44.兄妹は情報を集める
「おにい、疲れた。ダンジョン行こ」
「いや、もう少し調べてからな。しっかり決めただろ」
リムドブムルと再会してから数日。俺たちは午前中に調べ物をして、午後にダンジョンに潜るという生活を送っている。
調べてから分かったのだがダンジョンで採取されるマジックアイテムは思いのほか種類も量も豊富で、あのアイテムポーチ(極小)なども毎日数個は見つかるほどらしい。値段も順調に下がっており、今では高い車を買うぐらいの値段で買うことができている。
金持ちの家の人などが普段から身に着けていたり、この前は有名動画投稿者が購入し、紹介したことで話題になった。
そりゃあ100キロも入るのだから使い勝手はいいよな。山登りがポーチ1個あればできるようになるし。何で山登りを例に出したかは不明だが。
ちなみにマジックアイテムとはダンジョンで手に入れることができて、ダンジョン外での使用が可能な超常現象を起こすものの総称だ。
まあ、そんなことは置いておいて。
そして最近は週に1度ぐらいのペースでアイテムポーチ(小)も発見されているらしい。これの値段は大きく跳ね上がる。大企業が大金を持ちオークションに参加するため。個人で入手するのはまず無理な状況だとあった。
この程度の情報すらも知らなかった俺たちはつくづく情報弱者だなー、と思ったりもした。
まあ、つまり何が言いたいかと言うと、思ったよりもアイテムを売っても目立たないということだ。
とは言え俺たちもそれほど売れるアイテムがあるわけではないのだが。そんな高価なアイテムが市場にどんどんと排出されていくのだから、やっぱり数の暴力って偉大だ。
そんなことを知った俺たちは急遽今まで得たアイテムを整理し、そこそこの値段で売れそうな物を集めてみた。
いくらマジックアイテムが何個も見つかっているとはいえ、高価なアイテムを売り出したら特定される可能性は高いし、そこまで高価でないアイテムであっても個人がいくつもオークションに出品していたら目を付けられることだろう。
最近では大企業がオークションを設けるなどをしているらしく、国が主導して行っていたオークションは近々閉められるということだ。
複数の大企業がオークションを行うのならば様々なところに匿名で出品すればいいのだ。
勿論匿名とはいえ金銭の関係や安全管理のために企業側に自分の名前が残ってしまうが、その情報は匿名として扱われる。
つまりマジックアイテムの購入者も他の大企業も誰が出品したかは分からないのだ。そうすれば多少は売れるアイテムの数も増やせるはず。
とはいえ、実際は企業同士で横のつながりがあるかもしれないのでそんな危険なことはできないのだが。
大人の世界の恐ろしさは知らん。子供だし、いくら警戒しても損は無いだろう。
というわけで俺たちは週に1度というペースで東京ダンジョンに潜ることに決めたのだ。
決めたのだったが。別の情報でその予定は崩さざるを得なくなってしまった。
ダンジョン15層のボスである人化牛の初回限定ドロップ品である宝具は、別のダンジョンの15層のボス、人化牛を倒すことでも手に入れることができる。
ただし、同時に起動できるのは自分の持つ技能の数だけ。つまりは2個。
色々情報を調べてみたが技能が3個という話は聞いたことが無いので基本2個なのだろう。
これは通称日本最強である勇者御一行が発見したこと。
北海道ダンジョンの15層を攻略したことでパーティーの4人全員が2つ目の宝具を手にしたらしい。ただ、2つ目の宝具も形こそ違うけれども武器の種類は同じだったため、使い道があるのは男2人だけだった。
そしてその情報を受けてあるパーティーが動き出した。
パーティーネーム893
最近では自分たちのことを最強の検証班などと名乗り始め、日本におけるダンジョンの調査を行っている。
調べられた情報はあっという間に民間にリークされることから探索者から人気を集めている。
ついでというわけでもないが5強の人気度はどうなっているのかと思い調べてみた。まあ、調べてみると案の定といったところか。5強やほかのトップ探索パーティーの人気について調べたサイトがわんさか出てきた。
1番の人気はガン・セーンを討伐したことになっている勇者御一行だと思っていたのだが、実際は違うらしい。
ネット上で投票することで人気ランキングが付けたらしい誰かのブログを見てみる。ブログを書いた人は有名らしく投票人数は5桁に行きそうなぐらい。
そして結果は。
2位との圧倒的大差をつけて堂々の1位。
美しすぎる女性だけのパーティー。『大和撫子』
このパーティーは全員美人なうえに強いということで、男どもの票を一気にかっさらっていったようだ。不仲説が出ていたりもするが、有名人の団体は何処だって不仲説は出ているのだからそんなものだろう。
そして2位が、『勇者御一行』
今更特筆する点は全くない。
3位は強面で人当たりが良いことで有名な自称検証班の『893(パックサン)』
4位は女性だけの武道経験者だけでできた『葡萄会』
ただ普通に強い。実力としては勇者御一行の次に強いだろうと言われているようだ。
そして最後は『上腕二頭筋』
この人たちも強いらしいけど、まあ、筋骨隆々のおっさん4人組ってだけだから当然人気は高くない。
さて、ずれていく思考を戻していこう。で、893は何を検証したか、だった。
検証したのは2つ目のダンジョンの15層を攻略するときに持っていた武器についてだった。
勇者御一行も、他の一般探索者もある程度経験を積んでから武器を別のものに変える人はまずいない。同じ剣の技能であっても、片手剣と両手剣は全く使い方が違うし、一見似ているように思える片手剣と刀も全くの別物だ。
刀の使い方で片手剣を使ったら威力が足らないし、片手剣の使い方で刀を使っていたらあっという間に刃こぼれし、曲がってしまう。
893はそこに目を付けたのだ。使う装備を替えたらもらえる宝具も変わるのではないかと。
893もメイン武器の宝具は既に手に入れている。
ということで、全員がメリケンサックという異色の組み合わせでなんとか人化牛を討伐したところ、手に入った宝具はメリケンサックや関節部分に金属の埋め込まれたグローブなど。全員が自分に合った拳の装備だったのだ。
そこで893が付けた結論は手に入る宝具は技能に関係なく、人化牛戦で自分が使用した武器種であり、その中でも自分の戦い方に合った物になるということだった。
というのも893のうち1人はずっと手刀で戦っていたらしいのだが、出てきた武器は、手を手刀の形にすることで固定できるグローブだった。その代わり殴る威力は軽減されていて、しっかりと戦い方に合わせられていることが分かったのだ。
ということでとりあえず俺たちは引き続き東京ダンジョンに潜り、人化牛を倒すことに決まったのだ。
で、刀とトンファーの宝具を手に入れる。ということをハルと一緒に決定した。
残念ながら俺もハルも1つ目の宝具が両手で持つ武器のため同時使用はできないのだがいつか役に立つときが来るだろう。
世間では当たり前になっているが俺たちの知らない情報は他にもいくつもあった。だからこそ情報収集を初日でやめずに毎日の午前中を費やすことに決めたのだった。
情報は引き続き集めていかなければならない。それであって、引き続き強くなる必要もあるのだ。すべては娯楽のため。
飽きてしまった森のエリアから脱出するために。
兄妹は苦労を惜しまない。
いや、やっぱり苦労は嫌かもしれない。




