみればダンジョンで知らないドロップが出てくることなんて何度も経験しているので、これぐらいは気にするほどでも無かったのだ。

 ただ、少し気になることと言えば今までに何度も倒した黒狼が、俺たちが東京のダンジョンに来て、初めて討伐したときに。いきなりそのような見たこともないレアドロップを出すだろうかということ。

 いったいそれはどれほどの偶然となるのだろうか。


「まあ、いいか」


 10層から出た俺たちはさっさと11層に降りる。

 なんだかんだ言いながらも、何かと図太い兄妹であった。




「おにいー、だるーい」


 俺たちは現在11層を歩いている。それも1時間ほど。

 モンスターを殺して歩くのが面倒になり、今は2人で手を繋いで隠密を発動させながら歩いている。

 俺たちの高いステータスのおかげで疲れることは無い。肉体は。

 当然のごとく精神は疲れるしストレスは溜まる。うん、この状況なんかデジャブを感じる。


「いきなり目の前にぱっと階段が出てきてくれたりしないかね。そうしたら神社行って1000円ぐらいなら賽銭してもいい」


「1000円も出すの? お賽銭に使うんだったら外食できるから外食がしたいな。素材の味は人化牛よりおいしくないけど、やっぱり技術が違うと思う」


 俺たちはドロップアイテムを売ることでだんだんと貧乏ではなくなってきている。今なら高校すらも通うことができるだろう。

 ただ、貧乏は抜け出せても貧乏癖は簡単には抜け出せない。半年ほどの貧乏生活でしみ込んだ、必要以上のお金を使いたくない心情は現在もしっかりと根付いているのだった。


 ふとハルが立ち止まる。


「おにい、遠くでモンスターが一斉に消えた。結構強い探索者がいるみたい。上位の中級探索者?」


「それほどの強さでここらの階層をうろついているとなると」


「うん。強さはあるけど15階層にはたどり着いてないから転移ができない」


「だろうな。ってことは」


 俺はハルに手を引かれながらその探索者のいる方向へ向かう。少し歩くと探索者は俺の把握の範囲に入り、そして消えた。


「階段発見だな」


「このまま追いかければOKだね」


 それほどの強さを持つならこの階層の抜ける道ぐらいは知っているだろう。だとすれば俺たちはそれについていけばいい。

 まあ、知らずに道案内しているということで。相手さんに迷惑はかけていない。


 その探索者たちが消えた場所に行くと階段がある。

 階段を降りると俺の把握の範囲内にその探索者はいた。現在も周囲のモンスターを全て倒しながら迷いのない足取りで進んでいるようだ。


「じゃあ、行こ」


「そうだな。さっさと追おう」


 俺たちはそこから14階層まで。迷い無く歩いていく探索者を全くバレずにストーキングし続けて。結果、無事に15階層までたどり着くことができたのだった。


 ちなみに14階層の階段探しは運よく30分ほどで終了した。



「たのもー‼」


 ハルがストレス発散でもするかのようにボス部屋の扉を殴り付け、ゆっくりと扉が開いていく。


「グギャーッ‼」


 現れたのは人化牛。

 東京ダンジョンの人化牛は岩の上に座っておらず、杖のように斧を地面に突いて立っていた。

 人化牛もダンジョンごとにこだわりでもあるのかね。

 斧を持ち上げて雄叫びを上げる人化牛を見て、のんきにそんなことを考える。


「じゃあ、次はおにいだね。よろしく」


 ハルはトンファーを持つ手を後ろに組むと、軽い足取りで壁際に行き。警戒をするわけでもなく、もたれ掛かった。


「さて、俺も行くか」


 俺は刀にも触れずに素手のまま人化牛に近づいていく。そろそろ最初の攻撃が来るだろう。


「ガァー‼」


 叫び声と共に振り下ろされた斧は光を纏い、衝撃は波となってこちらへと向かってくる。


「初見でこれの時は焦ったよな」


 そんなことを呟きながらも、1歩横にずれることであっさり躱し、そのまま人化牛へと歩いていく。

 そのままゆったりとした足取りで歩く俺に、人化牛は再び斧を振り上げる。

 斧に光が宿るが魔力の流れが先程と少し違う。この流れ方は何度も見たな。実際俺も使っているわけだし、この程度なら問題はない。

 前に人化牛の戦力を見たら160だった。人化牛は近接技能の扱いになるだろうから強度は戦力の3分の2ぐらい。

 今の俺と同等程度だろう。そして俺は双討の証でステータスに補正が掛かっている。だとすれば。


「『パワー』。こんなもんだろ」


 光る斧が俺の無防備な頭に向けて振り下ろされ、俺はそれに向けて両手を掲げる。一瞬に力を込めて、体のばねを利用してしっかりと。手を頭上で合わせる。


 バンッ


 弾けるような音が鳴る。

 当然それは俺の頭を割った音ではなく。振り下ろされた斧を掴んだ音。真剣白刃取りというやつだ。

 斧が振り下ろされた衝撃で風が起こり、俺の着ていたパーカーのフードが落ちる。

 斧は俺の頭より10センチほど上で止まっており、動かない。

 そういえば、と俺は口を開く。


「なあ、人化牛。核兵器って知ってるか?」


 最初に人化牛を倒したとき人化牛は爆弾というものが何かを知っていた。その人化牛は人間と接触したことが無いはずなのに。

 だから今回も質問してみることにしたのだ。前回と同じ爆弾と聞いてしまったら面白みがないし、上級探索者が戦闘中にそんなことを言って学習してしまっているだけかもしれないから。

 だからこその核兵器。前回が爆弾だったから今回は規模を上げてみる。特に意味は無い。戦闘中に核兵器なんて口走るやつはいないだろうという理由はあるが。


 そして。


「動揺したか?」


 人化牛のなんとなく人間味のある動作の中に、なんとなく動揺を感じ取る。


「無言の返答どうも」


 動揺したからか力の緩んだ斧を引っ張り、捻ることで人化牛の手から剥がしとる。

 ポーンと、そんな音が聞こえてきそうなほどきれいに人化牛の頭が宙を舞った。

 斧を人化牛の手から剥がした勢いをそのままに、人化牛の首にぶつけたのだ。綺麗な切り口で返り血が飛ぶこともなく、そのまま黒い霧となって消えていく。


「ちょっと面白そうな反応だったね」


 ハルが後ろからのんびりと歩いてくる。


「爆弾はまだ分かるが核兵器も分かるとはな。意外だった」


「どっかのファンタジーに出てくるダンジョンが地球に転移したのか。みたいなことも言われてたしね。私たちもその説が結構強いと思ってたけど」


「俺もだが、さすがにそんな世界に核兵器は無いよな。魔法で十分だし、威力的にダンジョンの中じゃ使えないものだからな」


「それにダンジョンの中は電気とか使えないんだからダンジョンがもともとあったような世界があっても、そこでは核兵器は起動できないと思うんだよね。ダンジョン内で電子機器が使えないんじゃなくてその世界では電子機器が使えない。みたいな」


「まあ、その説も人化牛が核兵器を知ってた時点で無いってことが分かったわけだけどな。やっぱダンジョンは分からないことだらけだ」


「うん。そうだね。まあ、とりあえずドロップの確認しようか」


 俺たちは人化牛の落としたアイテムの近くに座り、その確認を始めるのだった。


 そして兄妹は忘れてしまっていた。ここへは、刀とトンファーの宝具を得るために来たことを。それを思い出すのはもう少し後になる。

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